第17話火を吹く子ドラゴン
ぎゃあああああん
ぎゃあああああん
「どうしたの?」
応接間に行けば青い顔をしてヒースを抱くダンがいた。どうにかあやそうとヒースを揺らしている。ルーフとマルタは新しい部屋に夢中なようでそこにはいなかった。
「急に泣き出したんだ」
泣きじゃくるヒースを受け取って、落ち着くようにと背中を擦るがヒースは大泣きしている。
「ずいぶん泣いてるな」
「すさまじい声だ」
アートン様とエディ様もその大きな声に駆けつけてくれた。
「体が熱いな……もしかしたら、体に熱が溜まってきているのかもしれん。普通は三歳くらいになるドラゴンの知恵熱かもしれん……」
「火を吹くってやつですか?」
「いずれは自由自在に火を吹くようになるが、熱を貯めて放出することを体が準備し始めるんだ。早くても一歳くらいだと思ってたがな……」
「それじゃ、チコが抱いてたら危ないじゃん、俺が抱くよ」
ダンが心配して私からヒースを受け取ろうとするが、ヒースの小さな手は私の髪の毛を掴んで離そうとしなかった。
ぎゃあああああん
ぎゃあああああん
「これは困ったな。ドライアドは火に弱いのに」
それを聞いて私はハッとした。父に鍛冶職人になりたいと言った時に過去聞いた言葉だからだ。
「ダン君、私の部屋のチェストの一番上の引き出しから緑色の瓶をもってきてくれないかな? 防炎剤なの。鍛冶仕事をするときに体に塗るものだから」
「わかった!」
アートン様がヒースが火を吹いたときに備えて魔法の詠唱を始めて、エディ様が秘宝と呼ばれている氷の剣を構えた。
ダンがすぐに私の希望のものを持ってきてくれたので私はヒースをあやしながら防炎剤を体に塗り込んだ。
ぎゃあああああん
ぎゃあああああん
「ヒース……辛いんだね」
体の中に熱がたまったヒースが辛そうに泣いている。なにもできずに私はただヒースの背中を擦った。
「ダン、危ないかもしれないからルースを連れてマルタの部屋に行け。あそこなら大丈夫だ」
「わ、わかった……チ、チコ……」
「大丈夫だよ、ダン君、ほらお二人もいてくれるから。ルーフとマルタを守ってあげて」
「うん……」
ダンは素早く部屋から出て行った。きっと二人を守ってくれるだろう。
「チコ、ヒースの顔は肩越しに火を後ろに吐くように固定して、そのまま背中を撫でていてくれ。エディ、ヒースが炎を吐いたらその剣ではらうんだ」
「こっちは任せろ」
アートン様が私の体に魔法をかけてくれる。体の表面が急に冷える。肌がビリビリしたが耐えれる。
ヒースの背中が光り出し、中に熱が溜まっているのが見て取れた。
「くるぞ、構えろ、エディ!」
おぎゃあああああっ
ぐご、
ぐごおおおおおおおっ
その衝撃に足にぐっと力を入れた。ヒースの口からまずはひとつ目の炎が吐き出された。
ごごごごうっ
ピキピキピキピキピキ……じゅわっ
「よし、上手くさばけたぞ」
ヒースを押えていることに必死な私は今の体制を保つことで精いっぱいだ。目の前には私に絶えず氷の膜をはる魔法をかけているアートン様。振り向けないが後ろに氷の剣を構えたエディ様がいる。アートン様の顔を見るとヒースの吐き出した炎は上手く立ち消えたようだ。
ぎゃあああああん
ぎゃあああああん
少し落ち着いたあと、またヒースが泣き出す。カチャリ、とまたエディ様が剣を構えた音がした。
「ヒース、頑張って……」
苦しそうなヒースの背中を擦る。またその背中が光り出して熱くなる。
「くるぞっ!」
ぐご、
ぐごおおおおおおおっ
同じことが何度も繰り返された。そうしてヒースが落ち着いて、苦しそうな顔が嘘のように眠ってしまうと、私はよろよろと膝をついてしまった。
「よくやったチコ。これでヒースの体内の炎が落ち着くだろう」
「はあ。もう、ドラゴンの子供ってみんなこれ? 末恐ろしいな」
氷の剣で炎を切っていたエディ様がぼやいた。たしかに赤ちゃんが出すには恐ろしい威力の炎だ。
「普通はランプの火くらいで済むはずだ」
「はあ……さすがロードの子だ。俺がきて正解だったな」
「本来ロードが対処すべきだがな」
「あの放蕩者め」
「大方、アートンと俺がいるから安心してどこぞの姫様と仲良くしてんだろうよ」
二人の愚痴を聞きながら、私は頑張ったヒースの頭を撫でてやった。こんな小さな体で、あんなに大きな炎を吐いたのだ。
「この発作はまたあるのですか?」
私が問うと二人が上からのぞき込んできた。スヤスヤと眠るヒースの天使の寝顔を見ると、ロード様への怒りも浄化されたようで頬が緩んでいる。
「何回かあると聞いている。この分では近いうちにまたあるだろう。エディ、予定は?」
「ロードが帰ってくるまではいるよ」
私が心配そうにアートン様を見上げるとそれに気づいた彼は私に微笑んでくれた。
「大丈夫、私も発作がなくなるまでは屋敷にいる」
「しっかし、ドライアドなのに防炎剤を塗ってヒースを抱き続けるなんてチコちゃん根性あるな」
「ほんとだよ、ダンに抱っこさせるつもりだったけど、やっぱり大人の方がよかったよ。ありがとう、チコ」
「これでも国一番の鍛冶屋の娘ですよ」
私がそう言うと二人はニコニコと笑っていた。
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