第26話 収益化記念配信! ドMも居るよ!
夜。俺達はVtopが運営しているスタジオの一室を借りていた。福利厚生豊かすぎないか。まだ正式に加入してないんだぞ。
……一応、というか。ちゃんとマネージャー(になる人)から許可は取っていたし、俺も聞いたのだが。
どうしてここまでしてくれるのか、と思ったが。どうやら
それはそれとして――ついに始まってしまった。
「こん瑠花〜! いっぱいお金ありがとうございます! 今日貰ったお金でら、らぶ……えっちなホテルで何日泊まれるかな耐久をしようと思いますので!」
ニコニコとした笑顔で瑠花は挨拶をする。作った笑いではなく、自然な笑いなのは……本人曰く、俺の傍に居るからだとか。
いや、分析してる場合じゃない。
「もっと有効活用しろ。つかラブホに住む気か。あとお金って生々しいんだよ。あ、こんカイリ〜」
『挨拶が長いし重くて草』
『朝飯にキング牛丼のハンバーグ乗せ出てきた後にボディブロー食らった気分』
『ラブホ代:50000¥』
「ありがとうございます。有効活用します。具体的には少子高齢化に貢献しますからね」
「もうツッコまんぞ。というか待って。サラッと五桁のお金投げないで。もっとお金大切にしません?」
『分かった:40000¥』
『オカネ タイセツ オボエタ:50000¥』
『学生でごめんねカイリきゅん……:30000¥』
なんでだよ。なんで増えるんだよ。ポケットに入ったビスケットかよ。叩いてねえのに増えてるぞ。運営! デバッグしろ!
『これで今月の給料全部だよカイリきゅん……俺の分まで美味しいのいっぱい食べてね:50000¥』
「重い! 全部……全部!? いや嘘だよな!?」
「ちなみにその人からのはそれで30万円目だよ」
「シャレにならないが!?」
ガチじゃねえか!? 値段が! 給料じゃねえか!
「いやもう……めちゃくちゃにありがたいけど。一回この波止めてくれませんか?」
『分かったよカイリきゅん……あと一回だけね:10000¥』
『これでファイナルラストにするね……:30000¥』
『あのRPGだって最後って言いながら10何回も続いてるしいけるやろ:20000¥』
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
『鼓膜破壊たすかる:3000¥』
『鼓膜代:5000¥』
もうなにをしてもこの波は止められないと言うのか。視聴者の脳まで破壊してしまったのか俺は。
「後でまとめて読ませてもらうね。今読んだら他の話何も出来なくなりそうだから」
『りょ:6000¥』
『まだ中学生だから出来ないのが悔しい……』
色とりどりの画面の中、そんなコメントもちらほら出てくる。
「……言っておくが。お金を投げられないからとかで視聴者を差別するつもりはないからな」
「うん、そうだね。その辺はしっかりしておかないと。時々お金を落とせないから〜とかで自分はファンじゃないって思い込む人とか居るからね。配信やアーカイブを見てくれるだけでも、SNSで見てくれるだけでも。等しくファンだからね」
その辺は俺よりもイラストレーターをやってる瑠花の方がわかっているのだろう。ニコリと笑いながらそう言った。
『ちゃんとその辺理解しながらお金を落とそうな! お前ら!:10000¥』
『ありがとうカイリきゅん……瑠花チャソ……』
……もうお金に関しては諦めて感謝しよう。なんか凄く潔くない言い方だな。
すると、瑠花が画面からこちらに目を向けてきた。
「……どうする? 一回とんでもエピソード挟んどく?」
「そうだな」
『そ う だ な』
『なんで今とんでもエピソード挟もうとした……?』
俺としたことがつい脳死肯定人間になってしまった。いや、ちゃんと理由はあるんだ。
「なんか真面目な瑠花を長時間見てると蕁麻疹が出そうでな……で、なんかあったか? ありすぎて思い出せないんだが」
「じゃあ無難に夏休みの事でも……? 去年のとか」
「あぁ……俺の部屋に居た時の」
『夏休みで二人きり……何も起こらない訳もなく』
