第23話 桃華と初オフコラボ その二
さて。過去一やらかした事、か。
どうしたものかと考えていると。瑠花が何かを考えた様子を見せた後に口を開いた。
「……過去一は放送規制くらいそうだから二十番目くらいのにするね」
『十九個くらい言えないエピソードあるのか……』
「ぐっ……負けた。私は十個くらいね」
「張り合うな。というかなんでそんなにあるんだよお前ら」
悔しそうにする桃華に呆れ。瑠花が得意げに話し始める。
「放送できる範囲でなら。テスト中にカイリを眺めすぎて全教科白紙で出した事かな」
「そういやそんな事もあったな。まじで何やってんだよお前」
『そんな事ですませられるのやべえわww』
『なんで一時間で気づかないんですかね』
あの桃華ですらも呆れた顔で見てきている。
「私でも一教科しか逃した事ないのに」
「お前もそっち側かよ」
なんでだよ。テストくらいちゃんと受けろよ。将来に関わるんだぞ。
「さすがに見かねた先生が放課後受けさせてくれたんだよね。あの時は」
「お前一応成績優秀だもんな」
懐かしいな、教室の前で瑠花が五教科のテストを二時間で終わらせた上に満点取ってるの見てたの。いや懐かしがるなこんな事。
「……桃華がやらかした事ってなんだ?」
「うーん……クラスの女の子にいじめられそうになった時に嬉ションしちゃってドン引かれた事かな。その後いじめっ子の方は学校来なくなっちゃったし」
「『うーん』から出てきていいエピソードじゃないんだよ」
俺じゃなきゃドン引くわ。いじめた側がトラウマ抱えるってなんだよ。
『えぇ……?』
『やはり魔剣に封印して閉じ込めるしかない』
というか真性なのか。ドM気質なのは。あんまり思い出しながらはぁはぁしないでくれ。
「ちょっと気になったんだが。桃華のドMっていつからだったんだ?」
「物心ついた時かな」
「頼むから想像の遥か上を行かないで」
ダメだ。これ以上聞くのはまずい気がしてきた。
となると最後は俺の番だが――
「え? 俺言うの? 二人に比べてパンチなさすぎるよ? 次行かない?」
「……? そういうネタ?」
「ネタじゃねえわ」
瑠花は俺をなんだと思っているんだ。
「でもカイリ君のやらかしってあんまり想像つかないかも。瑠花ちゃんが基本どうにかしてそう」
「……まあ、間違ってはないが」
何かあったかと脳内を探っていると。瑠花がまた首を傾げる。
「南のレーヴァテイン」
「うぐおほっっっっっっっ」
瑠花の言葉に俺の胸は抉れた。いや貫通した。
「や、やめろ! 俺の! 最低最悪の黒歴史を掘り起こすな!!!」
「私はかっこいいと思うけど? 南のレーヴァテイン」
「やめて!」
「レーヴァテイン……えっちな玩具?」
「北欧神話に謝れ」
ああもう、嫌な事を思い出した。
『なんとなく察したけど早く教えろ』
『うぐおおぉぉ』
『視聴者にもダメージ受けてるやつ居るの草』
同士が居るからと言ってダメージが軽減される訳では無い。
『という事は北には誰が居たんだ……?』
「北にはジャックナイフが居たよね。西がエストック、東が……なんだっけ?」
「殺せ……埋めろ……東はフランベルジェだ」
「あ、そうそう。そこの四人で四天王って呼ばれてたりもしてたよね」
「殺゛せ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ええええええ」
『鼓膜破壊は突然に』
『一人だけレベルが違うの草』
『鼓膜がレーヴァテインで焼かれちゃった(笑)』
「おいそこ。限度ってもんがあるだろうがよ」
さすがに煽りのレベルが高すぎる。キレるぞ。いくら温厚で有名な俺でもキレるぞ。泣きながら殴るぞ。
まあそれはそれとして。
「次に行こう」
「……? 逃がさないよ?」
「後生ですから……殺して」
「だ、ダメ! カイリ君が死んだら私のご主人様が居なくなっちゃう!」
「最低の引き止め方だよ。あとお前のご主人様になった覚えはねえ」
「カイリは私のお婿さんでお嫁さんだもんね!」
「その二つが両立する事はねえよ」
『タキシードの上からウエディングドレスを着るんですね分かります』
『お婿さんでお嫁さんなら男性リスナーにも女性リスナーにも得だしなんの問題もないね』
だめだ……この視聴者達ももう手遅れだ。
サラッと話を流せたりしないだろうか。……しないだろうなぁ。
瑠花も話したそうにしているし桃華も聞きたそうにしている。
仕方ない。覚悟を決め――
「カイリの書いてた【天使を滅ぼす方法十選】の表紙に描かれてたのがレーヴァテインだったんだよね」
「あと五秒待てなかった? いやさ……あれなんだよ。覚悟決めよっかなって思った瞬間にこれだよ。さあ勉強しようって思った時にお母さんに勉強しなさいって言われた時と一緒だよ」
「……私は命令されるの好きだけど」
「ドMだからだよ。お前が」
とかなんとか俺は全力で早口を披露しているが。もう俺は自分が何を話しているのか分からない。
『絶妙に書きそうな辺りすっごい鳥肌立った』
『あるよね。天使とか神様的なポジがラスボスになるの。うんうん分かるよ』
『ジャックナイフの妹です。この度は兄が大変ご迷惑をおかけしました』
『北のジャックナイフの妹来て草』
どうせ偽物だろ……そんな簡単に黒歴史四天王が集まってたまるか。
「あと自己紹介。好きな言葉が『捨てる神あれば拾う神あり』だっけ。良い言葉だけどカイリ、意味わかんないで使ってたよね」
「うっ、あっ、うぅ……ぁ」
「……あれ。おかしい。なんでだろう。今のカイリ君見てたら変な気分に」
「やべえ奴のやべえ扉を開きそうになっちまったよ」
『情緒ぶっ壊れてて草』
『ドMとドSを兼ね備えるのは業が深すぎるよ桃華たゃ……』
そろそろ終わらない? 俺の公開処刑。ねえ?
