第5話 カイリのドキドキ! ホラーゲーム実況part2! 同時企画もあるよ!

「ど、同時企画!?」


 余りにも不穏すぎるその言葉に。俺は大きな声を上げてしまった。


『というか今どんな状況なの?』


「私がカイリにおっぱいを揉まれてるって言う状況ね!」

「なんで全部言っちゃうのかな?」


 それとなんで誇らしげにしてるんだよこいつ。


『は? 羨ま』

『実質童貞卒業やん』

『童貞拗らせちゃって意味まで捻じ曲げちゃった奴居るやん……』


 そんなコメントを視線で流しながらも。手を離そうとするがわ上から押し付けられる。うぅ……やわっこい。


「という事で同時企画!『恐怖VSエロス、どっちが勝つのか対決』を始めます!」

「BANまでRTAする気か?」


『お前が言うな』

『リスナーのセリフを取るな』

『成功したら10万円貰えそう』


「ルールは簡単です! カイリの男の子が反応したら負け! という事で! 勝者エロス!」

『早すぎて草』

『勝負始まる前から負けとるやんけ!』

『えぇ……?』


「ルール説明と結果発表を同時に行うなんて史上初だよ? いや、同時企画自体初めてなんだけども」


 自分で言うのもなんだが。とんでもねえ企画潰しだと思う。


「というか、なんでそんな勝負内容にしたの? 言われてくれれば頑張って耐えたが?」

「Vtuber生活は本番の連続だよ。いつでも練習とか心の準備が出来るとは思わないで」

「ぐぅ」


『ぐうの音って本当に出るんだ……』

『高校生なら仕方ないよね……』


 なんで変態に正論で押し負けなきゃならないんだ……。


「という事で同時企画は終わりね。あ、カイリがもっと揉みたいならそのままでも良いよ」

「良くねえが?」


 身を切るような覚悟で俺は胸から手を離す。いやもう。男子高校生からすればそれくらいの覚悟が必要なのだ。



「2Dモデルに反映されているのなら今頃血涙を流しているだろう」

「あ、もちろんあるしやってるよ」

「手際の良さが諸葛孔明」


 凄い。めちゃくちゃ怖いけど顔が良いからギリ成り立ってる。



『なんでこんな差分あるんだ……?』

『白目アヘ顔差分とかありそう』


「あるよ」

「あるの!?」


 いきなりトンデモ発言をされて大きな声を出してしまった。

 そんな俺に、瑠璃はニコリと笑いかける。


「やってみる?」

「消されるからダメです」

「じゃあ同時企画終わっちゃったし。死ぬ度にガチ恋距離でアヘ顔差分晒す事にするね」

「はい???」


 ちなみにこれねとタブレットを見せてきた。そこには絶対映しては行けない姿が描かれていた。思わず何かを言おうとしたが、言葉も出ない。



『最低の罰ゲームで草』

『いいぞもっとやれ』

『お口ぱくぱく可愛い』



 というか待て。それ以前に。


「死ぬ? え? 死ぬの? このゲーム?」


『そっちかよ』

『今更すぎるぞ』

『幽霊さんそわそわしながら待ってるのに目の前でイチャイチャし始めたから泣いてたぞ』


 いやあ……怖いし。手術室とか絶対何か居るじゃん


「ちちちちちょっと、ここここ怖くなってきたな」

「大丈夫? おっぱい揉む?」

「揉みたいけど揉まない」


『やっぱこの距離感幼馴染よな』

『本物の幼馴染をお前はまだ知らない』

『現実は悲惨だぞ』


「ほらほら、コメントが暗くなってきてるから。ちゃっちゃと行っちゃお」

「一旦休憩とか」


 俺がそう言うと。瑠璃はムッとした表情で自分の胸を触った。


「私のおっぱいは休憩にならないの?」

「それは……いやならねえよ。気が休まらねえよ?」


 一瞬流されそうになったが。休まる訳がないだろう。おっぱいだぞ。頭の中がおっぱいおっぱいいっぱいいっぱいになるんだぞ。


「でも私。抱っこしたら結構落ち着くでしょ?」

「それは……」


『まーたイチャついてるよ』

『幽霊ちゃん……』


「ふふ。カイリに抱きしめられるなんて何年ぶりかな。役得役得」

「お前な」


 しかし。言われてみれば、俺から距離を近づけるのは久しぶりかもしれない。


 というか女の子柔らかっっっ!? いい匂いする!?


