第28話 【洗礼】前日 ドM達もいるよ! その一
「……で、この迷惑しか起こさない三人組でどこに行くんだ?」
「あ、海流も自分がその一人だって分かってたんだ」
「瑠乃ちゃんって海流君に正直に言うわよね」
俺達は【洗礼】前日に集まり、外に出ていた。その際――桃華達と話して決めたのだ。
身バレをもうちょい隠せるよう、せめて本名で呼びあおうと。
『私の名前は桃川つぼみよ。好きに呼んでちょうだい。性奴隷でもにくべ『じゃあつぼみで』』
という事で、桃華改めつぼみに自己紹介をして三人で歩き出したのだ。
「今日は配信休みだよな?」
「うん、そうだよ。親睦を深めようかなって。ほら、明日色んな人と会うし。つぼみちゃんとも同期だし、仲良くなりたいなって」
「……い、良いわね。ついでに海流君とも
「すっごい嫌な言い方をされた気がする。……で?今はどこに向かってるんだ?」
「近くに美味しい所があるから。そこでお昼食べようかなって」
という事で三人で歩いているのだが……凄く見られる。
それも当たり前だろう。俺の隣に居るのは……見た目だけを見れば美少女なのだから。
片方は百人が居れば百人が振り向くような美少女。もう片方は美少女ロリ巨乳なのだ。そんな二人の真ん中に男が居れば目立ちもする。
「見られてるわね……首輪を付けてもらえば良かった」
「ついでに海流と私で仮面付ければそれっぽく見えるのにね」
「時期がハロウィンだったとしても職質一直線だよ。SNSで即拡散だよ。あとついでに身バレもするよ」
いや自分で言っておいてなんだが。身バレがついでってなんだよ。危機感持とうよ。
「そういえば、明日の【洗礼】って何やるんだろうね。やっぱり性癖破壊ゲームとかかな」
「洗礼の時点から罰ゲームじゃねえか」
「え……ご褒美じゃなくて?」
「つぼみはちょっと黙ってような」
「は、はい……ご主人様」
「すっげえ周りに見られるからやめろその呼び方」
今のご主人様呼びですれ違った男子小学生が凄い勢いで振り向いた。お前はこんな高校生にならないようにな。
「海流はあの歳から私で性癖拗らせてたもんね」
「お前のせいって自覚あるのかよ。つか別に拗らせてないから」
「えっ……拗らせたってり、リョナ? わ、私、海流になら別に何をされても……」
「そこまで行くと怖ぇし違ぇよ。そんな趣味はないから」
もう本当に彼女は真性らしい。とりあえず無視だ。
「【洗礼】か。今までのはアーカイブで見られるんだよな」
「うん。色々あったね。FPSとか人狼ゲームとか。後は即興寸劇とかも」
「……即興寸劇なら二人に勝てる人いなさそうだけど」
「別に今まで寸劇とかやった事ないぞ」
瑠乃が配信でめちゃくちゃやったのが今に繋がっているだけであり、演技とかは……そこまでしていない。多分。
「後は……結構アーカイブが多いから見切れてないんだけど。体力テストとかローション相撲とかあったね」
「その二つを並べるのなんかおかしくないか。いや、別に良いんだけど」
「体力テスト……三角木馬とかあるかな」
「あってたまるか」
しかし、体力テストか。……まあ、瑠乃が居るしどうにかなるか? 俺もそんなに極端に悪い訳じゃないし。中の上くらいはあるはずだし。
「ちなみに罰ゲームは?」
「秘密」
「またそれか……」
ちなみに、俺はアーカイブを見る事に制限を掛けられている。初見の反応が楽しみだからと言っていた。俺が知っているのは【Vtop】に所属しているVtuberの名前と顔、性格くらい。
現在【Vtop】は五十名程だ。確かに多いが、それより多い事務所はたくさんある。【Vtop】が今現在Vtuber界隈でも覇権を取れている理由は一つ。
キャラが濃いのだ。めちゃくちゃ。
……まあ、そこは実際に会うだろうし割愛しておこう。俺も実際に会ってから判断したいし。
「ちなみに今回はどれぐらい時間かかりそうなのかな」
「んー。一日二グループとやるとして、五日かな」
「そうやって考えると長いな。毎週日曜だから一ヶ月と少しか」
大体……というかほとんどのグループが五人一組である。俺達が三人組(?)な事を考えると、Vtopではイレギュラーな存在ではある。
「……いや。現実世界でも割とイレギュラーな存在だと思うんだが」
「え? じゃあ常識無視していいの?」
「やめて! 腕を引っ張っていかがわしいホテルに連れ込もうとしないで! おま……ってあっぶね。ここで呼んだらガチで来るじゃねえか」
というかこんな会話をしていては身バレしてしまうかもしれない。いやバレるだろ。隠せよ俺ら。
