第16話 セントラルタワーマンズ自警団
ベロニカはハローズ人員削減軍の面々が惨殺されている様子をフォーカス状態で追っていた。キリストの動きは非常に早く一対一では勝てそうにない。そこでベロニカは残り一人となった作業ツナギを着た男を利用することにした。
上手くいけばその男を救ってハローズ人員削減群が群がっている第二の検問をいつでも通れるようになるかもしれない。
「キリスト様、こんばんは。先程は見逃してくれてありがとう。今回はそうはいかなさそうね」
人員削減軍を相手に無双していたキリストは眼の周りのクマを深めてベロニカの方を見た。奥で震えながら銃を構える作業ツナギの男に向かってベロニカは叫んだ。
「この化け物の足元にありったけの銃弾を撃ち込んでくれると助かるのだけど!」
「わ…わかった!この女も目元が黒い…」
この返事はベロニカには聞こえないが、作戦を実行するしかない。
ベロニカをじっとりとした茶色の眼でみつめたキリストは昼間に遭遇したピエロに近い仕草で小刻みに震えながら左手でドラミングを始めた。
((ドッドッドッ…))
(私の顔になんかついてるわけ?昼間のピエロも含めてこのヘンなやつらは一体?)
「ホォぉォン!ホっオオオ…」
キリストはベロニカの方向を見たまま高架下の向こう側に跳躍してからアスファルトに着地した。バスケットボールの競技場なら観客席からダンクシュートできるほどのスーパージャンプだ(しかも背面からダンクできる)そしてもう一度跳躍して姿を消した。大きな猫が塀に飛び降りるようにして跳躍したキリストの着地音は聞こえなかった。ベロニカはツナギの男に手をかざした
「もういい、撃たなくていい。落ち着いて」
ベロニカはフォーカスを解いた。若干の疲労感が頭痛になって現れたことでベロニカは髪をクシャクシャとかき回した。ツナギの男が周りを見渡した
「なんだったんだアレは…みんな死んじまったよ」
作業着ツナギの男は膝をついて息を上げている。その時だったスピーカーケーブルが切断された時のようなノイズがハローズ制圧地域にし入り口に鳴り、続けてサイレンのようなフィードバックノイズが派手に咆哮を上げた。さらにベロニカがバイクで通ってきた狭い通路から大型のライトが高架下の道路に光を通した。眼を細めたベロニカは手をかざして光の方を見た。
スピーカーからジャギー混じりの警告が発せられた。
「こちら通報を受けて警備に当たっている…(ブツッ) セントラルタワーマンズ自警団第二部隊だ手をあげて武器を捨てて速やかに…投降しろ。 …ザー…西入り口の向こうでハローズの自警団が待機している。(ブツッ)向こう側にも間も無く第三部隊が到着する!武器を捨てて膝をつけ」
光の向こう側からゴツゴツとしたヘルメットに防弾チョッキ脛と膝にカバーをつけてアサルトライフルを持った重装備の小隊が五人で近づいてくる。
近くでみるとかなり現代的な軍人の装備に見える。奥にスーツ姿の人影が見えた。重装備の一人がトランシーバーに話しているのが聞こえた。
「現場の車両の破損から見るにおそらくはローズ北西検問所フォーカスセンスの固有種ブラウン(バイタリティ)の奇襲があった模様。死亡者数名確認。生存者が今現在確認できるだけで三名」
チームの一人が振り返りスーツの男に声をかけた。背後からの逆光で見えづらいが四十代に見える。治安の悪いスワンプケンジントンでは見かけない人種とも言える刑事の風格がある。
「全員を勾留してビッグベンに移動します。あとは追わなくても良いのですか?」
「あの化け物を追う必要はない。バイタリティーは放置だ。あいつを殺すのには恐らくだけど爆弾がいるからね。何が理由かはわからないけど立ち去ったみたいでよかったよ、アレ?あの女性の方、ショットガンを持ってるよちゃんと押収して」
「了解しました。おい!そこの女!銃を地面におけ!今からお前たちにはビッグベン捜査局で話を聞くから大人しくしてろよ」
警備車両から放たれる光に包まれたベロニカは銃を地面に置いて膝をついた。
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