第20話元魔王幹部と戦え

「でもほら、ピンチの時はロード様が助けてくれるんだよね?」


「俺もそうだと信じたいけど、アートンさんとエディさんが屋敷にいることで余計安心してるみたいでさ……『俺もう帰らなくてよくね?』って言ってたみたい」


「なにそれ!?」


「現に今、俺たちまあまあピンチだけど駆けつけてきていない」


「嘘でしょ……」


 バシュ、バシュ、と小気味いい音をさせながらルーフが遊ぶように湧き出る蛇をやっつけている。でも、ダンが言ったようにキリがない。さすがにルーフも疲れてきていた。


「一度、凍らしちゃおうか。効果あるかな。ルーフ、交代。少し休んで」


 ダンが声をかけるとルーフが戻ってきて私の横にきた。ダンは片膝をついて地面に手を付けると呪文を詠唱し始めた。


 ピキ…ピキピキ……


 あたりの空気が急に冷たくなって、地面が冷気に包まれた。湧き出てきた蛇たちが凍って、カチン、パチンと音を立てて消えていく。こんな広範囲を凍らせることができてしまうの?? ひえええっ。


「止まったか?」


 しかし、シンとなった辺りにダンが地面から手を離すと、また蛇が現れる。


「これならどうだ」


 もう一度ダンが魔法を詠唱し出すと今度は一面が業火に焼き尽くされた。蛇は真っ黒こげ……パチパチと焼ける音とちょっと香ばしい匂いがする。


「やっつけた?」


 しばらく静かになったのでほっとしたが、また下から出てくる。結局、他にもダンが試みたが、結果湧き出る蛇は止まらなかった。


「もっかい、オレが……」


 少し休んだルーフがそう言って前に出ようとするがこのままではらちが明かない。兄たち二人をマルタは私の服を掴んで見ていた。


「あ……」


 そんなマルタを見て私は閃いた。


「マルタ、お歌を歌おう、私も一緒に歌うから」


「おうた?」


「うんと大きな声で歌うのよ。ほら、前に教えてあげた眠りの歌だよ」


「チコもいっしょ?」


「うん。一緒に歌うよ」


 そうして私はマルタと二人でドライアドのまじない歌を歌い出した。


「俺も歌う」


「オレも」


 なぜかダンとルーフも加わって、皆で歌を歌った。みんなの声は様々で、けっして上手くはなかったけれど、重なり合うハーモニーはなぜかしっくりとくるものだった。


 そうしていつしか屋敷全体静かになり……。


「くっそ、いくら日ごろ鍛えたからって、お前ら歌うなら合図くらい送れよな」


 と剣を地面に突き刺しながらエディ様がやってきた。


「ぎゃああああああっ」


 その片手にメデューサの首を掴みながら……。


「エディ、だから言っただろう! 首は持って行くなって」


 後ろからアートン様が叫んでいたが、蛇の髪を鷲掴みされたメデューサの首からは滴り落ちる緑の血……。絶対にトラウマ級のやつ……。せめてマルタの目を手で押さえることしかできなかった。


「だってさ、その辺に転がしたらまた胴体とくっついてメンドクサイだろ。俺だって子供たちが心配だからこうやって……」


「うわわあああああっ……!」


 バカバカバカ! 子供たちに見せないように後ろに向かせてエディ様を涙目で睨んだ。やめてよ、ほんとに。


「あ……その、ごめん」


 私は子供たちを連れて屋敷内に戻った。


 後から聞けば、目が合えば石化されてしまうメデューサとの戦いに苦戦していた時に、呪いの歌が聞こえてきて、メデューサが眠ってしまったのこと。日ごろマルタのいたずらで鍛えていた私たちは眠らずに済んだようだ。無事に二人でメデューサをやっつけられたと感謝された。


 そして一息ついたころに……。


「みんな無事か!? てか、なに!? 俺の住んでた屋敷どこ!?」


 と屋敷に戻ってきたのはロード様だった。

















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