第4話 カイリのドキドキ! ホラーゲーム実況! 神絵師(ド変態)も居るよ!

「うええ……ゲロ吐きそう」

「大丈夫だよ。わ、私が受け止めてあげるんだから!」

「受け止めるな。この時のためにエチケット袋の用意はしている」

「もったいない!」

「もったいない???」


 瑠乃のとんでもねえ発言にそう返すと。瑠乃は慌てたように手を振り始めた。


「あ、違った。そ、その……あれよ! 食べたものが……みたいな? しかも海流が吐き出したものを捨てるとかもったいないみたいな?」

「何も違くねえじゃねえか。やめろ、気持ち悪い」

「海流の吐瀉物は気持ち悪くなんかない!」

「気持ち悪くあれよ!?」


 そんなやり取りをしながらも。俺はため息を吐く。


「はぁ……馬鹿な事言ってないで、配信始めるぞ」


 実は配信開始五分前である。そうして配信を始めようと思ったら……


「……? もう始めてるけど」

「なにしとるんだすか!?」


 既に配信が始まっていた。


『え? これ台本ないのマ?』

『やり取りが自然だったんだよな……』

『こいつら学校でも同じやり取りぞ』

『同級生来てて草』


「いや草じゃないが? なんで来てんの?」

「あ、ちゃんと告知しといたからね。掲示板に」

「なにしてんの????」


『ちなみに掲示板とは部活動の勧誘とかに使われる物です。一応先生から許可を貰えれば誰でも貼り紙を貼れます』

『解説助かる』

『ガチの同級生っぽいのほんと草』


 そんなコメントを目で追いながら。俺はため息を吐いた。



「……はぁ。もういい。始めるぞ」


 諦めである。諦観である。もうどうにでもなれ。


 そのまま配信を始めると……思わずあっと声を漏らした。


「やべ、まだ画面繋げてないぞ」

「あ、今繋げるね。場繋いどいて」

「えっ」


 唐突にソロが始まってしまった。いきなりすぎる。いや、元々……というか、最初は瑠乃無しでソロでやる予定だったんだが。



 ……なに、話せばいいんだ。


「…………スゥ。天気、良いですね」


『幻の天気デッキで草』

『初心者Vtuberかよ……って初心者やんけ!』

『今九州台風直撃やぞ』

『というか天気予報で全国的に大雨言うとったやろがい!』


「アッアッ……スンマセン」


『あまりにも陰キャすぎるこのVtuber』

『友達の友達と二人きりになった時こんな反応しそう』


「うわ。今のすっごい刺さった。死んでいい?」


『いきなりヘラるな』

『ちなみに今のは俺にも刺さったぜ……』

『お前幼馴染が居ない所だと全然喋らんもんな』


「ウッ」


『同級生にトドメ刺されてて草』


 と、心に傷を負っていると。


 モニターにゲーム画面が出力され


「ピギャアアアアアアアアアアアアアアアア」


『!?!?』

『鼓膜くん!?』

『人間が出していい声じゃなくて草』

『これはラの音だね』


 怖い怖い怖い怖い。何この女の子。髪なっが。こっわ。


「あ、ちなみにこれ私のPCの壁紙ね」

「お前の思考が怖ぇよ!? どんな脳みそしてたらこんな絵を壁紙にしたくなるの!?」

「もう一つ言っておくとね。さっきカイリがトイレに引きこもってる間に描いたんだよ」

「神絵師の無駄遣いとは本当にこの事だな!?」


『クオリティ高すぎてこっちまでびびったわ』

『ホラー風味の絵も描けるのか……』

『これを壁紙は心臓に鋼の毛が生えてる』

『鼓膜くん……どこ……』

『ああ、ここにも鼓膜探しの成仏出来ない霊が一人……』


 とりあえず深呼吸だ。深呼吸をし――


「ちなみにこれが二枚目ね」

「ピッ……」

『事切れてて草』

『なにこれこっっわ』

『カイリきゅんを怖がらせるためだけにやってるの尊い』

『本当に尊いか……?』


 思わず喉が詰まってしまったが。画面から目を離してどうにか落ち着きを取り戻す。


「あ、あぶねえ。もうちょいで心臓がとまっ……」


『てて草』

『これ画面見れねえな……』

『まあこれはガチで怖いししゃーない』

『俺も今どばどば漏らしてるもん』

『トイレ行け』


 ちなみに今画面に映し出されているのは先程の幽霊(女)が襲いかかってきている姿だ。こっっっわ。何これこっっっっっっわ。


