第6話 #童貞宣言トレンド入り&ヌルッと始まる十万人記念配信 その一

「コワイ。オバケコワイ」


 今。俺は絶賛恐怖モードである。え? 配信終わったら急に怖くなったんだが?


「配信してる時、ちょっと海流の性格変わるもんね。アドレナリン出てたんじゃない?」

「カモシレナイ」

 怖い。お化け怖い。え? まじで怖いんだけど。なんで俺の心臓はあるの? こんなバクバクしてたら破裂しない? するよね?


「もう、しょうがないなあ。ほら、おいで」


 瑠乃はそう言って。ベッドに寝転がり腕を広げた。


「キモチダケウケトッテオク」

「なんでさー! 今のは私に惚れ直して夜のイチャイチャする所だったでしょー!」

「その下心が丸見えなんだよ。怖ぇよ。なんで枕の下からそれがはみ出してるんだよ」


 そう。枕の下からアレがはみ出しているのだ。そう。子供が出来ないようにするアレが。


「あ、バレちゃった?」

「バレちゃったのレベルじゃねえよ? 何個あるんだよそれ」


 それで枕が持ち上がってるんだぞ?叩くとぽふぽふじゃなくてかしゃかしゃと袋の擦れる音が鳴るんだぞ?


「これぐらいかな?」

「俺を枯死させるつもりか」

「読み方変えたら枯死かれしだから間違いでは無いね」

「間違いだよ。何もかもが」

「あ……そ、そういう事ね!」

「どういう事か分からんが。ろくでもないって事だけは分かる」

「も、もう。早く言ってよ。わ、私も……いつでも良いって思ってるんだから。……子供作るの」

「やっぱりろくでもない事だったよ」

「もー! こうなったら実力行使するんだから!」

「あ、おい。やめ、引っ張るな。うおっ!」


 ぐいぐいと服を引っ張られ。ついにベッドの中にいざなわれてしまった。


「嫌だ! 助けて! 暴漢……じゃなくて。暴乙女が居ます!」

「ふふ。安心してよね。防音対策はばっちりだから」

「うああああああ! そうじゃねえか! 俺がどれだけ叫んでも誰も聞こえねえじゃねえか!」

「という事で観念してね」


 そのまま俺は抱きしめられ。


「やめろ! 変なところを触るな! あっ」

「……こんなものかな」


 すると、瑠乃は懐からスマホを取り出した。


「……おい。まさかとは思うが」

「え? 録ってたから。SNSに上げようと思ってね」

「本当になにしてんの???」

「という事でぽちっ」

「あ、おい!」


 まさかな。嘘だよな。


 カイリのアカウントでログインし、瑠花のアカウントを見る。


『配信後の睦言♡』

 とかいうタイトルで音声が上げられていた。


『ばか』

 とだけリプを送り。瑠乃を見る。


「お前な……タチの悪い冗談はやめろ」

「ふふ。ごめんね? 楽しくなっちゃってつい」


 楽しそうに笑う瑠乃へと、俺はため息を吐く。


「まったく……それじゃあ早いところ離してくれないか?」

「え? なんで?」


 純粋な疑問の声。まさかとは思いながらも。俺は瑠乃を見た。


「これからはSNSに上げられないような事、しようね?」

「おまわりさああああああああああああんたすけてえええええええ」


 そんな俺の声も虚しく部屋に響く。


 結局、そうして瑠乃とじゃれていると眠くなり。俺はそのまま眠ったのだった。


 ◆◆◆


 ちゅんちゅんと鳴く鳥の声に。俺は目覚めた。


「なるほど。これが朝チュンか」

 いや、おかしな事はしていないのだが。……されている可能性は追いたくないな。


 隣に瑠乃の姿はなかった。スマホで時間を確認すると……うん、学校に行く時間は問題ないな。


 そういえば、VtuberはSNSのトレンドが大事だと聞いたな。見てみるか。


 早速開いてみると。一番上に『ばかかわいい』が入っていた。なんだろう。アニメか漫画か?


 そう思って開くと。一番上に昨日俺が瑠乃へと送った『ばか』が来た。なんだろう。こういうのって自分の呟きが一番上に来るようなもの……



「は?」


 俺は。思わず自分のそれを見てそう言ってしまった。


 それと同時に。部屋の扉が開いた。

「海流、そろそろ起き……あ、起きてたんだ。昨日は楽しかったね」

「絶妙に不安になる事を言うな。な、なあ。昨日の俺のリプなんだが……」

「あ、海流も見た? 凄いよね、トレンド一位になってて」

「やっぱりこれなの?なんで?なんで?」

「えっ……可愛かったから?」

「そうはなら……なってるのかよ……」


 昨日俺が返したリプの反響が凄まじい事になっている。というかバズっている。


『ばか助かる』

『なんか最近カイリきゅんが可愛く見えてきた』

『続きは! 続きはどこにあるんだ!』

『初体験が終わった後に「気持ちよかった?」って聞かれた女の子が返すやつやん……』

『カイリくんのばかは可愛い』


 何この反応。もっと皆気持ち悪がってくれないか???


