第14話屋敷の大改装4

「これは早急に対処しないとな。キッチンは防火魔法がかかっているから大丈夫だろうが、他は……」


 きょとんと座っているヒースを見てアートン様が渋い顔をしていた。ゲップで壁が真っ黒になるのだから相当な威力だろう。


「もしかしてドラゴンの国が雪山にあるのは……」


「火を吹いたときに大丈夫であるようにってのもあるかもね」


 隣で一緒に考えていたダンが私のつぶやきに応えた。


「これは屋敷まるまる大改装しないとダメだな……ちょっとロードを呼んでくる」


 そう言ってアートン様がパッと瞬間移動で消えたが、数分後すぐに帰ってきた。顔色が悪い。


「ダメだ、アイツあっちで修羅場だった。声を掛けようと思ったが、逆に巻き込まれる前に戻ってきた」


「まったく頼りにならない親父だな」


 呆れ顔でダンがつぶやいた。


「こうなったらもう、勝手にしよう。ロードのコレクション部屋がどうなろうと俺はしらん。あそこは手を付けずに他は勝手に改装しよう。火の海になるよりはましだ」


 そうして、皆の意見を取り入れた大改装が始まった。それには父の職人仲間も仕事をもらって、嬉しそうだった。両親も弟を連れて会いにきてくれて、子守を手伝ってくれたり、お弁当を用意してくれたりした。


 ヒースはあれから数回に一回はミルクの後のゲップで火を吹いてしまったけど、アートン様がすぐに対処してくれて大丈夫だった。


 そうして改装が進んでいたある日、騎士エディ=クロフォードがやってきた。


「おお、いいじゃないか。アートンから話には聞いたが、これでロードの悪業も厄払いできたらいいな」


 さわやかに毒を吐くイケメンである。


「エディさん!」


 しかし飛びつくダンとルーフを見て、微笑ましく思う。


「初めまして、エディ=クロフォード様。お話はダン君から聞いています。私はナニーをしているチコです」


「ああ、ロードのお手付きにならない珍しい娘! おー……なるほど」


 絶対私の胸元を見ていたエディ様である。失礼な。しかし私の視線で何かを悟ったのか『お、俺は無い方が好みだから』と訳の分からないフォローされてしまった。


 そうして合流したエディ様も含め、改装工事を見守ったり手伝ったりして過ごした。


「チコちゃん、これから自分でコントロールできるまでヒースはちょっと厄介なことになりそうだから、俺とアートンが交代で屋敷にいるようにするよ。まあ、だから俺とアートンの部屋も作ってもらってるんだ」


「そうだったんですか」


「アートンに料理上手だって聞いたよ。楽しみにしてるね」


「ええと……できる限り頑張ります」


 正直ヒースのことが不安だったのでアートン様かエディ様が屋敷にいてくれるのは助かる。いくら魔法を使えるからって、子供のダンに任せるのは負担が大きすぎると思っていたからだ。しかし、本当はロード様がすることだろうに……。どこに行ったんだ……。


 料理を楽しみにしてくれていエディ様には悪いが、改装が終わるまでは、私の母が届けてくれるお弁当だ。母がドヤ顔で持ってくるけど、本当は父が細かく指示して作っていることを知っている。料理は父の方が上手いんだけど、今は指が骨折で動かせられないからね。その指も回復に向かっているようで安心した。


 父の指が完治したら……工房は再開できる。


 そうしたら、私は修行のために家に帰るのかな。


 今考えても仕方ないか。


 アートン様に魔法を習っているダンと、エディ様に遊んでもらっているルーフを眺めながら、私はマルタとおままごとをした。広げられたシートにはヒースがすやすやと眠っていた。


「しつれいね~。あなたのほうがメギツネでしょう」


「あ、あの、マルタ?」


「あら、たとえられたキツネがかわいそうだったわね~」


「ま、マルタ……。普通の大人の女の人はそんなこと言わないから」


「かくしたふぜいがだまっておいで~」


「か、格下って……こわっ……」


 屋敷の中での間違った知識でマルタのおままごとが進む。その恐ろしい内容に殺伐とした女同士のやり合いが繰り広げられていたのかと思い、眩暈がした。


 子供たちの母親を招くことになっても、決してバッティングさせないようにしようと、私は心に誓った。


 そうして大改装は無事に終わった。心配していた壁は青から薄いブルーに変わった。付加した魔法も水から氷にしたのだ。……青でなくなっただけ許して欲しい。








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