第18話 カイリ、病む
※今回と次回は少しシリアスなお話となっています。次回の後半からいつものテンションに戻るのでご了承ください
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『最近流行ってるVtuber、なんで流行ってんの? カイリ○ホワイト 雨○瑠花』
家に帰って、着替えをした後の事だった。
エゴサをしていると、その呟きとリンクが引っかかった。
俺だけ名前の隠し方雑すぎないか。他に隠すところあっただろ。
……これ。Vtuberのアンチ掲示板、ってやつだよな。
俺は少し、考え込んだ。
この業界。なんやかんやはあるが、視聴者は俺の事を肯定してくれている。
……それで、良いのだろうか。
いや、悪くは無いだろう。今の伸び方でも十分……というか、異常と呼べるほどだ。
しかし、いつかは頭打ちになる日が来るだろう。その時どうするべきか。
アンチ、と言われるが。裏を返せば、俺や瑠花の悪い所を知っているという事でもある。そこを知り、変えることが出来れば……今よりもっと良くなるんじゃないか。
そんな、安易な考えを持って。俺はそこを覗き込んでしまった。
◆◇◆
カイリが来ない。おかしい。
着替えて準備を済ませたらすぐに来ると言っていたのに。中々来ない。
連絡を入れておいたけど、既読すらつかない。
電話をかけてみた。……繋がらなかった。
「……怪しい」
何かあったのかもしれない。
とりあえず、行ってみる事にした。
◆◆◆
「こんにちは。カイリ居ますか?」
「あ、瑠乃ちゃん。いらっしゃい。カイリなら居るわよ」
カイリのお母さんに挨拶をして、家へと入る。
「でもね。さっきから声をかけるけど全然返事しないのよ。私が勝手に入る訳にもいかなかったし。良かったら見てきてくれない?」
「はい、分かりました」
元々そのつもりだった。私は海流のお母さんにそう言って、部屋へと向かった。
カイリの部屋は二階にある。私は二度、その扉をノックした。
「海流、居る? 開けていい?」
数秒ほど沈黙が続く。私がドアノブに手をかけた時、声が聞こえてきた。
「すまない。体調を、崩している」
そう、聞こえてきた。……その声は。どこか、辛さを押し殺したような声で。
私は躊躇うことなく。その扉を開けた。
ベッドの片隅に。彼は居た。
普段のどこか気だるげでありながらも、いつも楽しそうにしている姿は……そこにはなかった。
布団をだきしめて、縮こまっているその姿は。長らく見ていなかったものだ。
「海流」
「見たんだ」
名前を呼ぶと。海流は小さく告げた。
「これでも、耐性は付いてきたかと思っていた。……だめだった」
「海流、まさか……」
その含みのある言い方に。私は一つの可能性を見出した。
誹謗中傷を見てしまったのではないか、と。
「そういう人達が居る事はなんとなく分かっていた。……でも、あそこまで。悪意ある攻撃が飛んでくるとは思わなかった」
海流は静かに。顔を布団に埋めた。
「俺は馬鹿だ。……瑠乃がどれだけ俺の為に頑張ってくれていたかもしれないで。勝手に自滅して」
「海流」
「少し、浮かれすぎていた。お前が何もしてない訳ないもんな……瑠乃」
海流が。じっと私を見た。
「誹謗中傷とか、そういうの。全て瑠乃が請け負ってくれていたんだな」
海流の言葉を聞いて……私は静かに頷いた。
海流は悪口に弱い。それを私が知ったのは、小学一年生の時。
海流が隣の席の子が問題児であった。海流が消しゴムを貸して、戻ってこなかった。海流が返してと言うと、彼女が言ったのだ。
『うるさい馬鹿』
と。
海流はそれで泣いた。いっぱい泣いた。もちろん、悪いのは海流じゃない。
先生がその子に謝らせて。その場は終わった。
……けど。それから海流はよく落ち込むようになって。私は気づいたのだ。
海流は、人に悪口を言われるのが人一倍苦手である、と。
だから、私が守る事にした。
クラスの問題児と呼ばれる人が彼に近づかないようにした。
暴言をよく吐く先生が居れば、すぐ他の先生に報告するようにした。……中学でも、高校でも同様に。
そして、Vtuberになる時。私は一層気をつけるようにした。
カイリと瑠花のアカウントは念の為、お互いログイン出来るようにしている。
だから、まず最初にカイリのDMは封鎖した。仕事やそれ以外の連絡は私に来るようにした。
また、Vtuber関連に対する誹謗中傷を行っているアカウントはブロックし、誹謗中傷関連のワードはミュートにした。誹謗中傷を行うコメントはすぐに削除した。
……ちゃんとした意見を発するアカウントとかはしていないけど。
