第9話 瑠乃とのデート その一
『いやー、凄いよね。最近出たあのVtuber。話が上手いのはもちろんだし、視聴者どころか自分の周りとかも巻き込んでいく感じがさ』
『分かるぅ! 私もこの前のホラゲー配信鼓膜潰しながら笑いながら見てた!』
『その姿狂気的すぎない? 捕まるよ?』
……お、おぉ。
「ま、まさかトップVtuberにも認知されているとはな」
「ね。さすがに私も驚いたかな」
――
『コラボとかもしてみたいね。向こうが企業NGって言ってたから厳しいかもだけど』
『あれでも今回やるコラボ募集はって事でしょ? なんならアタシ達の箱に来ないかなぁ』
『うーん。引き抜きは前例が無いから難しいかもね。でも、個性の塊しか居ない私達の事務所でも十分輝けそうな実力はあると思う。あ、ジュースいただきますね』
カシュッという音とともに酸の抜ける音がマイクへ響く。
『ぷはぁぁー! この時のために生きてるぅ!』
『……みっちゃん。もうちょい隠さない?』
『え? 何が? ジュースだよ ?ほれ、じゅーふぅ……』
『あぁあぁ。もう、収拾つかなくなっちゃう。今日の配信は終わり!』
『ええええ! もっと飲もうよお! ほら、カナちゃんも』
『それじゃ、ありあしたー!』
『もー。あ、瑠花ちゃんもカイリちゃんも見てたらこらぼぉ……しようねぇ……ぐぅ……』
そして、アーカイブが途切れる。このアーカイブは前に視聴者から教えられたものだ。
「……それにしても。やっぱりプロの喋りは参考になるな」
「ほんとだね。上手い人のは聞いて盗んでいかないと」
話し方が丁寧だったり、感性が独特であったり。色々と個性を出しながらも、最終的には視聴者の事を考えて喋っている。
……最後のあれは置いといて。いや、それすらも持ちネタみたいな所はあるか。
「……ダメ元でコラボ申請してみる?」
「やだ。本番中にゲロ吐きまくって死ぬ」
「本当の伝説になろうとしないで」
まだ配信前になったら腹痛が痛いのだ。ほらもう、想像するだけで痛い。
「うぅ……」
「だ、大丈夫? ……わ、私も海流の事考えてたらお腹がきゅんってすることあるよ……?」
「エロ漫画で見た事あるやつ」
「あれも私が描いたやつだからね」
「孔明の罠だな!? べ、別に読んでないし?」
「そろそろ諦めたら? フィニッシュのシーンに折り目「わああああああ!」」
「こほん。さて、配信も終わったことだし俺は帰ろうかな」
余りにも下手な誤魔化し方だと俺もわかっている。だが、そうじっと見られると俺も視線を逸らすしかないぞ。
「じー」
「……」
「じー」
「……」
「じー」
「……ぐ」
「じー……まあ良いけど」
どうにか追求を逃れられて全力で安堵する。これで明日も生きていける。
その時。瑠乃があっと声を漏らして俺を見た。
「そうだ。海流。明日デートしよ」
「藪から棒にどうした」
唐突に話が変わった。俺がそう聞き返すと、瑠乃は微笑み。
「やりたいこと、あるんだ」
そう言った。
◆◆◆
「という事だったよな? 何をしたいんだ?」
「まあまあ、それは後でで良いから」
そう言って、瑠乃は俺の腕を取って満足気にしている。やわっこいものがめちゃくちゃ当たっていた。
「ほら、こんな美少女のおっぱいに合法的に触れて役得でしょ?」
「自分で美少女言うな」
「だって美少女だもん……あ、海流。あれ食べよ」
自己肯定感の鬼のような瑠乃がそう言って指さした所は……クレープ屋さんであった。
そのまま瑠乃に連れられて、その列に並ぶ。
「海流は何食べる? 私はチョコにしようかな」
「……じゃあバナナだな」
「どえっち」
「バナナに謝れ」
「そ、そういえば海流、
