第11話 ロンドンを囲む壁

午後七時半 運転しているベロニカとタンデム(後部座席)にヨジャを乗せたハリーデビットソン製「アイアン」はスワンプケンジントンヘイストストリートをロンドン北西に向けてキングピープルストリートに入った。


最初の信号まちでエンジンをふかしているバイクはグリーンを基調とした風体だ。道路脇の排水溝から立ち上る湯気で湿り気の多い通りには霧も発生している。


数キロ先にはワトフォード地域があるはずの強引に設置されているであろうデコボコとした高い壁が見える。そこでは灯台のようなライトをつけて周囲を見張っているように見える。あの壁の向こうの世界は今どうなっているのだろうか


「結構良いバイクねコレ。整備もされているし、ヨジャ!いくら走りが良いからって閉鎖されたロンドンの壁に近づいたらダメよ」


後ろからヘルメット無しのヨジャがベロニカに叫ぶ。


「なぜ壁に近づいてはいけないの?」


ベロニカは答えるが自身がロンドンと外を隔てる壁の近くに行ったことはないのでフェイカードの新聞で見た噂話でしかない。


「北はハローズ、南はクイーンズの自警団が武装して待ち構えているって話を聞いた事がある。ロンドンの外に出ようとする人間を殺すデメリットは全くないから容赦がないって話よ。壁の周りには自警団の住宅があるからその近辺でもよそ者がいたら殺されるらしいわ」


「デメリットはないって、意味がわからない」


「要するにロンドンの中から外に出る人間を殺しても他国から非難されたりする事がないのが現在の外の世界情勢なんでしょ」


ヨジャはアジア圏の記憶があるのだろうか、いや無いだろう。だが壁の近くに住む人間たちは何か知っているはずだ。ベロニカも機会があれば金を払って聞いてみたいと思う事があるが今の所壁側の人間と遭遇したことはない。


「世界に何が起きたっていうのよ一体」


ベロニカは周囲を見渡した。街灯は一部がついていないがホームレスや不審な歩行者は見当たらない。バイクのランプが先の道路を照らしているレトロなイギリスの低い建物に囲まれた街並みの中に灯りがいくつか見えるがどの住人も入れ替わり立ち替わりなのだろう。


閉鎖されたロンドンのセントラルタワーマンズが制圧する地域は思っているよりは狭い。ベロニカが住むスワンプケンジントンは元ロンドンシティ「セントラルタワーマンズ制圧地」と呼ばれている(原子力発電を有する市街)のはずれにある。


現在キングストリートを抜けてヴィンテージ・オークロードを越えればサウス(南)ハローズの近くの元ウェンブリー地区(検問をおこなっている北セントラル地域を取り囲む実質の国境)のハローズ制圧地域西入り口がある


今回ヨジャが夜逃げする先。北を制圧するハローズは元々は普通の郊外の北西の田舎町だったはずだが閉鎖されたロンドンの外との輸出入の橋がけとなっている。そのこともあってか大きな権力を持つ街となったハローズは閉鎖されたロンドンの北国と言える。比べてセントラルタワーマンズは原発頼みの弱い地域と噂されていることもあるほどだ。


だがハローズの街全域。検問所や農家、南のクイーンズ全域の電気もセントラルタワーマンズが供給していることから手出し無用の王族に対しての争いごとは滅多に起きない。

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