第13話 カイリ&瑠花の初コラボ配信! その一

「あー。緊張する。吐きそう」

「だ、大丈夫? 飲んであげよっか?」

「今のは聞かなかった事にしておいてやろう」


 これからコラボである。打ち合わせ等は瑠花が全て済ませていた。なんでだよ。俺も参加させろよ。なんで本番がコラボ相手と初邂逅なんだよ。


「ああ、お腹も痛い」

「だ、大丈夫? 飲ん「それ以上言葉を発するなら俺は本気でお前を叱らないといけない」ふふ、冗談だよ」


 俺はため息を吐いて。痛むお腹を撫でる。

 すると、瑠花は俺を見て。真似をするようにお腹を撫でた。


「お前がやるとシャレにならない絵面になるからやめてくれ」

「儚げな女性が病院のベッドの上で愛おしげにお腹を撫でるシチュ。好きかなって」

「嫌いじゃないが。お前に儚さは求めてないし、そもそも儚さなどない」


 そう言って。俺はスマホの画面に目を移す。


 ……今日のサムネイルも豪華である。居間のような場所で、俺と瑠花が桜浜桃華と談笑をしている場面だ。


「もう待機所も三万人近いのかよ……」

「サムネイル変えてからかなり変わったよね。フォロワーも着々と伸びてるし」


 それを考えると。瑠花の判断は正解だったように思える。


「……しかし。本当に良かったのか? お前のイラストを俺のアカウントで上げるとか」


 現在、瑠花が描いたイラストの中でも、瑠花単体のイラストは俺のアカウントで上げている。


 瑠花がベッドの上で寝転がりながらカメラ目線でピースをしている所とか。帰り際に猫と戯れている所とか。


 どれもが万バズである。それでフォロワーも増えているが……俺としては、瑠花のフォロワーを横取りしているような気持ちになってしまう。


「良いんだよ。私のところから行ってるフォロワーが大半だろうし、逆にカイリのアカウントから私に来る人もたくさんいるだろうし。長い目で見たら良い判断だと思うよ」

「……瑠花がそう言うなら良いんだが」


 ちなみに、配信前はボロが出ないよう瑠花と呼ぶようにしている。俺は名前自体がそのままなので問題ない。


「向こうと連絡は着いてるのか?」

「もちろん。いつでもいけるって」


 よし、それならと俺は一度伸びをした。


「配信、始めるか」

「おっけー! スタート!」

「いや始めるとは言ったけど。もっと、こう、なんかなかったか?」


『こん瑠花〜』

『こんカイリ〜』

『こん桃〜』


 ああもう、始まってるし。


「こん瑠花〜」

「こんカイリ〜」


『こんカイリって言うな(過激派)』


「正解を教えてくれよ……」

「まあまあ。それより! 早速ですがコラボ相手の方にも登場して貰いたいと思います!」



 瑠花が俺を宥めつつそう言うと、コメントが湧いた。


『おお、楽しみ』

『桃華ちゃんいい子だったから楽しみ』


 そんなコメントを見ながら。俺は深呼吸をした。


「桃華ちゃん、聞こえてる?」

「う、うん。大丈夫、聞こえてる。そっちは聞こえてるかしら?」


 少し子供っぽい。可愛らしい声が耳に届いた。それと同時に、画面に桜浜桃華が映し出される。


『おお、桃華ちゃんだ』

『桃華ちゃん……うぅ、良かったね』


 そんなコメントも流れ始め……瑠花がパン、と手を叩いた。


「実は私、打ち合わせの後から桃華ちゃんと話して仲良くなったんだ。ね、桃華ちゃん」

「う、うん。仲良くさせて貰ってるわ」



 ……いつの間にか仲良くなってたのか。


「という事で、実はカイリと桃華ちゃんは初対面なんだよね。という事で簡単な自己紹介!まずはカイリから!」


「アッ、チッス。カイリ・ホワイトデス」


『うーんコミュ障』

『なぜ数ある挨拶の中からチッスを選んだのか小一時間問い詰めたい』


 しょうがないだろ! なんか出ちゃったんだから!