「あ、もっとおっきくなって「言わないで! お願いだから!」」

『男の子してんねえ!』

『俺もカイリきゅんの事を考えたらおっき(このメッセージは削除されました)

『さっきから削除班凄いな。……あれ?もしかして瑠璃チャソがやってる?』


「あ、私がやってるよ。コメント管理は」


 そうして場を繋いでくれる瑠璃の後ろで俺は深呼吸をする。


「すうひいすはえさふさああああ」


『!?』

『どうした!?』


「……? どうしたって……深呼吸しただけだが?」


『呼吸下手か』

『草』

『呼吸下手は人間としての欠陥じゃねえかwww』

『呼吸が下手な異世界転生主人公で草』


 深呼吸をして心臓も落ち着いたことだし。


「さて。行くか」

 そして。俺は意を決して手術室の扉を開けた。ボタン一つで出来る事なのだが。


「あああああああああ! お化けええええええ!」

『慣れてきた。イヤホン外すタイミングに』

『さあアクションパートだぞ』


 いきなり目の前に人型を保っていない異形の怪物が現れた。え? Rで攻撃? 連打しろ?


「いやだあああああああああ……え?」



 死にたくない一心でボタンを連打……しようとした時の事だ。


 その異形の怪物の首。……首? のような所に痣がある。


「あれ? これ。娘じゃね?」


 確か、カルテに写っていた娘の首には十字の痣があったはずだ。……体も変色し、よく見ないと分からない位置にあるが。


『……え?』

『あ、あれ? 痣?』

『気づくの早すぎね?』


「え、待って。娘傷つけるとか無理なんだけど。どれだけ異形になろうが娘は娘だろ。攻撃とかいう選択肢を捨てろ」


 いや、ゲーム的には攻撃しないと進まないんだろうが。


 咄嗟に俺はコントローラーを離してしまった。


「……フラグか? フラグが足りなかったか? まさかこれ最終的に娘殺して死因は自分でしたでバッドエンドとか無いよな? 二週目で解禁されるパターンか?」


『急にゲーマーになるな。きゅんとするだろ』

『怖がってた時とのギャップやば』


 そのまま俺はニヤニヤとしている瑠花を抱きしめながら考えた。


「……この父親。めちゃくちゃ娘の事考えていたみたいだし。俺でも気づけたんだし気づくだろ」


 そうでなければ……まあ、その時は仕方ないとして。おれは一旦、コントローラーを置いた。


 画面にはRを連打するようなマークが描かれているが。放置だ「ピッ……べ、別に怖がってなんかないんだからね!」

「む。ツンデレは私の十八番よ!」

「自分で十八番言うな。お前はエロデレだろ」


 念の為、ネタバレ防止としてコメントを見ずに画面を見ていると……



 ――う゛、ああ゛お、おど、ざ


「やっぱりか」


 その異形の化け物が喋り始めた。



『ここ初見攻略はやべえ』

『九十歳のおばあちゃんのゲーム実況以来だぜ。ここ初見攻略するのは』

『それ攻略じゃなくて反射神経が悪かったからじゃ……』


 凄いな。九十でこのゲームって。俺ならやるって聞いただけでショック死するぞ。


 ま、まあ?


