第15話 主はいつもあなたのそばに その②

ハローズ制圧地域西入り口検問所前に止まった車の運転手たちが次々に車を降りて拳銃やサバイバルナイフを取り出した。その数七人。五人は銃を持っている。


キリストは左手のみでゴリラの威嚇を思わせるドラミングを始めた。肘が斜め上を向いている姿はラッパーのマイクパフォーマンスを彷彿とさせる。ベロニカはガソリン車の後ろからキリストの体の側面を観察していた。


(キリスト以前の原始人ね)


「ホッホっ!ホッホッ!!ホッ」


ノースサーキュラー高架下にドラミングの音が連続して響き渡る。数人が大笑いした。拳銃のセーフティーを外すものとナイフを回すものが臨戦体制に入る。その間もキリストはドラミングを止める気配はない。


「なんだコイツ、馬鹿力だけで頭に脳みそは入っていないぞ!撃ち殺せ!」

「オイ、待てよ目元が真っ黒だぜ?」

「この街がいくらオカシイからって何かが変だぜ。橋の上から車に降りてきた…」


ベロニカはハローズに向かおうとしている凡夫たちの言葉に同感だった。昼間に見た子供を背負うピエロとそれを追う民営自警団のカイル。


(怪人種…外の世界から変わるのではなくこの街にいる化け物が街を変えるとでもいうの?目元が黒い…か正面に立つのは危険だけど確認する価値はある)


「気持ち悪い目をしやがって!警備員がもう出てこないってことはセントラルタワーマンズとハローズの自警団が駆けつけるぜ。俺たち人員削減軍を敵に回したことも後悔するんだな!オラ!ゴリラ野郎」


一人のスタジアムジャンパーの男が長台詞をはいてナイフを投げた。鋭く回転した軍用特有の黒銀に光るそれはキリストの頭に命中しキリストは上体をのけぞらせた。


ヨジャがホッと息をついた。ベロニカは直感で銃の撃鉄を引いた。左前頭部にナイフの刺さったキリストは体を起こしドラミングを再開した。


「ホッホッホッ!」


「化け物だ!全員一斉に撃て」


ヨジャが黙り込んでガソリン車と車道のガードレールの隙間に下がっていく。


(集中しろ私!)


ベロニカの眼が赤く染まっていく目の隈は以前より増して深くなっている。


「ヨジャ!グレネードガンをちゃんと構えて警戒して!」


ベロニカはフォーカスの最中は耳が聞こえないので返事は聞こえないしそのつもりだった。怯えるヨジャの姿がサーモグラフィーで見える。


「ベロニカ?眼が…あなたは何者?」


ベロニカに見えるキリストは真っ赤で非常に体温が高いことがわかる、キリストは青くなったナイフを自分の頭から引き抜いて腰を下げて足を開いて構えた。周りを円形に囲んだ人員削減軍の内。三つあるオレンジの影が銃を発砲した。ベロニカには銃の先が赤く点滅して見えていた。


キリストの赤い影が上方に消えた。アスファルトが弾けた様子を見たベロニカは視界を広くするためにガードレール沿いに下がった。銃弾が何発かベロニカの近くを通った


跳躍したキリストは検問所近くベロニカの位置から奥にいる二人の男をナイフで同時に切り裂いた


オレンジの影は散り散りに広がって尚銃を打ち続ける。発砲した銃と興奮した男たちの顔が赤色に変わった。続けてキリストは銃弾を何発か受けたが二人の腕を切り落とした。


ベロニカはシックスチャンスをガンホルダーにしまってコートに手を入れて背中に伸ばした。


(選択肢は一つね、ヘッドスプラッターで頭を粉々にする…!)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る