第3話 初手全裸土下座配信&鼓膜破壊RTA世界記録到達配信まとめ(神絵師もいるよ)その二

「んー……どこだと思う? 手ではないけど」



 その言葉にコメント欄がざわつき始めた。



『……え? 手じゃないの? 喋ってるから口では無いし』

『顔面騎……』

『それだと配信するサイトミスってて草』


「あ、おっきくなって来た」


 彼女の言葉とともに、コメントの流れる速さが加速した。


『!?!?!?』

『おいおいおい……イクわあいつ』

『ナニが!? ナニが大きくなってるんですか!?』

『そりゃあ……ナニだろ』


「んぐー!」

『やべ、興奮してきた』

『苦しむカイリきゅんすこ』

『ガチの方々が湧いてきたな……』


 次の瞬間、ぷはっと息を吸い込む音が聞こえた。


「やめ、ろ! 胸を押し付けるな!」


『!?!?!?!?』

『羨まけしからん』

『俺もカイリきゅんに雄っぱい押し付けたいぞ!』



 そうしてやっと、2Dモデルの表情が動き始めた。実にうんざりしたような表情だ。


「……さて。次に話すのはチャンネルの方針だな」


 何もなかった、とでも告げるように。彼は話を切り替える。


「このチャンネルでは……何するんだ? 全く聞いてなかったんだが」

「あ、色々やろうと思ってるよ。雑談とかゲーム実況とか。あと私のお絵描き配信とかも」


『え?』『まじ?』『神絵師のお絵描き見れるってま?』


「……お前。ゲストじゃないのか?」

「ううん。レギュラーだよ。毎回横にいるよ。時々上とか下にも居るよ」


『新手のSCPかな?』

『当たり前のように居座るつもりなの草』

『やったぜ』

『というかこれもう実質カップルチャンネルでは?』


「という事で。あ、そうだ。間に合わなかったけど私の肉体も近いうちに錬成するからね。分かった?」

「……だめではないが。当初の話と「細かい事は気にしないの!」」


『母子配信助かる』『瑠花チャソが動くの楽しみすぎる』『3D全裸土下座配信はよ』


「……分かったよ」

「やった!」


 渋々承諾したような声に喜色の浮かんだ声。それにコメント欄は沸いた。


『は? 何今の。くっそかわいいが?』

『俺にも分かったよって言ってほしい』

『瑠花タソ可愛い』


「まあ、それは良いとして。時間も押してるしどんどん行くぞ」

「おっけー」


 続いて画面に映し出されたのはどデカく表示された【目標】という文字。


「あー、Vtuberをやっていく上での大きな目標だな。もちろん、この動画サイトで生き残るのは難しい事も分かっている。だが、目標は大きければ大きいほど良いからな。ここは大きく、ひゃくま――」


【100億人】


「なんだこの数字は。小学生でももうちょい遠慮するぞ。人口オーバーしてんじゃねえか。台本と違うぞ」

「目標は大きい方が良いって言ってたじゃん?」

「限度って知ってる? 人口オーバーしてるよ?」

「些細な問題だよ」

「些細と呼ぶにはデカすぎる問題だよ」

「い、居ない分は私達で作れば良いんだよ」

「ガチで言ってるように見えるから恥ずかしがるな」


『日本の少子化もこれで解決だな』

『子供三十億人かぁ……』


「とりあえず……このチャンネルの目標は登録者100万人、だ。そして。もう一つ。SNSの目標は、フォロワーを【雨崎瑠花】に追いつかせる事だ」


『もうチャンネルの登録者十万人超えてるんだが?』

『十万人の鼓膜を破壊した男』


「……え、まじ? もう十万人超えてるの?」

『超えてるぞ』


「あ、ほんとだ。ほら、カイリ」

「……十万人記念配信する?」

「ちなみに同接十五万人来てるよ。いま日本一位みたい」

「……スゥゥゥゥゥ」


『あっ(察し)』

『お前らァ! 耳栓は持ったかァ!』

『イヤホンを耳から取れ!』


「あ゛り゛か゛(カット)


