第10話 夜逃げの準備
午後六時三十分 ベロニカのアパート二階
オレンジの灯りで照らされたクローゼットは香水の匂いが充満している。四つある内の一つを全開にして中を眺めていたベロニカは奥の小部屋を見た。
外の街灯を入れている窓と内からクローゼットを照らす灯りの向こうで丸椅子とテーブルがカーペットの上で静かに佇んでいる。ベロニカは一度もその部屋を使ったことはない。
クローゼットの中には大きなスナイパーライフルと原始的なウィンチェスターライフル、ショットガン三丁が壁に立てかけてある。加えて双眼鏡や街の地図があり。前のベロニカの占い屋台が出していた場所が壁中に貼り付けられている
服かけには予備のガンベルトやゴツゴツとした防弾チョッキが欠けてある。占いをやっていると壁のアートもできるのだろうかカラフルで壁紙の代わりとしても使えるクオリティだ。
双眼鏡とハンディ地図の二つをベロニカは緑色の兵士用リュックに入れた。
「長物のライフルを何に使うために買ったんだか」
新品同様のライフルはそのうち使うかもしれないと思ってはいるがまだ使っていない。ベロニカはその中で唯一汚れている傷だらけの散弾銃を手に取った。
三丁の内の一つヘッドスプラッター(ダブルバレルショットガン)をストラップに通して背中にかけたベロニカはガンベルトのミント入れより少し大きい弾薬入れを確認した、ずっしりとした弾薬入れは無音でベロニカのガンベルトポケットに収まった。
ヘッドスプラッターの二発の弾丸に予備はない。
「シックスチャンスのバレットは満タンにしたと…後はコレか」
ベロニカは午前中にドワフォード三兄弟に押し売りにされたグレネードガンのケースを開けて立って両手で持ち眺めた、少しの衝撃程度では爆発しないのだが爆薬であることに変わりはない ベロニカはこの家に爆薬を置かないことにしている。前のベロニカが持っていた爆薬は全部、中古品を取り扱う「ユーズドッグスラム支店」に下取りに出した。
「使わないなら外に捨ててくるか、それともヨジャに持たせるか… 」
「そうしよう」
コートでガンホルダーと背中のヘッドスプラッターを隠したベロニカはケースを持ち上げクローゼットと二階の電気を消した フードを被りブーツの靴紐を閉めて階段を降りた。階段を踏み込む音が響く玄関前にミルクとチョコレートの匂いが漂ってきた。廊下の扉を開けるとヨジャがキッチンで鍋の中の液体を混ぜている。
「ありがとうヨジャ。後は任せて」
「これ、全部飲むんですか?」
小さな鍋の中一杯に煮詰めてある液体は1リットルほどはある。ベロニカは黄ばんだレトロな冷蔵庫(親知らず)からアイスメーカーを出してその中の氷を鍋に全部入れた。
「集中力を使うためにリソースがいるの、今日は片道はバイクで走るからホームレスと金がなくなった人と交戦する可能性が高い」
コレを全部飲めば、ベロニカのフォーカスは合計で二時間近く持つ
ベロニカは最後にキッチン台に置いてあるシナモンレモンサワー「ブラウンレモネード」の缶のプルを開けて鍋に流し込んだ。
ヨジャが鼻を摘んでゲホゲホと咳き込んだ、ベロニカはクスクスと笑った。
「この街にはシナモンがないのよ、この酒にだけ入っているから。コレを近くの店で買うようにしているの」
ヨジャは首を傾げている。
「もしかして記憶がなくなる前にシナモンで眠気覚ましをしていたとか」
ベロニカはフードの中に手を入れて髪を掻きながら鍋の液体を大きなジョッキに流し込んだ。
「さあね、最初に殺しをした時にぬるくなったこの酒缶がキッチンに置いてあったってだけよ」
「このケースに入っている銃に紐をかけて背中にからっておいてね、撃った方向が爆発して吹っ飛ぶらしいから、いざという時は使いなさい」
ヨジャはケースを手に取った。
(外の街に出るだけで、そんなに危険が伴うのかな?)
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