「ふ、ふふふ。俺にとってはこれくらい屁でもない」

「私を握りしめてる手が震えてなかったらもっとかっこよかったんだけどね。……可愛いから良いけど」

「頼むから今くらいはかっこつけさせて」


『案の定怯えてて草』

『娘ちゃん泣くぞ』


 ――う、う゛……お、とう、さん……うう


『ほら泣かせちゃった』


「ゲームと連携をとるんじゃない」

「もー、ダメでしょ、カイリ。泣かせる女の子は私だけにしないと」

「はいはい……っと、回想入るのか」


 そのまま回想に入った。……どうやら娘の過去らしい。


「……中々えぐい過去だな」


 病気で悶え苦しむ娘に鎮痛剤と称して打たれたものは治験もされていない……副作用も分かっていない薬。


 そんなものをバンバンと打たれながらも、『必ず治るから』という言葉を信じ込まされる。


 家族と会う時だけかなり強力な鎮痛剤を打たされ、元気に振る舞う。


 同じ病室で出来た友達は――みんな死んでいく。


 そして。彼女はとある薬物の副作用に耐えきれず。死んだ。


 そして。次に目覚めた時には異形の姿になり。廃病院をさまよっていた。



 どうやら、この病院にはこういう人体実験で亡くなった少女の霊がたくさん居るらしい。院長はその霊に祟り殺されたと。


「え、こわ……俺も呪われてない?」

「大丈夫。カイリには私が憑いてるよ」

「なんか含みを感じるな」


 まあ、それはそれとして。

「さて。これバッドエンドの予感しかしないんだけど。どうすれば良いんだ」


 この手のゲームだと二週目にアイテムを取ればトゥルーエンド、とかはありそうなものだが。


「あ、ちなみにこれエンド二つしかないんだけど。さっきので一度攻撃して逃げるパターンかこれかしか無いんだよね。これやったらそっち試してみる?」

「どっちにしろバッドエンドって事か?」


「……さあ? そこはネタバレになっちゃうからね。ちなみにそっちは驚かし要素がさっきの三十倍くらいになるよ」

「多い多い。少年漫画の戦闘力のインフレの仕方か異世界転生or転移小説の一章と二章のステータスの差ぐらいあるだろそれ」


『対局の位置にあるそれを上げるのか』

『一歩間違えたら炎上しそう』


 そんなコメントを流し見しながらも。ゲームは佳境に入っている。


 ――ころ、して。お、とうさん


 ▶︎[ナイフを突き刺す]


 ――ふ、ふ。あり、がとう。だい、すきだよ。おとう、さ――


「え、俺こういうの弱いんだが。泣いていい?」

「良いよ。私をティッシュ代わりにしても」

「語弊を招くからその言い方はやめような」


『イイハナシダッタノニナー』

『これ、一時間で泣けるホラゲーって有名だったはずなんだけど』


「ギリ泣いてるから許してくれ。ありがとう変態製作者さん。まさかロリの手で興奮するような人だとは思わなかったけど。ストーリー神でした。あと驚かし要素とホラー要素を無くしてくれたら俺も読みやすかったです」

「その時はこの作品を選んでないかもだから仕方ないね」

「ぐ……」


『ちなみにこの作者さん。ホラー要素大好き怖がってる人大好きド変態人間だからこの配信めちゃくちゃ嬉しがると思うぞ』

『手であれだけ怖がってくれる人居ないもんなぁ……』


 そのコメントを見て頬をひくつかせながら。エピローグを見る。


 その後は奥さんと二人で暮らすようだ。……もう子供を作る気はないらしいが。時折病院にお供えをしに行ってるらしい。


 そして、エンドロールが流れた。


『乙』

『カイリきゅんのアヘ顔差分どこ……ここ?』

『そういえば瑠璃タソは支援サイトで大人向け一枚絵とか上げないの?』


「上げないっていうか上げれない、ですね、まだ十六なので。二年後を待ってください」


 二年経ったら上げるのか……。ま、まあ。それは良いとして。


『そういえばこの子ガチの高校生だった……』

『という事はカイリきゅんは実は美少女JKを堕とした陽キャ大学生の可能性も……?』

『俺の一番嫌いなタイプのNTR(BSS)やめろ』

『あ、ちなみに二人はガチの高校生ですw』


 サラッと身バレされそうで怖いな。


「あ、そうだ。高校生とか同じ高校に通ってる発言までは良いけど。個人情報とかバラそうとしたら法的手段を取る可能性もありますからね」

「……まあ、そうだな。その辺はしっかりしないとな」


 ネット社会は怖いものだ。対策はしっかり取っておかねば。



『個人情報守れて偉い』

『カイリきゅんはえろ(このメッセージは削除されました)

『りょ』


 さて。ゲームもエンドロールが終わった事だし。


「少し雑談でもして終わるか」

「これからの予定も改めてね」


 画面を切り替え。配信用の画面へと戻ったのだった。


 ◆◆◆


『という事で次回の配信は変更して、登録者数十万人記念の感謝のホラゲー24時間耐久になったからね』

『え? ちゃんと今日の配信見てた? 俺が怖がる姿見てた?』


 真っ暗な部屋の中。一人の少女が爪を噛みながらその配信を見ていた。


「じ、十万……そういえば、昨日十万人越したって……」

 そう言いながらも、チャンネル登録者数を見ると……十万人どころか二十万人を越していた。


『あ、近いうちには二十万人記念の配信もします。是非見ていってください』


 その言葉に唇を噛み締め……画面を切り替える。――自分のチャンネルへと。


 そこに表示されていた登録者数は――二十人。



「お、同じ時期に始めたのに……」


 頭の中では相手に元々有名だった神絵師が居ることをわかっていながらも……感情はどうも上手くいかない。



「ああああ! もう! 面白い! ずるい! 好き! 大好き!」



 そう言って、手元にあったぬいぐるみを投げようとして……ぽすん、とベッドに置いたのだった。

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