「あ、ここだよ。予約してた所」
「ここ……ってめちゃくちゃ高いって噂の焼肉店だよな」
「あ、つぼみちゃんのは私達で払うから安心してね。この前のお礼でもあるから」
「あ、やった。じゃあ言葉に甘えようかな」
まだ動画サイトからの振込はされていない。来月末らしい。しかし、その前のボイスやら天井達の配信のへの参加などから、めちゃくちゃな量を貰ったのだ。一食ぐらいなら影響は無い。
「ちゃんと個室取ってるから安心してね」
「なんかどんどん瑠乃にダメ人間にされてるような気がする」
「……私も収益化したら全部海流君に貢ぐつもりだし」
「そういえばこの子めちゃくちゃお金投げてくるんだった。すっげえ複雑な気分」
一応同じ歳である。しかもこうして顔まで合わせる仲なのだ。
「まあ、それは後で話そ」
そう言って中に入る瑠乃に続いて俺達も入る。
受付で瑠乃が話していると、気になる言葉が聞こえてきた。
「お連れ様の下へご案内します」
「……連れ?」
まるで誰かが待っているような言い方。それを疑問に思っていると、瑠乃が意味深な笑いを見せた。
「え、大丈夫? これ。屈強な男に羽交い締めにされて瑠乃に襲われるとかない?」
「ずるいよ! 海流君!」
「そのコメントを返せるのはつぼみくらいだわ」
「大丈夫大丈夫。顔見知りだから」
「余計不安になってきた」
顔見知り……誰だ。
「まさか親友Aか!? ツッコミで過労死しかねない俺を見兼ねて取り繕ってくれたのか!?」
「海流に黙って他の男を誘ったりしないって。というか親友に対してその言い方はどうなの?」
「まさか瑠乃に正論で諭される日が来るとは」
ぐうの音も出ないとはこの事である。親友Aにもそろそろ優しくしてやらないと見限られそうだ。
そんな事を考えていると、ある場所の前で止まった。そこはとある部屋の前だ。
「中は個室となっております。ごゆっくりお過ごしください」
「ありがとうございます」
そう言われて中に入ると――
「お、来たね」
「先輩を待たせるとはいい度胸してんなぁ?」
「ちょっと時間遅れたらカツアゲしてくるタイプの先輩!? ……なんでここに二人が」
「実は二人に呼び出されてたんだよね」
「そういう事は先に言ってくれないか」
「まあまあ、とりあえず座って座って」
「……それで、何の用なんだ?」
「いやまあ、そんな構えないでよ。明日から【洗礼】だからさ。先輩風吹かせにきたみたいな?」
「それでカツアゲか……」
「いやカツアゲは別にしないけどね!? カナちゃんも見た目怖いんだから、可愛い後輩を怖がらせないで!?」
「えー。でも初手で舐められたら腕とかポッキリイカれるじゃん」
「初対面じゃないでしょ! あとその元ヤンも出さない!」
「はぁーい」
「元ヤンというか元ヤク……いや、やめておこう」
俺がそう言っていると、芦澤がああ! と大きな声を出した。
「そうそう、収益化配信一期生の皆と通話してたんだけど。みんなめっちゃコラボしたいって言ってた。人気者で良かったなぁ」
「恐れ多すぎるので辞退します」
「まあそう怖がらないでって。というかどっちにしろ洗礼でコラボするんだし」
「それはそうなんだがな……もしかして天井達の出番は明日なのか?」
俺がそう聞くも、天井は首を振る。
「一期生は最後だね。明日は三人と一番デビュー時期が近い……と言っても三ヶ月くらい違うけど。彼女達だね」
「……なるほど」
となると――あの五人か。
その事を考え、思わず頭を抱えてしまった。
「初手から山場か」
「明日は男の子、カイリ一人だけだもんね」
「女の子しか居ないなら露出プレイも大丈夫って事よね……?」
「何をどう考えて大丈夫だと判断したんだ。というか俺が居るだろ」
「気持ちよければ良いかなって」
「思考が犯罪者」
そんな会話をしていると、天井が「さて、」と仕切り始める。
「とりあえず注文済ませちゃお。いつまでもおしゃべりするのは迷惑だからね。はい、パネル」
「ああ、ありがとう。……二人は何頼む?」
「カイリ!」
「
「なんとなく予想してたよ。……まあ、種類も多いからゆっくり決めてくれ」
「私はコーラ頼もうかな」
「職質されるからやめてくれみっちゃん。もう嫌だからね。未成年飲酒疑われるの」
「コーラで未成年飲酒……?」
「まあまあ。今日くらいは良いじゃん。さ、頼もっか」
――という、高級焼肉店で本来行われるはずがない会話とともに、食事会が始まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます