第12話 二十万人記念配信その二&視聴者の反応
「さて。最後の発表行くぞ」
「いえーい」
『いえーい助かる』
『もう最後か』
二十万人記念ももう最後の発表である。少し寂しい気もするが……いや。三十万人記念もきっとすぐにあるだろう。
「最後の発表は俺がしよう」
『お、珍しい』
今回は俺と瑠花で決めた事だから俺でも発表が出来る。
瑠花を一目見ると、こくりと頷かれた。
「それでは。先週発表した、『コラボ相手募集』の件について。厳正な審査を重ねた結果、相手が決まったので発表させていただこう」
「厳正な審査って言っても、リプライと自己紹介動画とか見ただけだけどね」
「こういうのは形が大事なんだよ」
俺はそう言って。一度、咳払いをした。
「コラボ相手のVtuberは……」
『wktk』
『ごくり……』
「【
桜浜桃華。それは、あの時瑠花がオススメしてきたVtuberである。
俺達のファンになりながらも……ライバルになると宣言していた彼女だ。
『誰だ……?』
『知らない……』
『桃華ちゃんまじ? え? まじ? やったじゃん!』
時折相手のリスナーのコメントが見えるものの、大半は知らないコメントである。
「まだ知らなかった、という方は是非相手方のチャンネルに飛んで欲しいな。後でコメントとSNSの方にもリンクを貼っておこう」
「うん、すっごい良い子で面白いよ。個性的だし」
……個性的? いや、確かにキャラは立っていたが。
まあ、それは別に良いか。
『大丈夫? 今すっっっごいハードル上がったけど』
『個性の塊の瑠花タソが言うなら……』
「大丈夫大丈夫」
「……お前自分の個性の度合い知ってる?」
「私なんて絵が描けるだけの無個性だよ」
「メジャーリーガーが野球出来ませんって言うぐらいおかしな事を言ってるんだよ」
なんなら無個性と対局の位置にあるぞ。
すると。瑠花はため息を吐いた。
「しょうがないな。じゃあ認めてあげるよ」
「随分上から目線だな」
「可愛いって認める」
「違うそうじゃない。いや、合ってはいるんだが。なんだ。この、母親に今日は唐揚げよと言われて帰った日の夕食がカレーだった時みたいな気分は」
すっごいムズムズする。ああもう。
「まあそれはそれとして」
「鬼なの? なんでムズムズさせたまま放置するの?」
「んっ……か、カイリ。今のもう一回言って」
「おいこら。何ボイスレコーダー取り出してるんだ」
『正直今のは私にもキました』
『Sっけ出ちゃうね……』
コメントまで敵である。味方どこ……? ここ……?
「はぁ……もういい」
「拗ねるカイリ可愛い」
「やめろ。撫でるな」
瑠花はニコニコとしながら、頭に手を伸ばしてくる
『ああ〜〜』
『イチャイチャ助かる』
ポン、と手を置いてくる瑠花の手を振り払い。俺はまたコメントを見ようとすると。瑠花はあっと声を出した。
「そうだ。もう一つ報告するの忘れてた」
「ん? まだあるのか?」
『なんだろ』
『今日発表多いな……って思ったけど二十万人記念なの忘れてたわ』
そんなコメントに苦笑する。確かに発表は多いが、雰囲気はいつものものに近い。
瑠花は俺を見てニコリと笑い。口を開く。
「次回から。サムネイルは全て私が描くことにします」
「……え?」
『ふぉ!?』
『ま!?』
瑠花の言葉にコメントがどよめく。俺も動揺してしまった。
今まではそれっぽい背景に俺を透過させた物を貼り付ける簡単な物だった。これは他のVtuberの人達に
「まじです。あ、後でこの前やったホラゲのファンアートもSNSに上げときますね」
「……待て待て待て」
そんな瑠花を俺は止めた。
「お前、働きすぎだろ。少しは休んでくれ」
機材やSNSに上げるイラスト。そして、配信に関する事はほとんど瑠花がやってくれている。
それに加えて毎回のイラスト。その負担は計り知れない。
『分かる。さすがに休んでも良いのでは?』
『体は資本って言うし。めちゃくちゃ嬉しいけど、さすがに体壊すのはいかんよ?』
「ほら、コメントもそう言ってくれて――」
俺は、瑠花を見て……言葉を止めた。
その表情は、今まで見た事がないくらいに。輝いていたから。
「ね、カイリ」
瑠花はその瑞々しい、桃色の唇を動かして。俺の名を呼んだ。
「私ね。今、すっごい楽しいんだ。だからさ、疲れるとか。嫌だとか。そんな気持ちも一切なくて。絵を描くのも、配信の準備をするのも。全部……ぜーんぶ、楽しい。カイリと一緒に出来てるから」
そのまま、瑠花は俺の手を取り……指を絡めてきた。
「だから、私は無理なんかしてない。大丈夫だよ」
そう言って、微笑む瑠花を見て。
俺はふう、と息を吐いた。
「……お前がそう言うのなら。もう止める事はしない」
というか。今の瑠花を止める事は出来ない。
ただし、と俺は付け加える。
「俺はずっと傍に居るからな。少しでも体調がおかしくなったり、精神的にもおかしくなったらすぐに止める。良いな?」