それと。高校生になって分かった事だけど、海流は誹謗中傷じゃなければ他の事は大丈夫らしかった。軽くいじられるくらいなら笑って返す……どころか、面白くしてくれる。それが余計Vtuberの適正に合ってると私は思ってた。
でも、やっぱり……ダメだったみたい。
「ねえ、海流」
私は海流の隣に座って。海流の手を握った。
「……キツそうなら。辞めても、良いんだよ?」
「辞めない」
私の言葉に。海流は即答した。
「約束を果たすまで、絶対に。辞めない」
「そっか」
そして、海流は抱きしめていた布団を置いて。私を見た。
「それに……」
その表情は……酷く辛そうだった。
その表情を、海流は歪めた。
「瑠乃。Vtuber生活、楽しいだろ? 俺は瑠乃から。楽しい日々を奪いたくない」
酷く辛いはずなのに。海流は歪に笑った。
海流が、私に気を使って笑ってくれた事ぐらいすぐに分かった。
私は、それがどうしようもないくらい嬉しくて。……悲しくて。
思わず抱きしめてしまった。
「……ありがとう、海流。大好きだよ」
私がそうすると、海流の表情が幾分か良くなった。
どうにか、してあげたい。私はその日からしばらく、考え事に明け暮れる日々が続いたのだった。
◆◇◆
その日から。俺は少し休みを貰う事にした。……瑠乃が、少しくらい休んでも良いだろうと。母さん達にも言って、学校の方も少しだけ休むことにした。
俺も少し落ち着き始め……たのは良いのだが。
「瑠乃は学校行っても良いんだぞ」
「海流のいない学校に興味無いからね!」
「あれよ。あってくれよ。というか何してるんだよ」
「最近の趣味だよ。海流の下着漁り」
「そんなもんを趣味にするな」
瑠乃もずっとこの部屋に居るのだ。そしていつも通りとんでもない事をしてくる。
朝起きたらすぐ隣に寝転がっていたり、風呂に突撃しようとしてきたり。後はいきなり俺の隠してた秘蔵の本を読み出したり。
「あ、そういえば。来週末配信したいけど。いけそう?」
「い、いきなりだな。……良いぞ。さすがに待たせすぎた感はあるし」
唐突に。瑠乃はそう言った。……俺も、多分大丈夫だ。
「ちなみにコラボ配信ね」
「……まじ? 桃華もう引越し終わったの?」
「ううん、桃華ちゃんじゃないよ」
……? それなら、誰だ?
「その事でね。相談したい事があるんだ」
そうして告げられた内容は……驚くべきものであった。
◆◆◆
「俺、初めて新幹線乗ったぞ」
「私も。ち、痴漢プレイとか出来ると思ってたのに……」
「コラボ直前に逮捕とか。また一つ伝説になるぞ」
「『職業は?』『Vtuberです(どやぁ)』ってやれるね」
「どやるな。警察官困惑するぞ。……はぁ。この辺なんだよな」
俺は一つため息を吐きながら。瑠乃と共に駅を出る。
「うん、ここから徒歩数分だよ。時間はまだあるし……き、休憩する? 丁度休憩出来るとこあるし」
「あからさますぎる。なんですぐそこにある事知ってたんだよ」
「事前準備は欠かさないからね!」
「自慢げにするな」
そうして、会話を続けながら……とある建物の前で、俺達は止まった。
「ここか……」
少しだけ足がすくんだ。瑠乃が俺を心配そうに見つめてきた。
「少し時間置く?」
「いや……大丈夫だ」
深呼吸をしていると。自動ドアが開き……二人の美少女が出てきた。
「あ、もしかして君達。今日約束してる人で合ってます?」
その声は、非常に聞き覚えがあるものであった。
「……はい、合ってます。本日はお時間を取っていただきありがとうございます。雨崎瑠花です」
「あ、いいよいいよ。お互い同業者だし……見た感じ歳も近いからタメ口でいこ」
もう一人の美少女が明るくそう言った。俺も一つ、礼をした。
「はじめまして。カイリ・ホワイトです」
「いやー、男前だね。あ、私達も自己紹介しないとね、カナタちゃん」
「そやな、みっちゃん」
三つ編みをお下げにして、赤いフレームの眼鏡をかけた。そして、少し背の小さい美少女が前に出た。
「初めまして。
「性格悪っ。初対面で自慢するとか」
「ちょ、いいじゃん! 嬉しかったんだから! ほら、カナちゃんも挨拶!」
「母親か。……こほん」
そして、もう一人の美少女も前に出る。こちらは……少し背が高く、目つきも鋭い。しかし美少女であった、
「
現在、Vtuber界隈でも一番大きな事務所である【Vtop】に所属していて。その中でもトップを走る二人だ。
今日、彼女達と俺達はコラボをする。
……目的はそれだけじゃない。
配信の前に。誹謗中傷とか、そういう事に関する相談をしにきたのだ。
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