第46話「爆炎より現れし者たち」

「おい」

 フェイルの隣にどさりと腰を下ろした少年が言った。

「いつまで、そうしてるつもりだよ」


「何もできない能無しは黙ってな」

 フェイルはまったく目を向けないまま、隣の少年――ダフを挑発するような笑みを浮かべてみせた。


「黙ってられるかよ。せっかくレリウス様から頼まれてたことを伝えたってのに、おまえ、一向に何もする気がないじゃないか」


「まるで自分が活躍したみたいな言い方じゃねえか。誰がおまえを王宮から逃がしてやったと思ってる。俺がいなきゃ今頃おまえはディファトの兵にとっ捕まって縛り首だったかもしれねえんだ。少しは感謝してその口閉じてろ」


 フェイルがシンと分かれてラスティアやレリウスのもとへ戻ろうとしたとき、すでに王宮は混乱の最中にあった。そのためフェイルは無理に人前に出ることはせず、レリウスから与えられていたアルゴードの屋敷の一室に身を潜め、事の成り行きを見守っていたのだった。


 やがてディファトの兵がラスティアとレリウスの罪状を声高に叫びながら館に押し入ってきたとき、フェイルは躊躇うことなく逃亡した。


 もとより王宮から脱出するための経路はレリウスから聞かされていたし、自分一人だけならそれほど危ない橋を渡ることなく王都へ出られるはずだった。だが、レリウスはラウル王からの密書以外にももう一つ面倒な荷物をフェイルに託していた。


「『もし自分が殺されるか捕らえられるかした場合、フェイルに必ず約束を果たすよう伝えよ』」

 屋敷を出ようとしたフェイルにしがみつく勢いで向かってきたダフは、開口一番レリウスからの言葉を伝えてきたのだった。


 一瞬固まってしまったフェイルだったが、ディファトの兵たちがレリウスの臣下を次々と捕らえて騒ぎのなか我に返り、そのままダフを連れて王宮を抜け出してきたのだった。


「ラスティアたちを助けようともしないで逃げ出そうとしたやつに言われたかないね」


「馬鹿が。だからこそレリウスから頼まれたことを実行できるんじゃねえか」


「まるでそうは見えないから言ってんだろ。レリウス様からどんな命令を受けていたのか知らないけど、酒場で酒を飲み続けろなんてことじゃないことだけは確かだからな」


「何も知らねえならそれこそ黙ってろ。だいたいおまえ、どうして俺にへばりついてる。レリウスからの言いつけを守ったなら後は好きにやれりゃあいいじゃねえか。どこへなりとも行っちまいな」


「そうはいくかよ。俺はおまえがちゃんとレリウス様との約束を果たし終えるまで絶対に目を離さないからな。俺を拾ってくれたラスティアのためにも、俺は俺の役割を果たす」


「ずいぶん崇高な使命をお持ちなようで、羨ましいぜホント」

 フェイルが吐き捨てるようにして言う。


 ダフが剣呑な目つきでフェイルへと近づき、胸ぐらをつかむ。

「おまえ、いい加減にしろよ」


「俺が黙ってるうちにその小汚ねえ手を離しな」

 フェイルが見下すような視線をダフへと向ける。


「ちょいと、喧嘩なら外でやっておくれよ!」

 間髪入れず、カウンターの奥から威勢の良い声が飛んでくる。

「ラウル王が殺されちまったことでただでさえみんな殺気立ってんだ。余計な争いごとを持ちこまないでおくれよ」

 

