- 冬 - 3月 卒業式 < 仰げば >
厳格な式を済ませたみんなが教室に戻る。
他の卒業生の教室では
既に最後のホームルームが始まっていた。
3年N組は担任がなかなか戻ってこない中
まだ受験が終わってない生徒も
晴れやかな表情を浮かべる生徒も
みんな最後の1日を噛み締めるように
落ち着いて席に着いていた。
生徒だけのホームルームは
時計の針が反対側を指すまで続いた。
ガラガラっと扉が開く。
30分耐えても抑えることができなかった
悲しみを連れたまま佐藤先生が教壇に登る。
顔をこすりながら
先生がゆっくりと
嗚咽の合間を縫って話し始める。
「実は
先生も
今日で
学校に来るのが最後です。
4月からは塾講師として
録画した授業を流すだけ。
そっちの方が
たぶん向いてるかなって。」
突然の報告に驚く。
でもそれ以上に
その後に続く言葉の重みを察して
教室のみんなは固まったままだった。
「先生っていう仕事は
つらいです。
みんなはこれから
ちゃんとした大人になってもいいし
俺みたいに
ロクな大人にならなくてもいい。
ただ1つだけ。」
教室全体から
みんなの鼻を啜る音が聞こえ始める。
「俺よりも先に死なないでほしい。
自分の教え子を失うことより
つらいことは
ない。」
先生はそこでスピーチを止めて
声にならない声と涙を漏らす。
教卓を支えにしないと
立ってられないくらいにつらそうに見えた。
堪えられない女子たちはハンカチを濡らし
大人しい男子たちもツーっと涙を流す。
そんな高校生活最後の時間が流れた。
ほとんど放心状態の僕は
ピントの合わない視界のまま
一輪の花を見つめた。
そう。
この1年間ずっと
僕の机の上には花が飾られていた。
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