「こ、こんな不本意な事でまたトレンドに……」

「あ、ちなみにトレンド二位は『#カイリきゅん童貞卒業おめでとう』だよ」

「なんで???」

「いや、だって。昨日の終わり方に海流があんなえっちな声出しちゃったから」

「くっ……と、とりあえず弁明を」

「あ、じゃあさ。折角だしもう一回バズろ。ちょっと貸して」


 すっごい嫌な予感はしたが。Vtuberとしてこの流れを断ち切ってしまうのはどうなんだろうかと思ってしまい。渡してしまった。


 数十秒ほどして。スマホは返される。


「なっ……おま、お前!? 何してんの!?」


 呟かれた内容は。


『童貞は無くなっちゃったけど、処女はみんなのために残してるからね……///』


 であった。


「ライン超えてるよ? これは。え?」


 馬鹿なの? なんで消火器の中身が油だったの? 火に油を注ぐの典型だよ?


「だいじょーぶだよ。そんなに心配しないで。私がやったってみんな分かってるはずだから」


 瑠乃の言う通り。

『カイリきゅんはそんな事言わない。お前……誰だ!』

『瑠花チャソなかなかやってんねぇ!』

『待て待て。この時間に瑠花ちゃんがカイリくんと一緒にいる。それはつまり……!』


 などなど。一部誤解を生みそうな発言はあるが、瑠乃がやった事に気づいてくれているらしい。


 それはそれとして。


「弁明をしておこう」


『これは瑠花が呟いたものです。それと!!! お前ら!!! 何を勘違いしてるのか知らんが俺は童貞だ!』


「よし、これで良いな」

「私が言うのもあれだけど。海流ってVtuber向きだよね」

「……どういう事だ?」

「それよりご飯だよ、食べよ」

「あ、ああ」


 お昼頃。『#童貞宣言』がトレンド入りしたのを見て、俺はまた頭を抱える事になったのだった。


 ちなみにバズった一番の理由は、瑠乃がわざわざ#童貞宣言を付けて拡散していたからだった。でこぴんをしておいた。


 ◆◆◆


「慣れない……腹痛が痛い」

「だ、大丈夫!? すりすりしてあげるから全部脱いで!?」

「全部脱ぐ必要は無いだろうが」

「あるよ!」

「ないよ!?」

「だって! 私が嬉しいんだよ!?」

「よく病人の前で欲望を剥き出しに出来たな!?」

「ということでこん瑠花〜。イラストレーターの雨崎瑠花ですよー」

「え? 配信始めてんの? また? 俺が知らないうちに?」

「ほら、カイリも挨拶しないと。こんカイリ〜って」

「前から思ってたんだけどそれ語呂悪くない?」


『こん瑠花〜』

『こんカイリ〜』

『開幕茶番助かる』


 しかし、コメント欄では当然のようにその挨拶が使われている。


「定着しちゃってる……なら仕方ないか。こほん。こんカイリ〜」


『その挨拶は流行らないし流行らせない』


「手のひら返し酷くない? てかさっき挨拶してくれたアカウントじゃねえか」


『草』

『男の子ってのは好きな子に意地悪したくなっちゃうもんだぜ』

『童貞で処女のカイリきゅんちっすちっす』


 その言葉に心の傷を塩漬けの爪で殴られたような痛みが走った。

「アッ」

「ちなみにカイリは意図せぬバズりで今日は困惑しっぱなしだったよ。可愛かった」

 瑠花はそう言って笑い。俺の頭を撫でてくる。


『あれは凄かったもんなぁ……』

『#童貞宣言でみんな呟いてたからトレンド入りしたもんな』

『日本終わってんな』


「ほんとに終わってるよ。こんなVtuberがトレンド入りする世界は」


『自分で言うな笑』

『大体瑠花タソのせいって言おうとしたけどカイリくんも大概だったわ』

『初配信で全裸土下座だもんな……いやなんでだよ。なんで見えないのにやってんだよ』


「それな。なんで俺見えないのにやってたんだろうな。確かに嘘は良くないんだが。あと頭を撫でるのをやめろ」


 ずっと撫でている手を払い除けると、瑠花はくすりと笑った。


「ふふ。律儀に畳んで横に置いてたもんね」

「いつの間にかお前が洗濯してたんだがな? ほんと、お前の部屋に俺の服があって良かっ……なんであったんだ。今考えたら」


『頭なでなででほっこりしそうだったのに怖い話始めないで』

『怖い怖い』

『ホラーゲーム回じゃないのに怖い話するのやめて』


 瑠花が俺を見て得意げな顔をした。

「簡単だよ。こっそり盗んでただけだから」

「簡単じゃないよ? 盗みは。あと罪だよ? 窃盗罪だよ?」

「カイリのお母さんに確認したから大丈夫。それにもう着ない服を持ってきたから」

「なんで俺の母さんはそっち側なの?」

 なぜ許可を出した? この子がおかしいの昔から知ってるよね? どこが大丈夫だって思ったの? 我が母よ。



『ママがママに子供の服を盗む許可を貰うってそれなんてカオス?』

『ママが二人……複雑な家庭をお持ちのようで。良ければ私が片方(このメッセージは削除されました)


「まあ……それは良いとして」


『いいのかよ』


「昔からこんなだからな。……そうだな。こいつのあたおかエピソードの一つや二つ話しておくか?」


 こうなったら意趣返しだ。いや、そもそも効かなさそうだが。


 しかし、瑠花は少し慌てたように目を白黒とさせた。


 お? まさかの弱点か?



「わ、私がこっそり寝てるカイリの唇をこっそり舐めた事とか!?」

「待って待って。俺の知らない過去が出てきたんだけど」



 ヌルッて始まる十万人記念配信 その二へ続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る