第22話 桃華と初オフコラボ その一

「は、初めまして! あ、貴方がカイリ君……よね?」


 そう言って頭を思い切り下げるのは……俺よりずっと背の小さい、小学生にも見える少女。……否。小学生とは呼べないか。


 でかいのだ。アレが。何がとは言わないが。


「ロリ巨乳ってやつだね」

「言葉にするな」

 とはいえ。一度言葉にしてしまったのなら仕方がない。


 このロリ巨乳……否。


「桃華、だな?」


 そう尋ねると、彼女は桃色のツインテールを揺らし。それと同時に色々なものを揺らしながら胸を張った。


「そうよ! 私が桜浜桃華よ!」


 これが、桃華と初めてちゃんと出会った日であった。



 少し、説明をしよう。


 今日、俺と瑠花は桃華とオフコラボをするのだ。その為に【Vtop】が運営し、貸し出しているスタジオとホテルを借りた。全て瑠花がやってくれたのだが、事務所も快く貸し出してくれたらしい。

 そして現在は顔合わせという事でホテルの中にいる。

 説明終わり。


「……とりあえず。部屋行くか」


 Vtopが運営しているホテルとはいえ身バレとかも怖い。俺がそう言うと、桃華がピクリと跳ねた。


「は、初めては。……痛くしてください」

「頭の中までショッキングピンクなのかお前は」


 つか普通優しくしてくださいとかだろうが。


「んっっっ」

「【急募 ドMの封印方法】」

『剣に封印して台座に突き刺す』

「聖剣扱いされてた剣を抜いてみたら実は邪神が封印されてたタイプのRPGかよ」


 やだよ。封印されしドMとか。RPGじゃなくてエロゲにありそうだな。


 ……まあいいか。


「なんかもう面倒になったからさっさと行くぞ」

「は、はいぃ、イキましゅううう」

「よし行こう」

「んっ……こ、これが放置プレイ」

「やっぱ帰っていいかな?」


 余りにも先行きが不安すぎる始まりであった。


 ◆◆◆


「こ、ここがホテル……拘束具はどこなのかしら?」

「もしかして世の中のホテルが全部ラブホテルだと思ってる?」

「カイリの手にかかればホテルなんて全部ラブホテルみたいなもんだしね」

「謝れ。俺に」

「ご、ごめんなさい。わ、私はみだらな牝犬ですぅ……」

「お前には言ってねえ。というか何だこの地獄は」


 帰っていいかな。帰ろう。帰って寝よう。


「ほら、早くしないとカイリ帰っちゃうよ。桃華ちゃん、やる事は分かってるよね?」

「は、はい……ひ、暇潰しに私のおっぱ「待て待て待て待て。怒られるから。色んな所に」」


 とんでもねえ事を言い出そうとしてきた桃華を止め。瑠花を睨む。


「というかお前もいつの間にこんな事教えたんだよ」

「いや、私もなんとなく言ってみただけだよ」

「快楽堕ち系のエロ漫画でしか見た事ない言葉が出てくる所だったぞ」


 まあ……さすがにここまで来て帰る訳にはいかないし。


「はぁ……それで、今日は何をやるんだ?」

「オフコラボホラゲー実況だよ」

「お疲れ様でした」


 帰ろうとすると瑠花に腕を掴まれた。


「離してくれ! こんな所に居られるか! 俺は帰る! それで家に帰ったらゆっくり寝るんだ!」

「死亡フラグのハッピーセットやめて。相乗効果でカイリの死亡確率が300%くらいになってるから」

「俺三回死ぬの? ゾンビ化と異形化? ラスボスか?」


 とかそんなやり取りをしながら。俺は適当に座らされた。


「まあホラゲーってのは嘘なんだけど」

「嘘なのかよ。世界一意味のねえ嘘だよ」


 しかし、それだと結局何をするんだ。そう思って瑠花を見る。


「今日は視聴者さんの希望も多かったから。私達の学校性活についての質問回答がメインだよ」

「え? BAN覚悟?」

「わ、私。そんなに濃いエピソードないけど大丈夫かしらね。保健室で一人緊縛プレイしようとしたら保健室の先生に病院連れていかれそうになった事とかしか」

「先生の判断は間違ってねえな。『とか』で括るにはエピソードがでかすぎる」


 しかし、これならばセーフ……セーフか? 本当に?