 ダフが舌打ちしながら手を離し、フェイルは愛想笑いを浮かべながら「同じの、もう一杯」と手を上げた。


「ラスティアとレリウス様は、俺を糞溜みたいな生活から救い出してくれた。今度は俺が助けになる番だ」

 ダフが独り言のように言った。


「そいつは俺も一緒さ」

 素直にうなずくフェイルを見て、ダフが眉をしかめる。

「俺みたいな何の後ろ盾もない風来坊が成り上がるためにはラスティアやレリウス、それにシンみたいなとんでもねえ力を持つやつについていくしかねえからな」


「おまえのことなんてどうでもいい!」

 ダフが叫んだ。

「俺は——俺たちは、ラスティアたちに何が起きたのか、まったく知らないんだぞ。ラスティアが陛下を殺したなんて、そんなことはひとつも信じちゃいない。だけど、言い逃れできないような状況が揃ってるのは確かなんだ。ここで好き勝手噂してるような連中と、俺たちはなにも変わらない。もしおまえがラスティアやレリウス様たちを助けられるような鍵を握ってるんだとしたら、俺も——俺だって、何かの役に立ちたいんだ!」


「言葉に気を付けな、こんだけ騒がしい場所でも誰が聞いてるかわからねえんだからよ」

 静かな口調でフェイルが言うと、ダフは慌てて周囲を見渡した。


 しかしフェイルとダフがいるのは、オルタナでもかなり客入りの多い大衆酒場だった。皆、酒を片手に今王宮で起きていることを声高々に論じることに忙しく、その片隅にいる二人を気にかけるような者は一人もいなかった。店員でさえ、フェイルが頼んだ火酒を乱暴に渡すと、早々に常連客の輪の中へ戻っていった。


「しっかし、ラスティア王女のパレスガードはとんでもねえな。、見に行ってみたか?」

 客の一人が言うと、傍らの客も身を乗り出すように話し出す。


「兵士やギルダーたちに封鎖されてあまり近づけなかったが、ちゃんと見れたぜ。確かに底も見えねえほどの亀裂だった」


「いくら変異種が襲ってきたからって、あそこまでやるかね。水路の方は問題ないにしろ、陸路は完全に遮断されちまったじゃねえか」


「ホントだよ、外からやってくる客が減ったら商売上がったりだ」


「おまえら、あんま滅多なこと言うもんじゃねえよ。まだ年端もいかない子どもらしいが、底も見えねえ亀裂を作っちまうような人だぞ。今まではただの噂と思って気にしてなかったが、ストレイの再来っつーのも案外間違いじゃないのかもしれねえ」


「どうだか。もし噂どおりのお方だったとしら、そもそもラスティア王女が逃げ出すことにはならなかっただろうさ」


「確かに。ラスティア王女には随分期待したもんだが、ご自分のパレスガードと一緒にこの国をいいだけ引っ掻き回してくれただけだったな……」


 耳を澄ませばそのような会話がいくらでも聞こえてくる。タブは拳で激しくテーブルを打ちつけた。

 一瞬まわりの目がこちらへと向くが、フェイルがにやけた顔で手を振ると、すぐに興味を失くしてまた元の会話に戻っていった。


「くそ、どうしてシンはラスティアを連れて逃げたりしたんだよ!」

 ダフが小さく叫ぶ。

「 何があったのか話してくれないと、本当のことなんて誰もわからないだろ!」


 その瞬間、フェイルは高々と笑い声をあげた。

「何がおかしい!」


「ホントおめでたいやつだな。もしラスティアとシンが逃げずに王宮に留まっていたとしてだ……おまえ、あの二人がどうなっていたかわかるか?」


「そりゃ、レリウスと同じように投獄されたかもしれなけど――」


「そんなで済むかよ、特にラスティアはラウル王殺しの張本人って言われてんだぞ。王殺しはどんな国だろうと大罪中の大罪だ。今みたく政敵ディファトに権力を握られている状況のなか少しでもそんな疑いをかけられちまえば生きていることを後悔するような拷問に晒された挙句、あることないこと自白させられて縛首だ」


「そんな——ラスティアはこの国の王女様だぞ」


「おまえ、小姓見習いとしてお勉強に励んでたんじゃないのかよ。権力争いに敗れた王族たちの末路がどうなるか、おまえの教育係は教えてくれなかったのか?」


「でも、でもラスティアにはシンがいるじゃないか。他のパレスガード三人が手も足も出なかったって——」


「シンだって万能じゃねえ。バンサーたちとやり合ったあと、グルの枯渇ってやつを起こして意識を失っちまうところを俺は直に見た。ザナトスでバルデス軍を退けたときだってそうだ。そのときのあいつがどうなったか、おまえもよく知ってんだろ」