「は、初めまして。私は桜浜桃華おうはまももかよ。気軽に桃華って呼んで欲しいわ」


 ロリボイスに気の強そうな口調。中々に嫌いじゃない。俺はロリコンではないが。


「ウィッス。オナシャス」

『うーん。このコミュ障』


 と、挨拶を終えると。桃華はあっと声を出した。


「サムネイルに使われているイラスト、ありがとうございます。とっても可愛く描かれていて、お母様も大変喜んでいたわ」

「良かった。あの人にもお世話になったから。結構張り切ったんだ」


 よし、このまま会話をしていてくれ。俺はそのままこっそり帰りたかった(過去形)


「あ、あの、瑠花さん、肩を掴まなくても……」

「なんとなく逃げそうな気がしたから」

「なにこの幼馴染怖い」


 しかし。もうこうなっては仕方がない。腹をくくろう。


「そういえば。今日は何をするんだったか」

「視聴者からの質問に答えていくよ。もう質問フォームで受付して厳選しといたからね」

「手際が即戦力エリート新入社員並なんだが」


 いつの間に集めたんだと思っていると。早速、と瑠花が画面を動かし始めた。


「一つ目の質問いくよー。あ、私の自己紹介忘れてた。私は雨崎瑠花ね。イラストレーター兼Vtuber兼カイリのママ兼カイリのお嫁さ「長い長い。Vtuberまでで良いだろ」大事だよ! お嫁さんは!」


「お前の本職より大事じゃないし、そもそも違うだろ……まあいい。それじゃあ質問頼む」

「はいはーい。じゃあ早速一つ目の質問はこれね!」



『今どんなパンツ履いてるの? ハァハァ』


「なんで数ある中からこれ選んだの?」

「え、えっと、私はですね」

「言わなくて良いからね!?」

 律儀に答えようとする桃華を止めると。瑠花がくすりと笑った。


「ちなみにカイリのは灰色のボクサーパンツね」

「なんでバラした? というかなんで知ってる?」

「カイリの下着事情は把握しておくのがお母さんの役目でしょ?」

「とんだ変態だよこの母親」



『カイリきゅんの下着事情助かる』

『グレーのボクサーパンツ……お揃いだね♡』

『視聴者プレゼントはよ』


 コメント欄にも変態しかいない。なんだこの絶望感。


「ええい、次!」



『性感帯を教えて』


「え、えっと……耳ね」

「だから答えんでいい! 次!」

「……カイリの。調べておこうと思ったのに調べる時間なかった」


『カイリきゅんと瑠花ちゃんが桃華ちゃんを見た時の、それと桃華ちゃんから見た印象教えて』


「やっと普通の質問が出てきたか……」

「あ、じゃあ私達から言っていい? 桃華ちゃん」

「はい、どうぞ」


 という事で、俺達からとなった。


「まず私ね。最初に桃華ちゃんを見た時はすっごい良い子だなって思ったよ。喋りも上手だったし、いつか伸びるだろうなって直感で分かった。……個性もとびっきり強かったし」