「うん! ……ありがと」
『……え? なんかすっごい自然にイチャつき始めたんだけど』
『砂糖さん吐いちゃった』
自分の言った言葉を思い出して段々顔が熱くなっていく。それを冷ましながら。俺は、瑠花から目を逸らした。
「他にもたくさんイラストはあげていく予定だから。チャンネル登録とフォローよろしくね。もちろんカイリのも。カイリの所にもイラストはどんどん上げてくから」
『通知ON勢です』
『やってきました』
そう宣伝をした後に。瑠花は俺の肩へ体重を載せてきた。軽い。
「瑠花も。もっとご飯食べないとな」
「おっぱいをもっとおっきくしろって事? ……確かにそんなにおっきくはないけど」
「そうは言っとらんだろ」
そもそも小さい訳では無いだろうに。
瑠花は普段と同じ調子だ。それが……どこか嬉しくもある。
「まあ、そんな事は良いか。締めの雑談行くぞ」
「はーい」
そうして無事。二十万人記念も成功を収めたのだった。
◆◆◆
「あ、ああ……」
カチカチと何度もクリックをする音が部屋に響く。しかし、それは画面をリロードし。同じシーンを繰り返す音である。
「嘘、嘘……」
話は聞いていた。でも、夢だと思っていた。……夢では、なかった。
『まだ知らなかった、という方は是非相手方のチャンネルに飛んで欲しいな。後でコメントとSNSの方にも貼っておこう』
『うん、すっごい良い子で面白いよ。個性的だし』
何度も何度もそこを繰り返し……へたれこんだ。
「はふぅ……」
その目はどこか虚ろでありながらも……恍惚としていて。
ふと、その瞳に光が戻った。
「ち、違う。は、早く。返さなきゃ」
そう言って、彼女は自身のパソコンでSNSにログインし。DMを見る。
『はじめまして。Vtuber兼イラストレーターの雨崎瑠花と言います』
そこから、話が続いている。要約すると、コラボについて打ち合わせをしたいから、チャットサーバーに入って欲しいという件だ。
彼女はぐっと拳を握り、深呼吸をして。
カタカタとキーボードを打ち始めたのだった。
◆◇◆◇◆
1:Vtuber好きの名無しさん
二十万人配信見た? 毎回ながら神回じゃね?
2:Vtuber好きの名無しさん
分かる。特に最後の方やばかった
3:Vtuber好きの名無しさん
後で切り抜き見る予定だけど誰かまとめてクレメンス
4:Vtuber好きの名無しさん
・雨崎瑠花のVtuber化(めちゃくちゃ可愛い)
・カイリ・ホワイトと雨崎瑠花のキービジュアル公開(神絵)
・雨崎瑠花、セッ○スしないと出られない部屋を作ろうとしていた(母親にガチ激怒された模様)
・コラボ相手、
・次回配信から雨崎瑠花がサムネを描く
・その他にも茶番ネタ漫才多数
こんな所か? いや情報量やばいな
5:Vtuber好きの名無しさん
助かる。でも桜浜桃華って知らんな
6:Vtuber好きの名無しさん
俺も正直知らなかった。チャンネル登録者あの時点だと30人も居なかったし。でも見てみると凄かったぞ
7:Vtuber好きの名無しさん
うん。あれはとんでもない化学反応を起こすだろうな
8:Vtuber好きの名無しさん
まじ? 後で調べてみるわ
9:Vtuber好きの名無しさん
今まで発掘されなかったのはソロがあんまり向いてなさそうな感じはした。ただ、カイリきゅん達と絡むと絶対面白い事になる。ちなみにチャンネル登録者一気に5000人まで増えてたぞ
10:Vtuber好きの名無しさん
まじかよ草
11:Vtuber好きの名無しさん
いやー、楽しみだわww
◆◆◆
50:Vtuber好きの名無しさん
そういや最近アンチスレも盛り上がってるらしいな
51:Vtuber好きの名無しさん
まあ、あの速度でファン獲得していったら敵も増えそうなもんだが
52:Vtuber好きの名無しさん
裏は裏で好きにやらせりゃいいっしょ。俺らは楽しもうぜ
53:Vtuber好きの名無しさん
それもそうなんだけどさ。カイリきゅん達が見たらめちゃくちゃ傷つきそうだからなんとかならないかなって
54:Vtuber好きの名無しさん
それはちょっと不安だけど。大丈夫じゃね? カイリきゅんDM解放してないし。瑠花チャソは元々上達スピードとんでもなかったから一定数のアンチは居たはずだけど、メンタル強いからどうにかなってたし
55:Vtuber好きの名無しさん
荒らしに行く?
56:Vtuber好きの名無しさん
いや、それはダメでしょ。瑠花タソ達に迷惑かかるぞ
57:Vtuber好きの名無しさん
まあ、カイリきゅんはこういう掲示板とか見る機会ないだろうし大丈夫じゃね?
58:Vtuber好きの名無しさん
それもそうか
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