『何も起こさない訳がないんだよなぁ:5000¥』
『カイリきゅん苦い顔してて草』
あの時の事を思い出すと思わず顔を歪めてしまっていた。
「いや、しかしな……あれはやりすぎだろ」
「さすがに私も反省したからね」
「頼むから他の事も反省しろ」
一つため息を吐いて。俺は色とりどりなコメント欄を覗き込む。
『wktk:6000¥』
『楽しみ』
さすがに最初の勢いは衰え……てないな。多いな。まあそれは良いとして。
「夏休みが始まってから半月くらい。瑠花が俺の部屋で寝泊まりしてたんだよ」
『……? いつも通りでは?』
『いつも通りっぽいけど麻痺してるんよ。普通年頃の男女は同じ部屋で寝泊まりしないんだよ』
……まあ。同じ部屋に居るのは慣れてるが。というかそもそも。
「瑠花が寝泊まりしてる事を知らなかったんだよ。俺が」
『????』
『え???』
『知らなかった?』
案の定コメント欄は困惑の渦だ。俺は頷き、言葉を続けた。
「こいつ。夜は俺が寝た後に忍び込んで隣で眠って、朝は俺が起きるより早く起きて帰っていったんだよ」
『何それこわ!?!?!?』
『やってる事ストーカーの上位互換で草』
『えぇ……?』
『洒落怖会場はここですか……?』
分かる。俺もめちゃくちゃ怖かった。朝起きたらベッドから瑠花の匂いがしたし。
「いやもうめちゃくちゃ怖かったぞ。夜トイレに起きた時に隣に瑠花が居た時とか」
「夏休みってなったらカイリと会える回数も減るから寂しくて」
「毎日家に来てただろ。海まで連れ出そうとしたし」
『毎回思うけどなんで許してるの???』
そのコメントを見て、思わず笑ってしまった。
「なんでって。瑠花だから、以外の理由はないな」
慣れた、というのもあるが。瑠花ならばなにをしてきてもおかしくないと思ってはいるが。
嫌だとは思っている。しかし、あくまで表面的なもの。好きな異性にからかわれているような感じ、と言っても良い。
さすがに超えてはいけないラインはあるが。今のところそこを超えて…………。
「お前って超えてはいけないラインを反復横跳びするよな」
「癖になってるんだよね。反復横跳びするの」
「そんなキ○アは嫌だ」
嫌だろ。気がついたら反復横跳びしてる暗殺者とか。暗殺出来ねえだろ。動きがやかましいわ。
『てぇてぇ……?』
『てぇてぇということにしておくか……』
『これ、カイリきゅんが洗脳されてるだけなのでは?』
その可能性は高い。……いや、まあ。
「もう家族みたいなもんだからな」
「そ、そんな……新婚イチャラブおしどり夫婦で朝までハッスルしたいなんて」
「言ってない言ってない。一文字も合ってないから」
「す、睡眠不足はお肌の天敵だもんね。じゃあ寝ながらすれば……三大欲求のうち二つが解決する!?」
「あれ? もしかしてさっきので鼓膜破けた?」
「鼓膜破壊されればされるほど強化されて再生されるから。大丈夫だよ」
「環境に適応するタイプの異星人か。というかそんな高頻度で鼓膜破れてるわけ……ないよな?」
今思えば俺、割と叫んでた気がする。だから配信でも大きな声が出せるんだし。
『不安になってて草』
『
『
誰が飼い主だ。ペットにした覚えもない。
すると、瑠花がくりくりとした瞳を俺に向けてきた。
「そろそろ一回呼んどく?」
「一杯いっとく? みたいな感じで呼ぼうとするな」
「まあもう呼んでるんだけどねー。桃華ちゃん、え、えっちな事とか……してないよね?」
「し、してないよ!」
「展開が早い。視聴者が置いてきぼりになるだろうが。あとお前の羞恥心どうなってるんだよ。それと桃華も隠す努力をしろ」
いきなり画面に桃髪ツインテJKが現れる。その顔は真っ赤であった。
『桃華ちゃんキタ━(゚∀゚)━!:50000¥』
『カイリきゅんの過労きちゃぁ!:10000¥』
『鞭代:50000¥』
ああもう、こうなるのか。こうなっちゃうのか。また真っ赤だよ。
ちなみに……このお金は桃華に入らない。折半する事も考えたが、桃華が全力で拒否してきたのだ。
『桜浜桃華:カイリ君!