「でもあのときは……さすがにとんでもない力を使ったからで」


「レリウスも言ってたぜ、いくらストレイとはいえ、空腹状態のまま閉じ込めちまえば恐くないってな」

 フェイルのあまりにも乱暴な要約ではあったが、誤った説明をしたわけではなかった。


「でも、でもさ……肝心な二人がいてくれないと、取り残されたレリウス様たちの言い分に信憑性がなくなっちゃうだろう? いくら本当のことを言っても、誰も信じてくれないかもしれない」


「今の状況で語られる真実なんかなんの意味もねえよ。そんなもんはいつの世も時の権力者たちにねじ伏せられてきたんだからな」


「なら、レリウス様たちはどうすればいいんだよ。このままだと本当に国王殺しの罪に問われて縛首になる!」


「レリウスやリヒタール、ルノ、ブレスト侯といった面々は大物揃いだからな。すぐにどうこうって話にはならんだろうさ。上には上の規則、仕来り、裁き方ってもんがあるだろうしな。俺たちができることは——知っておくべきことは、アインズ国民の多くが、何を信じたいかってことさ。こんな場所で俺が酒を飲んでることにもそれなりの意味があるってこった」


「何を信じたいか? どういうことだよ」


「少しは足りない頭で考えてみろよ。ま、俺は別におまえがどこへ行こうが知ったこっちゃねえ、俺といるのが嫌だってんなら、どこへなりとも行っちまいな」


 ダフはしばらく考え込んでいたが、やがて店員にフェイルと同じ注文をした。

「おまえといるのは癪に障るけど、俺が何もできない能無しだっていうのは当たってる。しばらくは我慢しておまえについていくことにする」


 フェイルはダフを値踏みするような目で見つめると、軽く肩をすくめながら言った。

「なら、言っておいてやる。今すぐオルタナを出ていくような奴は間違いなくディファトの兵どもに目をつけられるか、最悪捕らえられちまう。体制側の人間じゃないことは一目瞭然だからな。レリウスたちとの関係性や俺たちの目的をあちらさんに知られたら一環の終わりだってことをその小さな頭に叩き込んでおくんだな」



 ξξξξξξ



「まったく、シンもやってくれたわよね」

 グレースが両手を腰に当ててながら大いに憤慨してみせる。

「結局もとに戻さないままどこかへ行っちゃったじゃないの」


「こんなことに構っていられる状況じゃなかったってことは、想像できるだろ?」

 ミュラーが宥めるような声で言った。

「シンのおかげで大勢の人の命が助かったんだ。僕たちは僕たちに出来ることをやろう。シンを追いかけて行くのは、その後だ」


 グレースとミュラーの二人は、王宮とギルドによって編成された変異種討伐部隊に加わっていた。

 シンのセレマによって変異種の大半が深い地の底へ消えたとはいえ、いまだ残った変異種たちが亀裂の向こう側やオルタナ周辺を彷徨い続けていたからだ。


 王宮付のエーテライザーとギルドに所属するエーテライザー、総勢五百名以上にも昇る討伐部隊は、水路を使って亀裂の反対側に渡ると、それぞれ所属する部隊やパーティごとに次々と変異種を殲滅していった。


 特にアインズ・ギルドが誇るパーティ、『水月の守護者』や『百足』といった面々や、彼らを率いるマスター、ニコラス・フレアやルーベン・エリオットは、他を圧倒する勢いで大型の変異種を仕留めていった。