「……よ、よよよよよよし。おちちついてきたぞ」


『俺もおちちつきたい』

『餅もつきたい』

『おちちを餅でつきたい』

『なにこの流れ……』


 すると、瑠花が隣へ来て。

「つんつん」

「ひゃんっ」


『!?』

『#急にメス声を上げるなカイリ・ホワイト』


「お、おおおおお前な! いきなり妙な所を触るな!」

「え? でも今おちちついてって」

「言っとらん!」


『いや言ってたぞ』

『同級生にメス声を響かせてるの草』

『俺もカイリきゅんのおちちつきたい』


 なんだこのコメント欄は。地獄か。……地獄か。


「……じ、じゃあ。私のおちち、ついても……」

「つかないから。BANされるから」


 まだ初配信から二日目だぞ。


『続きは有料限定って事ですね分かります』


「有料でもしないから。というか収益化自体まだだから」

「あ、もう収益化の条件はクリアしてたから申請だけしておいたよ」

「はっっっや」

「まあ、認定されるのはまだまだ先だろうけど」


『収益化されたら全財産突っ込みます』

『投げ銭で一定額貯まったら脱ぐ配信させたい』

『毎月貢ぐからね……カイリきゅん♡』

『ここには変態とド変態しか居ないのか?』


「コメントも「それよりカイリ。ホラゲーしないの?」アッ」


 コメントを読んでプレイを遅らせようと思っていたが。瑠花に筒抜けであった。


『ママに時間稼ぎバレてるやんけ』

『まあさっきトラックで踏み潰されるカエルみたいな声上げてたしな……』

『は? カエルアンチか? 表出ろ』


「はいはい、コメント欄で喧嘩はやめてね」

『ごめんなさい!』

『申し訳ありませんで候。我輩はそうろ(コメントが削除されました)


 カチカチっと瑠花がコメントを削除し。俺を見てにっこりと微笑んだ。

「それじゃ。ヤろっか♡」

「いやだあああああああああああああああああ」


 そして。次の瞬間、モニターが切り替わ「おんぎゃあああああああああああああああ」


『うぎゃあああああああ! ……って画面真っ暗なだけじゃねえか』

『幼児化……乳児化してる』

『父性本能が芽生えてきたわね』


 もう嫌だ! 怖い! 真っ黒画面怖い!


「それじゃあ電気も消すね」

「ついでに俺の存在まで消してくれないか」

「わ、私の中にちゃんと出してくれたら良いわよ!」

「このサイトって子供も見れるの知ってる??」


『近親相姦……』

『その方が興奮するだろ』

『幼馴染ガチママとか性癖歪むって』

『もう歪んでるに決まってるだろ』


「は? 歪んでないが? 至って正常だが?」


『性常の間違いだろ』

『こっそり瑠花ちゃんに似た子の同人誌で致してそう』


「しししししししししてないが?」


 多少声が上擦ってしまったような気はしなくもないが。これだけは誤魔化さなければ。


「私が私を描いてこっそり同人誌リストに入れてるもんね」

「え? あれっておま……なななななななんのことだ? つつつかってないが?」


『神絵師だから出来たこと』

『エグい暴露されてんな笑』

『なんで気づかないんですかね……』

『これ同級生に聞かれてると思ったら心臓がキュってなったね』


 そうじゃん。同級生見てんじゃん。え? 人生終わり?


「死んでいい?」

「だめ♡」


『だめ♡助かる』

『死なないで』

『強くイッて……じゃなくて強く生きて』


「それじゃ、本題。行こ?」

「いや「ぽちっ」」


 まだごねようとしたが。無慈悲にもスタートボタンを押されたのだった。






「鬼かな? 始まるよ? 始まっちゃうよ? 俺の命のカウントダウンが」

『ああ、このゲームね』


『あんま怖くないやつじゃん』

『どっちかというと感動系じゃん』

『これの製作者なかなかの変態だよね』


「何これ。何すればいいの? マシンガンどこ? ロケランどこ?」


『そういうゲームじゃねえからこれwww』


「落ち着いて。まずはお話ちゃんと聞こ?」


 そうだ。ゲームだからストーリーはちゃんとあるのだ。


 ……ほう。シンプルで分かりやすい。娘は入院していた病院で亡くなり、死因は不明。院長も死亡し、病院はいきなり廃病院となる。娘の死因を探るために病院へ「え、もう怖いんだけど。帰っていい?」