『ふぅ……まさかイヤホンを外して丁度いいレベルの音量とは』

『一瞬だけ同接五万人減って草』


 そして。パン、と手を打ち鳴らしたような音が響く。


「さて。最後にこれからのスケジュールを貼って終わりにしますか」

『え? もう終わり?』


「実は今日配信って知ったんですよ、俺」

「私がお昼頃伝えたんだよね」


『中々の無茶ぶりしてるやんwww』

『でも配信の慣れてなさからしてまじな説はあるな……』

『えぇ……?』


 そうしてコメント欄で様々な憶測が飛ぶが、二人は一切その事に触れない。


 すると、ティロン♪という通知音が響き――



 ティロティロティティティティティティロン♪


「やば、スマホの通知切ってなかっ――」


 彼は通知を切ろうと少し離れ。


「あ、身バレした」


 と呟いたのだった。


『身バレまでRTAしてて草』

『RTAしすぎだ。生き急いでんのか』

『特定班はよ』


「ははっ。俺知らね」


 乾いた笑いと共に、ポスリと何かが投げられる音がした。


『あ、おい。スマホ投げんな』

『現実逃避してて草』


「さて、という事で。これからのスケジュールがこちらです」


 コメントを無視して画面が切り替わり。一週間の予定表が映し出される。


「これが一週間……の…………待て。明日ほらーげーむ配信? ほらーげーむってなんだ? おいしいのか?」

「あ、ちなみにカイリは去年ちっちゃい子が怖がるタイプの絵本でガチ泣きして一週間私が居ないとトイレに行けなくなったくらい怖がりだから」


『カイリきゅん可愛いすぎやろ』

『俺がトイレに(このメッセージは削除されました)


「べ、べべべべ別に怖くねえし? お化けなんてい一撃で倒せるし? こ、怖くねえし?」


『誤魔化し方が小学生男児なんよ』

『カイリきゅんが小学生……? ごくり』

「ごくり」

「おい。お前まで生唾を飲み込むな。それと怖くないからな? 怖くなんてないんだからな???」


 またもやコメントが盛り上がる中、彼女は面白そうに声を上げた。


「へーえ? あんなにベッドの中で『こわいよお、ままぁ……おっぱい』って言ってたのに」

「とんでもねえ記憶の改竄をするんじゃねえ」


『ぱぱぁ……ぼくがおっぱいぃ……』

『お前は早くBANされろ』

『カイリきゅん推しの闇は深いな』


 そして。彼女が咳払いをし、話を戻した。


「それじゃ。明日はホラゲー配信ね。私は隣でゾンビコスしとくからね!」

「死ぬが? え? 殺す気?」


『【悲報】カイリきゅん、余命一日』

『鼓膜の予備百個ぐらい用意して待機します』

『既に全裸待機してます』

『ただの裸族やんけ』


「じゃあまた明日ね〜。さよ瑠花〜」

「おい、強引に終わらせようとするな。まだ話は「さよカイリ〜(低音ボイス)」似てねえからプツッ


 ◆◆◆



「なんだこのふざけた配信及び切り抜きは」

「バズっちゃったね。さすが海流」

「主にお前のせいだろうが。どうしてくれるんだ」

「え? でも全裸土下座配信は海流も乗り気だったでしょ?」

「……それは否定しないが」


 何事も始めが肝心だ。何かインパクトのある事をしたいと伝えたら告げられたのだ。

『全裸で土下座配信は?』

 と。



 頭がおかしいと思うだろう。うん。俺もそう思う。あの時の俺は緊張で頭がどうにかしていた。


 しかもその絵を十五分程で仕上げたこいつもおかしい。神絵師の無駄遣いが過ぎる。


 しかも……何がおかしいって。


「こんなのがバズる世の中が狂ってやがる」

「最後の方視聴者数二十万人近かったもんね」

「SNSトレンドも一位だし……なんなんだこれは」


 スマホに映し出された画面を見てため息を吐くと。瑠乃がニコリと笑った。


「今日も配信頑張ろうね、海流。……初のホラーゲーム配信だけど」

「いやだああああああああああああああああああああああ」

「鼓膜破壊助かる」

「#リスナーに回るんじゃない雨神瑠乃」



「……お前ら。身バレしてるのに凄い余裕だよな」

「やめろ。今現実逃避してるんだから」


 ちなみにここは学校である。周りからの視線とヒソヒソ話が心にくる。うぅ……。


『身バレなう』

 と呟けば即座に千ものいいねを超える。怖い。こいつら無職なのか。


『いえーい。リスナーのみんなみってるー? 私は今リアルカイリと一緒にいまーす』


 こんなリプまで。怖い……同じクラスの奴だろ……ん?


「おい瑠乃。これはなんの冗談だ?」

「え、え? なんの事かな?」

「無理があるだろ。神絵師アカウントでのリプで誤魔化すのは。無理があるだろ。しかも相互フォローなんだぞ」


 ため息を吐いて。俺はスマホを仕舞う。



 これから先……どうなるのだろうか。


 そんな疑問を噛み殺し。また現実逃避の旅へと向かうのだった。



 ホラゲーヤダ



 次回 カイリのドキドキ! ホラーゲーム実況! 神絵師ド変態も居るよ!

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