「どう?」
「……? お風呂場で呪文の詠唱してた時の話? 私全部覚えてるよ」
「絶対カイリ殺すウーマンなの? ソシャゲのイベント特攻500%? イベントで集めるアイテムがランキング制度だったら炎上しかねないよ?」
「確か『地の底から舞い降りし
なんでこの子本当に言っちゃうのかなぁ!
というかなんで俺の風呂場での出来事を知ってるんだよ。いや本当になんでだよ。
「どっから聞いてたんだ」
「撮ってただけだよ」
「おまわりさあああああああああああああああん」
「て、手錠プレイがしたいの!? それとも拳銃プレイ!?」
「何をどうしてそうやったらその二つが出てくるんだよ」
「な、ナニをドウしてソウする!?」
「視゛聴゛者゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
助けを求めるがここは特別性防音室。誰も助けに来ない。来るのは喉の痛みとド変態だけである。来ないで(切実)
「という事で次に行こう」
『俺ぇ……やっぱカイリきゅんが一番怖いかもしれない』
『だからこそ良いんじゃねえか』
「俺が言うのもアレだが末期だなこいつら」
瑠花に視線で次に行くよう伝えると、画面が切り替わる。
『三人の得意な教科って何?』
「……保健体育の実技?」
「具体的が過ぎる。あと授業でそんなのやらねえから」
「私はドM実習かしらね」
「さも当たり前かのように言うな。ねえよ。そんなの」
『うーん通常運転』
『となるとカイリきゅんはなんだ……?』
『鼓膜破壊やろ』
『あぁ』
「頼むから普通の授業を受けさせろ」
なんだよ。保健体育の実技とドM実習と鼓膜破壊の授業がある学校って。多様性を大事にしすぎた社会かよ。
「じゃあ次行くね」
「本気? え? 終わらせるの? それで?」
「という事でドン」
『学校でした一番ドスケベエピソード教えて』
ついに来てしまったか……
俺はため息を吐いて。何故かウキウキしている瑠花を見た。
「なんでこんなの選んだんだよ」
「面白いかなって」
「欲に忠実」
「私は縄で最低限動けるぐらいに自分を縛って学校行った事かな。階段の上で面識がない後輩の女の子にバレた時が一番興奮したかしらね」
「サラッと流すにはドロドロしすぎてるんだよ。詰まるわ」
なんなんだこの桃髪淫乱ロリ巨乳は。胸を張るな。ドヤるな。
「む……だめだよカイリ。おっぱいを見るなら私のだけにしなきゃ」
「みみみみみ見てないが?」
見てないが? え? 見てないが? 見てないから。お願いだから胸を寄せないで桃華さん。破壊力やべえですから。
『うーん男の子』
『桃華ちゃんは瑠花ちゃんよりおっきい……メモしなきゃ』
そのコメントを見ながら瑠花は、むーと頬を膨らませた。
「いいもん。大きさじゃなくて柔らかさとかだもん。ね、カイリ」
「俺に振るな。とりあえず話を戻――したくもないな。配信終わらない?」
「この前話した白天使事件の詳細について話したいって?」
「ごめんなさいあれだけは許してください。絶対BAN食らうから」
『詳細が知りたすぎる』
『嫌な……事件だったね』
『てかカイリきゅんの周りネットリテラシー高めの人多くない? 未だにアルバム写真とか流れてこないし』
確かに。それは俺も思った。
いや、ネットリテラシーが高いというのは少し違うかもしれない。
「それをした後の瑠花の報復の方が怖いんだろうな」
「目には目を、歯には歯を。身バレには極刑をが私の信念だからね」
「アンチと厄介ファンを絶対に許さないタイプのハンムラビじゃねえか」
「じゃあ私がカイリ君にビンタをしたら首絞めプレイをして貰えるって事……?」
「ハンムラビ法典を悪用するな。てか釣り合わないだろ」
『何もかもが意味不明で草』
『ハンムラビ法典を利用して快楽を得ようとする人初めて見たよ』
しかし、こんな会話を続けていたらそろそろ怒られそうだ。話を――
「俺達話変えすぎじゃない? 大丈夫? 時間とか」
「大丈夫。最悪泊まりでも行けるから」
「何時間配信する気だよ。明日学校だぞ」
「が、学校をサボって日夜調教……ごくり。カイリ君の鬼畜……!」
「そろそろ法律に頼るぞド変態ピンク」
『編隊ヒーローに居そうだなド変態ピンク』
『鼓膜破壊レッドと狂人ブルー、ド変態ピンクですか』
『日曜の朝になんてものを見させるんだよ』
もう何を話していたのか忘れてしまった。まあいいか。
「さて、次行くか」
「む……まあいっか。まだまだあるし」
どうにかそれ以上の追求は逃れ。配信はどんど進んで行った。
配信が終わる頃には夕暮れになっていて。『#ドMピンクオフコラボ』とかいうタグがトレンド入りしていたのだった。
いやもう。今から次が怖くて仕方がないが。……まあ、初オフコラボにしては正解だっただろう。
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