幼馴染とVtuberを始めたんですが、初手配信で大バズしてしまいました。――わあ。登録者が鰻登りだ（白目）

第24話 日常……？回

「動物園の動物みたいな気分」

「……？　やっぱり興奮するって事？」

「そうはならんやろ」

　現在学校である。最近濃い日々が続いたので学校が久しぶりな気がする。もっと日常増やさない？　ねえ？

「まあまあ。露出プレイの一環って思えば……ね？」

「ね？　じゃねえよ不可能だよ」

　ちなみに学校なうなんだが。外の人が凄いのだ。

「多分私達の事バレたんだろうね。なんでだろ」

「思い当たる節しかねえよ。個性の塊だろ俺ら」

「分かってんじゃねえか……」

「あ、親友A。二週間ぶりくらい？」

「アホか。先週も会っただろうが。つかいい加減名前で呼べ」

「おお、悪い。親友A。……悪い、悪かった！　やめてくれ！　レーヴァテインを教室で流さないでくれ！」

　昨日の配信を流そうとする親友Aを強めのグーで殴る……のは炎上しそうだったから抓る程度にしておいた。

　さて、そろそろ親友Aの説明を――

「というか本当に大丈夫なのか？　お前達」

「おい……今お前の説明をしようとしてたんだぞ」

「誰にだよ。今配信やってないだろ」

「確かに」

　一体俺は誰に向かって親友Aを説明しようとしたのだろうか。真相は深まるばかりである。

「で？　何だって？」

「いやお前らだよ……身バレ。特定とかヤバいって言うだろ」

「まあ。ヤバいな。普通に。吐きそう。吐いていい？」

「メンタル弱っ」

「俺のメンタルなめんなよ。絹ごし豆腐ぶつけられたら崩れるんだぞ」

「弱っ。せめて木綿豆腐くらいまでは耐えろよ」

「頑張って耐えられるようにする」

　いやそんな事はどうでもいい。豆腐とか本当にどうでもいいんだよ。

「という事で瑠花……じゃない。瑠乃はどう思う？」

「もうお前隠す気ねえじゃねえか」

　最近配信モードが続いていたので、つい瑠花と呼んでしまった。

　瑠乃はうーんと俺の手を握りながら何かを考え。

「大丈夫じゃない？」

「いや軽いな」

「む。私は重くないもん。ほら」

「やめろ。乗っかるな。また生徒指導くらう事になるから」

「ぎゅー」

「抱きつくな！」

「お前らまじで隠す気ねえな！？」

　そうである。ここは動物園の檻の中も当然。衆人環視の中に居るのだ。

「大丈夫大丈夫。ちゃんと脅してるから」

「穏やかじゃない言葉だな」

「もしバラしたら家族に何かあるかもねってみんなの家に手紙置いてきたから」

「怖い怖い怖い怖い。なんでそんな事出来んだよ」

「友達に手伝って貰った」

「友達って悪魔だったりする？」

「んー。どっちかっていうと魔王？」

「レベル高ぇなおい。勇者呼べ勇者」

　まあ……瑠乃が大丈夫だと言うなら良いか。いや良くねえな。さすがに思考停止が過ぎるぞ。

「という事でほら、散った散った。見せもんじゃねえぞ」

「その体勢で言うのかよ……」

「こいつがしがみついて離れないんだよ」

　俺が立ち上がって教室の外を追い払うようにシッシッとやっている間。瑠乃はコアラのようにしがみついている。腕の力すごいな。

「今お前ら絵面すごい事になってるぞ」

「語彙力を磨け親友Aよ。それはそれとしてアレがこれしてやべえなおい」

「ブーメランが腹突き破ってるぞ」

　人集りがすごい。全然散らない。というかなんでこんなに居るんだよ。

「あ、俺達が有名Vtuberだからか」

「お前案外余裕あるな？」

「無いが？　吐いていい？　ちょっとカバン貸して」

「おま、何に使う気だ。やめろ！」

「もったいない！　海流、吐くなら私に！」

「ああもうカオスだよ」

「俺のセリフを取るんじゃねえ。お前もVtuberにしてやろうか」

「現役Vtuberが吐いていいセリフじゃねえんだよそれ」

　さて。そろそろ本格的に取り返しがつかない事にってきたな。スマホ構えてる奴も居るし。

「それじゃあここからは私の出番かな。海流、あっちまで歩いて」

「俺はタクシーじゃねえ。てかこんな所先生にでも見られたら今度こそ停学だわ。歩け」

「しょうがないわねー」

　わざとらしくそう言って瑠乃は降り、教室の外の人集りに向かって歩く。

　なんとなく、俺も瑠乃の後ろに続いた。少し不安であったから。

　瑠乃が扉を開けて。スマホを構えていた男子生徒に話しかけた。

「ねえ、今撮ってたよね」

「へ？」

「それ、ネットに上げたらどうなるか分かってる？」

　瑠乃がスマホを取り出して。チャットを開いた。

「私ね、これでもイラストレーターだから。仲のいい弁護士さんとか居るんだよね。……言っておくけど。私、海流絡みなら遠慮とかしないから」

　瑠乃が画面を切り替えて、スマホをカメラにしてパシャリと人混みを撮った。

「今後、もし上がってるのが居たら……覚悟はしておいてね。示談とか和解は受け付けないから。もう一つ言っておくと、最近SNSからの開示請求がすっごく楽になったんだよね。……将来に響かせたくなければ上げたりしないでよ？　こっちも面倒なんだから」