「み、見たの? あれを?」

「私はね。カイリはまだだけど」


 すっごい不穏な会話が聞こえた気がする。


『あ、あれまだカイリきゅん見てないんかwww』

『楽しみだねぇ……』


 すっっっっごい不穏なコメントも流れている。念の為、ネタバレされないように目を逸らしておこう。


「それと、私達と相性が良さそうかなって。だから桃華ちゃんを選んだんだ」

「そういう、事だったんだ」

「そ。私としてはそんな所かな、じゃあ次! カイリ!」


 そして、俺に話を振られた。


「……そうだな。先程瑠花が言った通り、少ししか見れてないが。声も可愛いし、喋りも上手い。Vtuberらしいなと思った。それと、嬉しかったな」


「嬉しい?」

「ああ。他のVtuberの方々は俺達に触れなかったり、手放しで賞賛したりしていた。そんな中、桃華は『負ける気はない』と宣言した。それが嬉しかったんだよ」


 仲間意識が芽生えた、とでも言えば良いだろうか。今までは他のVtuberとどこか壁があったような気がしていた。いや、それは当たり前なのだろうが。


「誰かを選ぶなら桃華しか居なかった。まあ、そんなところだ」


 少し恥ずかしくなったのでそこで切る。あと瑠花。お前が振ってきたんだからそんな不機嫌そうにしないでくれ。


「むー。でも人生の伴侶にするなら私しか居ないよね!」

「ははっ」

「む。こうなったら私とカイリのウエディングを後で描いてやる……のは置いといて。じゃあ桃華ちゃん!」


 そして、桃華の番になった。


「私は。動画サイトのおすすめの出てきて、二人の存在を知ったわ。一言で言うわね。『悔しい』って思ったのが第一印象よ」


 おお。他のVtuber視点での話は聞いた事なかったから新鮮だな。


「話も上手い。面白い。可愛い。かっこいい。ほんとに初心者なのかって目を疑った。でも、悔しかったけど。嫉妬とかはなかった」


 モニターに映る桃華の顔は。ニコニコと笑っていた。


「すーぐファンになったのよ。カイリ君と瑠花ちゃんに。それぐらい、魅力に溢れていたから」

「……嬉しいな」

「ね、嬉しいよね」


 視聴者からのコメントは数多く貰っているが。こうして実際に聞くのは初めての事である。


「ああもう、直接伝えるのって恥ずかしいわね。……あと踏まれたい」


「まあ、直接伝えるのが恥ずかしいのは……ん? 今なんて言った?」

「なんでもないわよ」


 そうか、なんでもないか。いやー、俺の聞き間違いだったか。


「じゃあ次いくよー!」


『これからどんなコラボをしていきたいのか知りたいです』


「お、また普通のだな」


 やっとVtuberらしくなってきたよ。司会は瑠花がやりそうなので任せる。


「コラボかー。桃華ちゃんとはこれからもコラボしていきたいよね。あ、ホラゲーコラボは?」

「やる!」「絶対にやらん」


 俺と桃華の声が被った。


 ……。


「やらん」「やる!」


 ……。

「絶対にやらないからな」「すっごいやりたい!」


 え、なんで。なんでこんなに被せてくるのこの子。


「一旦それは置いておこう。俺はまたこうした質問に答えるコラボとか。視聴者の相談に答えるコラボとかやってみたいな」


 とりあえず話を変えようと。そう俺が割り込んだ。幸い、二人も突っ込んでくる事はなく。


「良いね。あ、そのうち四者面談とかもやってみたいね。桃華ちゃんのママも入れた」

「あ、それ楽しそう」


 話しているとどんどんとアイディアが出てきそうだ。

 そして、最後は桃華である。


「私は……さっき言った通り、ホラゲーコラボとか。普通にゲームのコラボとかもやってみたいわね」

「……すっごいホラゲー推しだな。好きなのか?」

「ううん、だいっきらい」

「ドMなの?」


 え、なんでこの子ホラゲーやりたがりなの。怖いもの見たさ?


「……まあ、それは良いか」

「よし、じゃあどんどんいってみよー」


 そして、次の質問。


『桃華ちゃん、そろそろカイリきゅんに打ち明けるんだ! 己のリビドーを!』


「……なんだこれ」


 意味不明である。なんだこれは。もう一度言おう。なんだこれは。


「との事だけど。どう? 桃華ちゃん。そろそろ言えそう?」

「……そうね」


「え、待って待って。すっごい怖い。一回トイレ休憩挟まない? 三日くらい」

「逃がさないよ」

「分かった、分かったから掴まないで! 反応しちゃうから!」


 瑠花から逃げられなさそうなので。俺は大人しく座り直した。


「……それで、桃華。話って?」


 ごくりと。生唾を飲み込む音が聞こえた。俺も緊張してしまう。


 あれ、この空気。見た事あるな。




 ……あ、あれじゃん。瑠花が男子から告白される時の空気じゃん。


 いやないないないない。そんなはずない。何かの勘違いだ。童貞の被害妄想だ。


「えっと、カイリ君。私ね、実は――」


 俺も生唾を飲み込み。嫌な音を立てる心臓を押さえ。










「――一目惚れ、したんです」



「ッ……!?」












「カイリ君に、鼓膜破壊された時に」





「……?」











「だから、お願いがあるんです! 私の鼓膜、もう一度破壊してください!」



「?????????」



 ????????




 今なんて?





 カイリ&瑠花の初コラボ配信! その二 へ続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る