第7話 ヌルッて始まる十万人記念配信 その二

 前回のあらすじ


 瑠花が隠し録りをしたせいでカイリの童貞を卒業したと思われたぞ! その後カイリが童貞宣言をしたら見事トレンド入り! SNSが自分の童貞を告発する地獄絵図となったぞ!

 そしてそして、遂にきた! 十万人配信! しかしいつもと変わらない雑談配信になってる!


 そこで明かされる瑠花の過去!? カイリはその衝撃に耐えられるのか〜!?


「って感じだよ」

「怖い怖い。急にどうした」

「コメントで今来たさんが居たからつい……」

「ついのノリじゃなかっただろ。陽キャ達にアニメの話題を振られた時の俺くらいノリノリでウッ」



『あらすじ助かった』

『なんか自滅してて草』

『それにしても寝てる間に唇ぺろぺろかぁ……ご褒美じゃねえか』


 そうだった。コメントにはド変態しか居ないんだった。いや待て。ここにはド変態しか居ないぞ


「これが地獄か……?」


 そう呟いていると、瑠花が俺へ声をかけてきた。


「あ、安心して。小さい時の事だから。三年前だから。時効だよ」

「そんな小さくねえだろうが。時効にもならねえ。……まあいい」


『いいの????? ほんとうに???』

『幼馴染ママに甘すぎるぞこの男』


 コメント欄で散々な言われようだが。昔からの事で諦めてるだけだ。


「はぁ。虫を寄せ付けるために腕にシロップを塗ったら真っ先に瑠花が飛びついてきたって話をしようと思っていたのに。インパクトが弱くなるじゃないか」


『まてまてまてまて』

『情報量が金棒で殴ってきた』

『腕にシロップを塗ったのも意味不明だし瑠花ちゃんが飛びついてきたのも意味不明なんだが』

『ちなみに他にもあるの?』


 そのコメントに頷く。それに合わせて2Dモデルも頷いた。


「ああ。たくさんあるぞ。授業参観でクラスを抜け出して保護者ヅラしに来たりとか。一年生の頃の夢がカイリをヒモにして養うとかをクラスで発表してたり。あの時の先生の顔凄かったな」


「クラス違うのに、遠足の時は毎回私がこっそりカイリの後ろについて行ってたりもしたんだよね」

「あったな。なんなら普段の授業でも気がついたら隣とか後ろとか前とか上に居たりしたよな」


 こうして思い出すと懐かしいな。あと頭おかしいな。こいつ。


『多すぎて草』

『あたまおk……上!?』

『肩車しながら授業受けてたのか……(困惑)』


「慣れって怖いよな。あの頃はしょっちゅう瑠花が肩車してって言ってきてたし」

「マーキングみたいな感じだね」

「……あれってそんな生々しい意味があったの?」

「嘘だよ。好きな人に股間を押し付ける事に征服感はあったけど」

「なにそれ知りたくなかった」


 性の目覚めが早すぎる。というか俺が遅すぎた。


『エピソードが濃すぎる』

『性欲の強いロリによく襲われなかったな……』


 そのコメントを読んで、俺は目を細めた。


「……襲われる、か。いや、この話はやめておこう」


『!?』

『何かあったんすか!?』

『もしかして白天使事件の事?』


 凄く聞き覚えのある単語だ。というかこれ。


「まーた身バレしてんな。それで合ってるぞ」


『呼吸をするように身バレをするな』

『もっと焦ろよwww』

『白天使事件……?』


 まあ、名前だけ聞いても分からないだろう。普通ならば。


「簡単に言うと「BANされるからやめろ」」


 話そうとする瑠花の口を手で塞いで。ため息を吐いた。


「というか。十万人記念配信がこれで良いのか」

「良いんだよ。尺稼ぎ尺稼ぎ」

「自分で言うな」


 なんとなく予想はしていたが。瑠花は隠そうともしない。なんならコメントまで肯定的である。


『というか本編まである』

『分かる』


 おかしい。こんなはずじゃなかったはずだ。


「まあそれは置いといて。本編に移ろう」

「いえーい」


『いえーい可愛い』

『いえーい助かる』

 分かる。しかし言葉にはしない。


「という事で。瑠花、頼む」

「はいはーい」


 そして、後は瑠花に丸投げである。


『いやカイリが言うんじゃないのかよww』


 そもそも俺知らされてないし……。瑠花に何度か聞いたのだが、秘密と言われたのだ。


「今日は重大発表があります」


『ま、まさか……引退RTAまでやらないよな!?』

『引退するならカイリきゅんの童貞を卒業させてからにしてくれ』


「おい。とんでもない事を頼み込むな」

「でもいきなり卒業配信って黒背景に白文字で書いたらどっちの反応するか気になるよね」

「気にならないが? ……いや、嘘だ。ちょっと気になる」


 まあやらないのだが。……やらないよな?