 グレースとミュラーがギルドで出合ったレイ・シモンズや、グレースの面倒見役でもあるイーリス・ステイルの活躍も目を見張るものがあった。


 レイとイーリスは自身の練り上げた高密度のエーテルを針をも通す正確さで変異種の頭部と思わしき箇所に命中させ、瞬く間に変異種の首を落としていた。


「すごいじゃない、君のお母さん。イーリスさんって言ったけ」

「お母さんじゃないわよ――ミュラーだって相当なもんなんでしょ? こんなところでさぼってないであっちに参加してきなさいよ」

 前方の戦いを遠目に眺めていたグレースとミュラーは、緊張感の欠片もない言葉を交わし合っていた。


 二人は年齢が若いことを理由に自ら後方へと下がり、諸先輩方が打ち漏らした変異種たちを前線に押し戻すか、そのまま亀裂に押し込むかといった役割を果たしていた。


 二人の実力からすると、要はグレースの言う通りさぼっていたのだった。


「お互い様じゃないか。君なら真っ先に前線へ行くかと思ってたよ」


「正直、シンのを見たあとで気が抜けちゃったのよね……それとも、ラスティア王女のことを訊いたからなのかな。どうしても、やる気にならないの」


「気持ちはわかるよ、僕も同じような感じだからね。僕としては早いとこ危険を取り除いてシンたちを探しにいきたいんだけど」


「ねえ、本当に行くつもりなの? 今の状況下であの二人と関わったりしたら、アインズ全土から追われる身になるのよ?」


「その言葉、そっくりそのまま君に返すよ」

 ミュラーは呆れたようにため息をついた。


「私? 私はもちろん追いかけるわよ! だって、ストレイをこの目で見て、直に話して、その手助けまでしたのよ? 伝説にも近い、ストレイとよ!? しかも彼と一緒にいるのは国王暗殺の容疑で国を追われたアインズの王女なのよ!? こんな興奮する状況が、他にある!?」


「いや、他にあるかと聞かれたら、思い当たらないけど」

 さすがのミュラーもちょっと理解できないといった様子で首を振る。

「もし二人と出会えたとして、いったい君はどうするつもりなんだい?」


「もちろん助けになれることがあればそうするし、特になくても一緒にいさせてもらうわよ。私の直感が言ってるの——いえ、胸の奥で叫び続けてるくらいよ、シンとラスティア王女を追いかけなさいって! 私はもう絶対、自分に嘘をつきたくない」


 グレースは興奮して拳を握りしめていたが、ふと思い出したようにミュラーの方を振り向いた。

「あなたの方こそ、いったいどうしてシンたち追いかけようなんて考えたのよ」


「僕の場合は、まあちょっと気になることがあるというか。確かめなくちゃいけないことができたっていうか……」

 珍しく歯切れの悪い物言いに、グレースが首をかしげる。


「僕なんかのことより、あったちの方がなんだかきな臭くなってきたと思わないかい」

 特に誤魔化しているわけでもないミュラーの言葉に、グレースが頷いてみせる。


 二人は互いに会話しながらも、先ほどからある一団から目を離さないでいた。


「まだ、揉めてるみたいね」

 グレースが眉間に皺を寄せながら言う。


 二人が気にしていたのは、王宮とギルド、それぞれに所属しているエーテライザーたちの一部が、明らかに対立していることだった。


「――民を見捨てたお飾りの兵どもが偉そうな顔で俺たちに指図しないでもらおう」

 そうギルダーの一人が言えば、王宮側も黙ってはいない。


「おまえたちとて王宮の命令に従っていたではないか。いったい我らとどう違うというのだ」

「ただ命じられるままに動いたおまえたちと一緒にしないでもらおう。我らはギルド長を通して最後まで反抗の意を示した」

「行動を伴わなければ同じこと。結局は手を出すこともせず、目前の危機が去ったあと耳障りの良い御託を並べているだけではないか。市井の者たちから白い目で見られることがそれほどまでに怖いか、民衆の犬め!」