「娘の為に頑張れ、パパ♡」

『パパがんばえー』

『がんばえー』

『まけろー』


「なななななあ? もう帰ろうぜ?」

「えいっ」

「やめて! 動かさなぎゃあああああああ」


『なんで自動ドアの音でビビってんすかね』


「え、待て。廃病院じゃないの? なんで電気通ってんの?」


『電気会社と契約切り忘れたんやろ』


「そ、そうか……? それなら電気付けに」


『あ』

『あーあ』

『鼓膜用意』


「待って? なんで? 鼓膜用意しないで?」

『直で脳に響かせろと?』

『死ぬが?』



「まあまあ。行っちゃお」

「ま、待て。一度落ち着こう。ここはおかしぎぇああああああああああああああ」


 ブレーカーの所に行こうとしたら手が降ってきた。


「なんで? なんでおててが降ってくるの?今日の天気は曇り時々おててなの?」

「そうだよ」

「モウムリ……ヤダ……オテテコワイ」


『くっそ賑やかな廃病院で草』

『これお化け側も迷惑だから帰って欲しいやろ……』

『お化けくん鼓膜予備あるかな』


 しかし。もうここまで来たら進むしかない。ええい! 男は度胸!


 探索を進め「うあああああああああねずみいいいいいいい!」

「落ち着いて。カイリ動物好きでしょ?」

「そういえばそうだった」


『情緒ぶっこわれてて草』

『うわあ! 急に落ち着くな!』

『何今の変わりみ』


「ねずみちゃん可愛い……ん? なんかもごもごして……」


 ねずみに近寄ると。振り返り……



「ぎゃああああああ! おててえええええぇぇ!」

 おててをもごもごとしていた。


『草』

『おててこわくないよかいりきゅん』

『おてて草』


 その後の探索も。


「おぎゃあてえええええ」

「おててきらいいいいいいい!」

「あ、ねこちゃん」

「ゆびいいいいいいいぃ!」

「おててにつんつんされたあああああ」

「呼んだ?」

「ツンデレはお呼びでない。あとお前はツンデレとは呼べないだろ。ド変態系ヒロインが」

「かにいいいいいいい! かに?」

「かにだね」

「かにちゃん……君だけが癒し」

「カイリ。右スティックぐるーってしてみて」

「? ……うああああああああああ! おてておばけええええ! ……って手の率高くないか」


『そりゃあ作者が手フェチだからな』

『作り込みすごいぞ』

『手フェチなら実質エロゲみたいな所あるしな』


 作者もなかなか意味不明な「ああああああああああ!」


 下から手が伸びてきて顔面が掴まれた。


『なんか悲鳴が心地よくて眠たくなってきた』

『正気か?』

『狂気に決まってんだろ』

『SAN値チェック失敗しちゃったか……』


 そうして叫びながらも探索を続け……娘のカルテやら手術室の鍵やら手に入った。


「あ、一応セーブしといて」

「え? やだ。電源切る」


 セーブってあれじゃん。ゲームオーバーになった時にやり直せるやつじゃん。ゲームオーバーになる要素あるって事じゃん。


『何かを悟ってか恐ろしい事いい始めてて草』

『なんの躊躇いもなく二時間をドブに捨てる男』

『本番はここからなんだよなあ……』

『幼児化カイリきゅんすこ』


「ちなみに今カイリは私を背中からぎゅってしながらプレイしてるからね」

「ばらさないでくれる!?」


 そうでもしないと怖いのだ。人の温もりis大事なのだ。


 ああ、人肌温い。生きてるって実感する……。


『ママに甘える子供やん……』

『カメラつけろ』

『うらやま……』

『瑠花ちゃんそこ代わって』


「ぜっったい代わんないからね」

「ななななななあ? そんなことよりさ。このゲームのセーブって……エラーとか起きた時用だよな」

「ちなみにダッシュも出来るよ。今まで教えなかったけど」

「そそそそうか。たんさささささくとかべべべんんんりりににななるるもんな」


 

『喋り方バグっとるやんけ』

『デバッグ班はよ』


「おまかせ。えい!」

「ふにゅん!?」


 おててに柔らかい感触がっっっ!?


 見ると。瑠璃はニコリと笑い……俺の手を自身の胸の上に移動させ、手のひらを重ねて揉んだ。やわっこ!?



 その顔は、何かを企んでいるようで。


「いきなりですが。ここで。同時企画を行いたいと思います」


 ニコリと笑いながら、そう言ったのだった。

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