「そういう意味じゃねえが? なんでバナナに謝る幼馴染を見て興奮しなきゃならないんだよ。そ、それと別に好きじゃないが?」
「でもいつも本棚の奥の方でも取りやすい位置に「やめて!(小声)」」
周りに配慮しながら叫ぶと。瑠乃はニヤリと笑う。
そして、手を絡めてきた。
「おい。この手はなんだ」
「え? こうした方が恋人っぽく見えるかなって」
「そもそも恋人ではないが?」
「まあまあ。そもそも腕組んでる時点でそうにしか見えないし」
「何も返せない……。くそ、慣れすぎてしまっていた」
隙あらば腕を組もうとしてくるのでもう諦めていたのだ。別に嫌ではないし。
しかし、それが裏目に出るとは……
「それにしても。腕を組むより手を繋ぐ方が難易度高いの海流らしいよね」
「う、うるさいな。慣れてないんだよ」
「……えっち」
「えっちじゃないが?」
とかなんとか話をしていると。列が進み、注文の時間となった。
クレープ屋の店員さんは女の人だった。
「お、良いね。カップル? 楽しそうだね〜」
俺たちはよくカップルと見間違えられる。というかこれ、今気づいたが腕組んでるからだな。
とにかく。一々否定するのは面倒なので、適当に受け流す事にしている。瑠乃にその方が楽だからと言われたからだ。
いやこれ見事なまでに策略にハマってるな。
「バナナとチョコのクレープ、一つずつお願いします。……? 海流、どうかした? 何かトッピングする? 練乳とかヨーグルトとか」
「トッピングの内容に悪意を感じるな。なんでもないから気にするな」
そうして、クレープを買って。食べようとしたら。
「あ、ちょっと待って、海流」
瑠乃に止められた。
「……どうした?」
瑠乃はクレープを片手に持ちながら。もう片方の手でスマートフォンを取り出した。
「写真撮ろ。さっき言ってたやりたい事」
「写真か? 別に構わないが」
「やった」
瑠乃は嬉しそうに近寄り。俺に近づき、肩を寄せてきた。
そのままパシャリと写真を撮る。
「それにしても。いきなり写真なんてどうしたんだ?」
「これ、絵にしてから上げようかなって。カイリと
「……なるほど」
確かに、サプライズで瑠乃……ではなく瑠花をお披露目するより、そちらの方が話題になりそうだ。そこまで考えていたのか。凄いな。
「という訳でちょこちょこ写真撮ってくけど。気にしないでね」
「ああ、分かった」
そうしてクレープを食べていると。写真を撮られたり、反対に俺が瑠乃を撮ったりなどをした。
「美味しいね、海流」
「だな。久しぶりに食べたが美味しい」
そうして食べていると。瑠乃がくすりと笑う。
「ふふ。ほっぺにクリーム付いてるよ。取ってあげるわね」
そして、瑠乃がティッシュを持って俺の顔に近づき……
「お、おお。ありが――」
頬に、生暖かいものが触れ、撫でてきた。
「ん、ご馳走様。海流味のクリーム? クリーム味の海流?」
「…………それはどっちでも良いが。お前な。そのティッシュの存在価値はなんなんだよ」
「もちろん舐めた後に拭くためだよ! 不衛生だからね!」
「……はぁ」
どうして気の回し方が方向音痴なんだ。
本当に、相変わらずだ。こいつは。
そうして食べていると。金髪の集団が近づいてきた。すっごい嫌な予感がする。
「瑠乃」
「大丈夫」
名前を呼ぶも、そう返される。……いやまあ、瑠乃がそう言うなら大丈夫なんだろうが。
「ねえ、そこのき「近づかないでください! うちの海流に!」」
瑠乃が唐突に大きな声を出し。俺と男達はポカンとした。
え? 今こいつなんて言った?
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