第14話 主はいつもあなたのそばに その①
割れた車道を避けて、スピードを上げたバイクは行き止まりに差し掛かった。ロンドン北方面をとおるA406環状道路(西の元ウェンブリー地区と東の元イルフォード地区に通る道)は全てハローズの制圧地区とセントラルタワーマンズを隔てる壁になっている。
ハンガーレーンの交差点の半分は無理矢理に立てられた壁で区切られていた。ベロニカはバイクの舵を右に取り壁に沿って少し舗装が荒い道路に入る。砂利道と言ったほどではないが少しデコボコしている道はロンドンが閉鎖されてから整備されたようだ。
「ヨジャ、元気は出た?ノースサーキュラーっていう高架道路がそろそろ見えてくるから検問の心構えをしておいてね」
ヨジャは左には壁が続いていることに閉塞感を覚えていた。先ほどのような化け物が今の世界に存在することも相まって不安感が増している
「ハローズって場所が本当に平和ならいいんだけど」
前方に明かりが見えてきた。壁で隔てられた高架橋の下に検問所があるようだ。
(Prime Blackmore Drive Village)
ハローズを隔てる壁に沿って看板がかけられている。
高架橋の防護柵の向こうにはボロ小屋がいくつか立ち並んでいる。その下では数台のバイクと車が止まっている。壁に埋め込まれた検問所は奥が見えないファーストフード店のドライブスルーと言ったところだろうか。
停車したバイクからすぐに降りたヨジャは先ほどまでの暗がりとは違う人の気配があるハローズ制圧地域西入り口を眺めた。
「壁の向こうはハローズっていう所なんだ。信じられない」
ガソリン車が検問所から離れたところで止まっている。荷台にはガソリンを供給する席があり畳んだ布がかけてある。
高架下手前に入ったベロニカはバイクを降りてガソリン車まで近づいていガソリンのタンクを(コンコン)と叩いた。
「うぃーす」
と声がしてガソリン車から運転手が降りてきた。赤いキャップ帽子に茶色いジャンパー、ジャージパンツにスニーカーの男は酒を飲んでいるようで顔が赤い。
白髪混じりの無精髭を撫でた後、赤いキャップ帽の男は手を差し出した。
ベロニカはヨジャに合図を送ってからリュックの青い袋を取り出した。ヨジャは袋を受け取って赤いキャップの男に渡した。男は荷台にかけてある席にかけてある布を外した。人が一人入れるくらいの段ボール箱のようなものが置いてある。
ガソリン車の後部にはバイクを乗せる金具がつけられている。
ベロニカと赤いキャップ帽の男は二人でバイクを持ち上げて金具に乗せてロープを使って固定した。
「これでよしと。ケヴィンさん後はよろしくね」
ケヴィンと言われる男は頷いてヨジャを見て荷台を指差した。
「ヨジャ、私の電話番号を教えておくから。この先、何か困り事があったら十五万ドルでハローズまで駆けつけるわ」
「生きていけるかな」
「生存率を上げるに越したことはないわ。分割払いも可能よ」
残りの白い薬の袋をヨジャに渡したベロニカはスマホを取り出した。
その時、窓ガラスと金属が割れる耳をつんざくような衝撃音が検問所前に響いた。
車の防犯ブザーがなっている。検問所に並んでいた五台の車の内一台の天井がひしゃげて何かが着地している。ベロニカは右のホルスターからシックスチャンスを抜いてガソリン車の陰に隠れた。ヨジャも追いかけてきてベロニカの後ろについた。ガソリン車のケヴィンは運転席に逃げ込んだようだ。ドアを閉める音が高架下に響いた。
「何をしている!爆発物を持ってきたんじゃ無いだろうな!」
検問所の警備員が事務所の扉から出てきて叫んだ。小太りの男は車の上にいる男を見上げた。
「なんだこのホームレスは、デカイな」
キリストのような風貌の巨人は車上から降りてゆっくりと警備員に近づいた。そして大きな手で頭を鷲掴みにした。
「はぁ?やめろ!オイ」
警備員の首がちぎられて体は地面に崩れ落ちた
(さっきの歩道橋の化け物か、着いてきたのか?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます