第13話屋敷の大改装3

「オレ、のぼれるかべがほしい!」


「……これから寒くなるのでマルタにちゃんとした水槽付きの部屋を用意して、浴室を使えるようにしたいです」


「ダンが清浄魔法をかけてくれるだろ?」


「……実は数カ月前にこの屋敷では爆発的にノノッコが増えて大変だったのです」


「オレとダンがさされまくった~」


「ルーフが連れてきたくせに! ヒースが咬まれてたら大変だったんだからな!」


 ヘラヘラ笑うルーフに我慢ならないとダンが声を荒げた。


「ノノッコか……それは、大変だったな。確かに野山を駆けまわるルーフがいるなら風呂に入った方がいい」


「……あれからオレがんばってあらってるもん」


「あたりまえ!」


 私とダンが声をそろえるとルーフの耳がへにょりと垂れた。


「マルタはどんなお部屋がいい?」


「うーんと……チコといっしょ」


「えっ」

 

 マルタが私に抱き着きながら言うので、頭をなでまわしてしまう。かわいいっ。


「ずるいぞ、オレだっていっしょがいい」


 ウーフも鼻息荒くそう言ってくれるが、のぼれる壁のある部屋は嫌だ。


「マルタがもう少し大きくなったら、自分の部屋が欲しくなると思うよ。一緒はいつでもできるから、お部屋を作ってもらおうね。白いプールと虹色の壁紙とかどうかな。ベッドはひらひらのレース付きでピンク色とか」


「かわいいね?」


「うん、かわいいよ」


「うふーっ」


 私がマルタと女子トークをしていると無視されて不貞腐れたルーフが背中にくっついてきた。


「自分だけの部屋の方が特別で楽しいよ。ルーフの部屋は壁に上り木をつけてもらう? ぶら下がれる棒とかどう? ベッドはカッコいい色がいいね」


「かっこいい?」


 振り返ってルーフの頭をなでるとキラキラした目で私を見上げていた。


「チコは子供の扱いになれているんだな。カーネリーからは学校を卒業したばかりで仕事に就いたことはないと聞いたが」


「忙しい両親に代わって双子の弟たちは私が育てたようなものですから。あ、ダン君、私がミルクをあげるからアートン様に自分の部屋の希望を言えばいいよ」


 ベビーベッドに寝ていたヒースにミルクをあげようとしていたダンに声をかけて代わる。気になっていたようで、照れたように私にヒースを渡してダンがアートン様の前に座った。


 すでにダンがミルクは哺乳瓶に移してあり、温めてくれていた。魔法ってすごい。哺乳瓶とヒースを受け取ってミルクを与えている間もルーフとマルタがくっついていた。


「ダンの部屋は静かに読書ができるようにとチコに聞いたが?」


「えっ? そ、そうだけど。……うん。それがいい」


「アートン様、あれは私が勝手に言っただけなので、ダン君にちゃんと聞いてあげてください」


 前に思いついたままに言ったことをアートン様が覚えていたようだ。焦って訂正したが二人はこちらを見て笑っていた。


 アートン様はちゃんと子供たちの意見を聞いてから、ナニーとしての私の意見も聞いてくれた。ヒースは赤ちゃんなので手紙でも書いてサーラ様に聞いてみようということになった。


 大魔術師と聞いていたのでもっと偉そうにしてくるのかと思ったけれど、アートン様は子供たちのことをちゃんと考えてくれていて親切だった。


「さあ、ミルクはおいしかったかな。いい飲みっぷりですな~」


 ヒースを抱き直して体を立て、肩に顎をのせる形にして背中をトントンと叩いた。


 げふぅ……


 いつものように赤子とは思えないゲップの音が出たと思ったと同時に背中が熱かった。


「チコ!」


 驚いた声が聞こえてすぐに体の周りが氷で囲まれた。


「さ、さむっ!」


 なにがあったかわからなくて恐る恐る振り向くと私の後ろにあった壁が黒焦げになっていた。どうやら後ろが焼けて、それをすぐにアートン様が冷やしてくれたようだ。


「まさか、火を吹いたの?」


 ヒースの顔を見ると、満腹だからか口をムニュムニュしていた。か、顔だけは平和だ……。


「成長も規格外だったか……」


 心からアートン様が屋敷にいてよかったと思った。








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