　瑠乃の雰囲気が変わる。

　いや、ニコニコとしているのだが。不思議と圧を感じた。

　……あー。これ、結構怒ってるな。

「私と海流の邪魔をするなら。そして、それが『犯罪』だって分かってやるなら、こっちも出る所に出るからね」

「は、はい……」

「ついでにこの事、広めといてね？　見に来るのは別に良いけど」

　さて、と瑠乃がくるりと振り返る。

「い、イチャイチャしよ、海流」

「お前の羞恥心はおかしいぞ絶対に」

「もー。今のは『怖かった？　大丈夫？　雄っぱい揉む？』って聞くところでしょー？」

「聞かねえよ。一生言う事はねえよ」

「そ、それって。一生一緒にいるっていうプロポーズ？」

「どんな耳と頭してんだ」

「さ、触る？　それとも舐めて確かめる？」

「丁重にお断りします」

　そんなこんなで自分の席へ戻る。すると、当たり前のように瑠乃は椅子を隣に持ってきてすぐ隣に座った。

「……なあ。ちょっと良いか？」

「も、もしかして孫の五歳の誕生日プレゼント決めた？」

「ホームランを打った後に三塁に走るな。次にくる言葉の予測不能が過ぎるぞ」

　ああもう、何を話そうとしていたのかすぐ忘れそうになる。この歳でボケるとか嫌だぞ、俺。

　……ああ、そうだ。

「距離近くないか？」

「気のせいだよ」

「そうか」

「いやもうちょい頑張れよ。諦めるなって」

　ちょこちょこ挟んでくる親友Aを俺はじっと見た。

「な、なんだ？　俺、なんか変な事言ったか？」

「いや、俺達に絡んでる時点で変な奴なのは確かなんだが。……お前もVtuberにならないか？　今丁度ツッコミ役切らしてるんだよ」

「ぜっっってえやだ」

　親友Aへのナンパは虚しく終わってしまった。

　……俺の仕事を押し付けようとしたが無理か。

「……薔薇営業するくらいならTSして私として百合営業してよ、海流」

「当たり前のようにTSさせようとしてくるな」

「怒ったら美少女JKカイリ書いてモブおじとのえっちな本描くからね！」

「可能な限り俺に大きなダメージを与えようとするな」

　誰得なんだよ。……いや視聴者なら喜びそうだな。

「という事で親友Aよ。やっぱり心変わりしてVtuberになったりしない？　俺の負担が半減するぞ？」

「絶対やらねぇ。つかお前もふざける側に回るだろうが」

「バレてたか」

　俺だってそっちに回りたいよ。

　瑠乃が俺の髪を指で弄るのを横目に見て、教室の外に目を向けると。

　誰かが呼んだのか、生徒指導の先生が集まってきた生徒達を追い払っている最中であった。

「そういえば。瑠乃、さっき言ってた弁護士云々って本気なのか？」

「半分嘘だけど半分本気だよ。仲良い弁護士の人は居ないけど。Vtopの人が問題事あったら即対応するから言ってねーって」

「ああ……そういう事か。おばさんの知り合いとかかと思った」

　おばさん……瑠乃のお母さんは大学の法学部を卒業したと聞いている。それなら友人に弁護士の一人や二人居るかなと思っていたが、違ったようだ。

　俺の言葉を聞いて、瑠乃はムッとした顔をしていた。

「おばさんじゃなくてお義母さんでしょ」

「そっちだったか。というかまだ言うのかよ……それ」

「それともひいおばあちゃんってもう呼んどく？」

「どれだけ早く見積もっても二十数年後にしか呼べないぞ」

「二十数年前行動ってやつだね」

「新生児に厳しすぎるなその行動」

　というか。なんなんだこの会話は。配信もしてないのに……というのは今更すぎるか。

「はぁ……瑠乃もそんな事して楽しいか？」

「んー？　すっごく？」

　ずっと俺の髪を弄る瑠乃。まあ、楽しいなら別に良いんだが。

　それなら俺も弄ってみるかと瑠乃の髪に手を伸ばす。

　おお、すごい。サラサラだ。

「……このバカップルVtuberどもが」

「バカップルじゃない」

「そうだよ。ペットも居るよ！」

「桃華をペット呼ばわりするな！　喜ぶだろ！」

　ちなみに桃華のチャンネルも無事伸びてる。最近登録者が二十万人に行ったとか。

「そういえば桃華、ちゃんと学校生活送れてるのか……？　Vtuberやってるって見つかったらいじめられ……いや喜ぶだけだな。心配して損した」

「お前桃華ちゃんに当たり強いよな……」

「ペットだからね」

「おいこら。俺をペットを虐めて喜ぶ鬼畜虐待犯にするな。ご主人様にされるだろうが」

　普通なら陰口にしか聞こえないこんな会話も桃華にとってはご褒美になってしまうのだから恐ろしい。本当に。

　ため息を吐き、スマホで日付を確認する。

「……あと二週間、か。こんな事してて良いのか俺」

　洗礼＆【Vtop】入りは割ともうすぐである。配信などしていたら一瞬だ。

　その時、瑠乃のスマホが鳴った。

「……あ」

「どうした？」

　瑠乃は珍しい事に目を丸くして驚いているようだった。

　俺がそう聞くと、瑠乃は今以上に近寄ってスマホを見せてきた。瑠乃の顔はすぐ隣にある。というかほっぺたをくっつけてきている。

　指摘しようかと思ったが、それより早くスマホの画面が目に入った。

　内容は――

「……え？　収益化？」

　俺達のチャンネルの収益化が出来るようになったという報告であった。