 そんな事を考えていると。瑠花はコメントを見て笑っていた。


「もちろん悲しいお知らせはありませんから。それじゃあ早速行きます!」


 瑠花が画面を切り替えると。


【雨崎瑠花 2Dモデルお披露目決定】


『おおおおおおおおおお!』

『早いね!?』

『やっとか!』


 その発表にコメントが沸き立つ。俺もかなり驚いていた。


「おお、かなり早いな。まだ完成しないと思ってたぞ」

「ふふ。ほんとはカイリのデビューに合わせたかったんだけどね。調整にあと少し時間がかかるから、来週の二十万人記念にはお披露目出来るんじゃないかな」


 そっかぁ。もう二十万人かぁ。


 ここまでの道のりが短すぎる。


『つまりママのママが瑠花タソってコト……?』

『単為生殖かな?』


「そして! もう一つお知らせがあります!」


 コメントを流し見しながら。瑠花はそう言う。


『おお!?』

『なんだなんだ!?』


 瑠花が俺を見て。ニコリと笑い……


「……こちらです!」


【瑠花&カイリとコラボしてくれるVtuber募集!】


『おおおおおお!?』

『コラボ……?この二人に着いてこれる奴が居るのか……?』


 視聴者は多少の戸惑いを見せながらも喜んでいるように見えた。


 対して。俺は少し不安であった。


「コラボ……コラボか。俺めちゃくちゃコミュ障なんだが」

「大丈夫! どうにかなる!」

「その前向きさは見習いたい」

 まあ、なるようになるとでも考えないといけないか。


「あ、でもちょっと条件っていうか、こんな人を優遇するっていうのはあるから。説明するね」


 瑠花はそう言ってまた画面を切り替えた。


「なるべく私達とデビュー時期が近い人。それで主に雑談やゲーム実況とか、そういうのが得意な人。あ、絵描きさんでも可。主にこれかな。私達でも探すけど、自薦他薦もおっけー。出来ればどんな人か分かる動画も貼ってくれたら嬉しいかな。他薦の場合は許可を取りに行くけど、自薦の方が選ばれた時はサプライズとして配信で発表するから。見逃さないようにね」


『おお、新しい試み』

『新人がこの二人に耐えられるのか……って思ったけどお前らも新人やんけ!』


「あ、そうそう。さすがに来ないとは思うけど。企業さんは今回の企画は通しません。企業が挟むとコラボが始まるまで時間がかかりそうだなって思ったからです。あと喋る練度とかが全然敵わないので。配信後に要項とかをまとめたものを呟くので、そこにお願いしますね」


『あ、やばい。蕁麻疹出てきた』

『真面目な瑠花タソに耐えられなくなってる奴出てきて草』

『ってこら公式じょねえか!?』

『動揺しすぎて誤字してんじゃねえか笑』


 秒で俺が打っていた事がバレてしまった。まあ、アカウント変えてなかったし。しかたない。


 それと瑠花の真面目モードが久しぶりすぎるから悪い、うん。オレハワルクナイ。


『構って貰えなくて拗ねてるカイリきゅん可愛い』


「す、拗ねてねえし! 別に拗ねてねえし!」

「ふふ、もう、しょうがないわね。ほら、おいで」


 瑠花が手を広げて俺を優しい目で見てきた。


『ママみが深い』

『俺もおいでされたいししたい』


「いや、し、しないが? 寂しくなんてないが?」

「ほらほら、意地はらない」

 そのまま俺は瑠花に抱きすくめられた形になる。


『うーんこれは夫婦』

『でもこの二人付き合ってないんだよね……』

『うせやろ???』


 そのコメントを見た瑠花が少し不満そうにしながら。抱きしめる力を強くした。

「ちなみに本当です。まだ付き合ってません」

、ね』

『なるほどね?』


「つ、次だ! 次に行こう!」


 このままだと瑠花のペースになってしまう。という事で、お知らせも終わったのでまた雑談へと戻り……。


 一時間ほど配信をして、記念配信は終わったのだった。


 ◆◆◆



 静かな部屋の中。彼女はPCの画面を注視していた、


「これ……私でも。いや、もう既に……無いわね」


 そう呟きながら画面をスクロールするも。目当てのものは見つからない。


 彼女は頭をわしわしと搔いて。返信のマークを押した。


「ええい! 女は度胸、そうでしょ?」


 そう自分に問いかけるようにして。あるリンクを貼っつけたのだった。

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