『桃華ちゃん!?!?!?』
これだ。理由は。貢ぎたいらしい。
「ファンサって付けば何でも許されると思うな。つか俺はホストでもなんでもねえぞ。ダメ男に貢ぐメンヘラ女みたいな事をするな。このド変態」
「あ、ありがとうございます!!!」
「ツンデレカイリ……! ご飯三杯はいけるよ!」
「助けて視聴者」
『助けてと言われたので:30000¥』
『ごめんね……お金しかあげられなくて10000¥』
『クレカ限度額まで助けます:50000¥』
「だああああああ! やめろ! 撤回! 助けるな!」
なんでこいつらはすぐ金を投げるんだ!? 俺を教祖か何かとでも思ってるのか!?
『
「蜜さん??? なんで居酒屋に入るノリで三万投げてんの?」
『天井蜜:え? 足りなかった?:50000¥』
「誰か! 先輩になるであろう方からマネハラを受けてます!」
「ここで説明。マネハラとはマネーハラスメントの事であり、簡単に言うとお札でビンタされる事である。まあ今考えた嘘なんだけど」
『解説たすかる……って嘘かい:10000¥』
『マネハラすっかぁ:30000¥』
もう怖い。どれぐらい金額が積み上がってるのか見たくない。お金こわい。やだ。
六桁で済んでるよな……大丈夫だよな。SNSのトレンドに『新記録達成』とかあるけど違うよな。多分近所の山田大輔さんが連続ピンポンダッシュのギネス記録を達成したとかに決まってる。迷惑すぎるだろ山田大輔さん。
「カイリ、そろそろ戻ってこないとえっぐいべろちゅーするよ」
「はっ……山田大輔さんの世界記録は?」
「誰よ! その男!
「独占欲があるタイプの奴隷かよ。つか山田大輔さんは奴隷じゃねえ。ただのご近所さんの山田大輔(仮称)さんだよ」
『そろそろ頭おかしくなってきた』
『知らないのか? この配信は頭ん中カラッポにして脳死でコメントとお金投げるんだぞ』
『そっかぁ:50000¥』
もうダメだ。この配信。さっさと終わらせなければ。
「という事で終わろう。そして帰ろう。もうやばい。視聴者の口座がやばいから」
『桜浜桃華:心配してくれるの♡嬉しい♡:50000¥』
「桃華さんコメントだと雰囲気変わるね!? ホストに貢ぐダメ男製造機みたいになってるよ!?」
「そ、そうかな?」
「桃華ってもしかして三重人格くらいあったりする?」
本気で言っているのか惚けているのか分からない。いや、もうどっちでも良い。
「とりあえずさ。配信終わらない?」
「え? まだ始まって三十分しか経ってないけど」
「まだ三十分しか経ってないってまじ? 三日の間違いじゃない?」
濃い。濃すぎるぞ。何もかもが。
「あとやりたい企画もあるから」
「すっごい嫌な予感しかしない」
「という事で!『収益化記念! カラオケ対決! 罰ゲームもあるよ!』を始めるよ!」
「すっごい嫌な予感しかしないパート2」
「わーぱちぱち!」
俺達の言葉に合わせて桃華がわざとらしく拍手をする。どうやら知らなかったのは俺だけらしい。
『純粋に喜ぶ桃華ちゃん可愛いからお金投げとこ:50000¥』
『俺も:6000¥』
『
もうカラフルなコメント欄は一旦置いておこう。大先輩も一旦無視だ。
……歌うのは嫌いじゃないので。少しわくわくしてしまった自分が嫌になりながらも。
俺は頭を抱え、ため息を吐いたのだった。
次回 収益化記念配信! 地獄のカラオケ編!
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