「――貴様、もういっぺん言ってみろ」

「何度でも言ってやろう、おまえたちは民衆の犬だ。下郎」


 その直後、あろうことかギルダーの一人が言い争っていた相手に光弾を放ち、周囲が静まり返った。


「ちょっと——」

「今のはさすがに」


 ミュラーとグレースがそう言いかけるのと、前方で激しい怒号があがるのはほぼ同時だった。

 一部で始まったにすぎなかった争いは、やがて護衛官ラルコンやギルド長、マスターをはじめとする名のあるギルダーたちの制止する叫びも届かないまま、瞬く間に王宮対ギルドの様相を呈した争いへ――それも、同時に変異種を相手にしながらという凄まじい戦闘へと発展していったのだった。


 ミュラーとグレースが呆気にとられてしまうほど、それは一瞬のうちに巻き起こった。まるで最初から戦争するつもりだったと言われても不思議ではないほど、互いの殺気が激しくぶつかり合う。


「間違いなく死人が出る」

 ミュラーがの声質が変わる。


「そんな」

 グレースが片手で口を覆う。

「王宮とギルドの軋轢がこれほどひどかったなんて」


 前方の集団と距離を置いていた二人には、その戦闘の激しさがよく見えた。


⦅皆、攻撃を止めよ!⦆

⦅全員、下がれ!⦆

 ギルド長のホークや、レイ、イーリス、パーティマスターのニコラス、ルーベンらの共鳴もむなしく、互いに数百にも及ぶ腕利きのエーテライザーたちは、積もりに積もったうっ憤を晴らすかの如く、凄まじいエーテル合戦を繰り広げはじめた。


「行きましょうミュラー、みんなを止めないと!」


「駄目だグレース!」

 走り出しかけたグレースの腕をミュラーが掴む。

「あんな乱戦の中飛び込んでいくのは危険すぎる。全員エーテライザーなんだぞ」


 ミュラーが叱責するように言う。マールズと相対したときよりさらに厳しい表情が事態の深刻性を物語っていた。

 何かを言い返そうとしたグレースも瞬時に理解したのか、かすかに首を振るようにしながらつぶやく。


「まさか、こんなことになるなんて。反目し合っていたのは確かだけど……一瞬のうちに、こんな——」


「……人が心底争いを始めるときなんて、案外こんなもんなのかもしれないね」

 ミュラーは先ほどの言動から一転、いたって冷静な口調のまま言った。


「ああ!」

 グレースの視線の先に、エーテルで打ち抜かれ、地面へと落ちる者の姿があった。


「死んだね」

 恐ろしく冷淡なミュラーの声。


「どうにかできないのミュラー!」

 グレースに肩をゆすぶられてもなお、ミュラーは動かなかった。しかしその冷徹な表情の裏には、悲壮ともいえる感情が確かに漂っていた。


「仕方がない、か」

 ミュラーが一歩足を踏み出した、そのとき。


 思わず目を伏せてしまうほどの閃光に続き、凄まじい爆裂音とともに巨大な炎が巻き起こった。

 いまだ数多く残っていた変異種たちを一瞬のうちに焼き尽くしていくその光景には、今まで狂乱の中にあった人々も一斉に身を伏せ、ありったけのエーテルでもって己の身を守るしかなかった。


 いったい誰から、どのような攻撃を受けたのか。

 自分たちを取り囲むように発生した、すべてを覆いつくすかのような爆炎は、いったい――。


 そのような恐怖と混乱が全員の頭に登り切ったとき。


 巻きあがる炎と粉塵の向こう側から、二つの影が近づいてくるのが見えた。


 まるで、その周囲だけが静寂に包まれたかのようだった。今まで確かに繰り広げられていた戦闘の痕跡が、一瞬のうちに消え失せていく。


 現れたのは、濃緑の外套を身に着けた者たちだった。大勢のエーテライザーを前にしてなお、まるで歩調を変えることなく、悠然と近づいてくる。


 二人のうちの一人が、ぴたりとその足を止め、言った。


「我が意志なる刃アンサラーに貫かれたい者は、前に出よ」


 いつの間にかその手には、蒼き輝き放つ光が――が出現していた。


「――アーゼム」

 誰かの漏らしたかすれ声が、やけに大きく響き渡っていった。

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