「動画サイトさん許してください。BANだけは勘弁を」

「大丈夫。Vtopが付いてるから」

「お前良くない方向に思考が進んで行ってないか」

「正直BANになったらなったらで話題性あるし悪くないかなって……」

「そんな事だろうと思ったよ」


 溜息を吐いていると。瑠花がムッとした顔になった。


「嘘だよ。カイリと折角作ったチャンネルが消されたら悲しいよ」

「……瑠花」


 いや待て。


「それなら自重しろよ。今まで危ない発言しかなかっただろお前」

「て、てへっ?」

「誤魔化されないからな」

「……むぅ。私の友達はこれでやり過ごせるって言ってたのに」

「お前の友達がどんなんなのか見てみたくなるわ」


 まあそれは良いか。

 瑠花も俺の気持ちを察したのか、ノートPCを取り出した。


「ちなみにもう質問は吟味しておいたよ。こんな感じね」

 そう言って画面を見せてくる。その画面を見た俺と桃華は――


「うわぁ……」

「うわぁ!」


 対極の反応を見せたのだった。


 ◆◆◆


「こん瑠花ー!」

「こんカイリ……」

「こ、こん、ももかぁ」


『きちゃー!』

『カイリきゅんのテンションくっそ低くて草』

『もうサムネで腹筋割れたわ』

『あれ? 桃華ちゃんの声遠くね?』


 今日のサムネも瑠花が描いたものだ。そのイラストはいつもよりとんでもない。


 俺と瑠花が桃華を椅子にして座ってるのだ。コンプラ的にアウトだろ。


 『※桃華ちゃんは喜んで椅子になっています』


 これじゃ隠しきれねえよ。犯罪臭。


 そして、何より。


「今私達が桃華ちゃんを椅子にしてるからね」

「あ、ありがとうございましゅうう」

「助けて視聴者! この子怖いの! 目ェギラギラさせて『座るわよね? ね? サムネにも描いてるんだし。嘘はつけないよね?』って言ってくるんだよ!」


『初手地獄で草』

『座らされる方が脅されてるの草』

『ドMなのかドSなのかはっきりしろ』


 良かった。視聴者は俺の味方(?)だ。


 というか犯罪臭がやべえんだよ。見た目ロリなんだよ。見た目ロリを椅子にして座るってどんな鬼畜だよ。あとこれで体ブレない体幹すげえよ。


「でもまあ、これだと桃華ちゃんが固まったままだし。そろそろ終わっとこっか」

「えっ……まだ足舐めてないけど」

「何当たり前のように舐めようとしてるんだよ」


 という事で桃華から椅子に座り直し。改めて画面を見る。


「さて。今日はオフコラボという事で、前からこっそり集めていた私達の学校性活についての質問回答をします」

「なんか今イントネーションおかしくなかった?」

「私の学校ドM性活についても回答するから。コメントとかからも拾うからコメントしていってね」

「お前にはもう突っ込まんぞ」


「突っ込まない……そういうプレイ?」と呟く桃華を無視して、瑠花に続きを頼む。


「という事で一つ目はこれです」


『普段学校でどんな感じなの? 時々カイリきゅんの友達っぽい人のSNSが流れてくるけどほんと?』


 あー。……これか。


 俺や瑠花は大丈夫だが。桃華は大丈夫なのだろうか。ちゃんとは聞いてないが。


 まあ、大丈夫だろう。そう思いながら俺は口を開いた。


「先にSNSの方に言及しておくが、本当の人と偽物がいるな」

「でも基本バズってるのは本物だよね。時々私達への解像度が高すぎる人がバズったりしてるけど」

「ああ、そういえばそうだな」


 親友Aの呟きは割とバズっていたな。フォロワーも増えたとか言ってたし。


「ちなみに学校では……最近何かあったっけ?」

「お前最近大人し……くないな。この前体育の後拉致ろうとしてきただろ」

「あれはカイリがえっちな匂いを撒き散らしてたから悪い」


『カイリきゅんがえっちだったなら仕方ないね』

『うーん無罪』


 そのコメントを見ながらも。さも悪くない風を装う瑠花の額にチョップを入れ、桃華を見た。


「ちなみに桃華はどんな感じなんだ?」

「私? ……私、友達居ないからあんまり面白い話出来ないけど」

「……そうだったのか?」

 意外な事で思わず驚く。俺の言葉に桃華はええ、と頷き。


「言わなかった? 私コミュ障だけど」

「……初耳だな。俺や瑠花とも普通に話してたし」

「それは二人が特別なだけ。瑠花ちゃんはコミュ力高いし」


 そういえばこいつ、コミュ力は高いんだったな。電車で赤ちゃんが泣いてたら、あやすついでにそのお母さんと仲良くなるし。迷子の女の子が居れば、親御さんを探すついでに仲良くなるし。


「だから最近では一人でずっと妄想してるかな。カイリ君に――自主規制プレイされる」

「あ、分かる」

「そうか……ん? 今なんて?」

「え?」

「え?」


『やべえ単語が聞こえてきたんやが』

『うーんこれは性春』


 一瞬脳が理解しようとしなかったぞ。学校でなんてことを考えてるんだ。このロリ巨乳は。というか今サラッと瑠花が同意しなかったか。


「……まあいい」


『え? 良いの? 全肯定カイリきゅんになってない?』

『前からなってる定期』


 その辺は俺も良くないと思っている。……どうするべきか。


 いや後で考えよう、うん。今は配信中だし。


「とりあえず次!」

『過去一やらかした事教えてちょ』


 これが二つ目なのか。……いや。テンポよくいかないとな。


 さて、やらかした事か……嫌な予感しかしないが。


 ニコニコとしている瑠花を見ながら、俺は息を吐くのだった。





 桃華とオフコラボ その二へ続く

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