第12話屋敷の大改装2
「ドライアドなのに料理が上手いんだな」
よほど朝食がお気に召したのかアートン様が褒めてくれた。
「父はドアーフで、手先が器用です。食通でも知られているので色々と小さい頃から教えてもらっています。サラダの野菜なんかは私の能力で育てることができますから」
「なるほどな。野菜までつくっているのか。道理でおいしいわけだ。ロードに惑わされることもなく、飯もおいしい。加えて性格もよければ子供たちが気に入るわけだ」
「あ、ありがとうございます」
べた褒めされると急に不安になる。即席ナニーだし、ダンに頼ってばかりだ。これといって得意なこともない。
「ヒースの母親がここに通うならその方がいい。一歳を過ぎたら火を吹くかもしれないからな」
「は? 火を吹く? それは赤ちゃんが泣きだして止まらないとか、そんな意味ですか?」
「いや、ヒースはドラゴンで、火属性だからな。文字通り成長すれば火を吹く。普通は三歳ごろだが……あのロードの血を継いでいるのだ、時期が早くなってもおかしくないし、規模も大きいかもしれない。今から対策をしておかないとな。詳しいことはおいおいヒースの母親に聞けばいい」
すやすやと眠っているヒースを見て血の気が引く。屋敷の中で火なんて吹いたら大惨事ではないか。
「サーラ様はどうも壁紙の色でなにか思い出すみたいです」
「屋敷の壁紙はマルタの母親のための水の術式が組み込まれていたが、ヒースの対策としても有効だ。だから壁紙は模様替えとかそんな簡単な問題ではないのだ」
「せめて色を変えるとか……」
「色も重要だからな。我が子に会いにこれないほどのトラウマなのか?」
「私にはわかりかねますが、サーラ様にとって辛いならそうなのだと思います」
「ロードが悪いのは重々承知なんだがな」
「モテるのなら一夫多妻制とか導入したらどうでしょう。それだと浮気じゃないし、甲斐性もおありですよね」
「はっ。ロードに寄ってくる女は自尊心が高いのばかりだぞ。ハーレムなんて許すわけがない。顔を合わせればすぐに血を見る結果になるぞ」
「ひいぃっ」
「とりあえず、数日はここに泊まるからその間に考えよう」
「あの、マルタがずっとお風呂場の浴槽にいるのも可愛そうです。あと、ルーフにはもう少し走りやすい運動場を。ダンには静かに読書ができる場所が必要です」
「……子供たちの意見も大事だが、チコの考えも参考にしよう」
そう言ってアートン様は客室に荷物を置きに行った。ノノッコ退治が完了していてよかったと心から思った。
「お昼だよ。そろそろ起きようね。アートン様がきてるよ」
お昼ご飯を用意するとみんなを起こした。こんなに寝坊したことがないとダンがショックを受けていたが、たまには寝坊だってしていいと思う。
「アートンさん、いつもは俺もルーフもちゃんと起きてるんだ」
言い訳をするようにダンがアートン様に言った。
「チコが疲れているから寝かしてやりたいと言ってな。ドラゴンの城まで弟妹達を連れて行ったのだろう。疲れていて当たり前だ。むしろよくやった」
「……うん」
アートン様に褒められたのが嬉しいのかダンの頬が赤くなる。ロード様ももっとダンを褒めてあげればいいのに。そもそも家に帰ってくるべきだ。
食卓には焼きたてのパンとソーセージ、サラダと焼いた肉、野菜のピクルス、果物のジュースを並べた。みんなが食べている間に浴槽を見に行くとマルタが人型になって抱っこをせがんだので、タオルで拭いてから着替えさせて連れてきた。
「海藻がいい」
食卓に座ったマルタのリクエストに応えて海藻を倉庫から持ってきて綺麗に洗った。食べやすい方がいいかと思ってハサミで一口大に切ってあげるとマルタが嬉しそうにそれを食べた。
「ルーフ、ちゃんとフォークを使って食べて」
手掴みで食べるルーフを窘めてフォークを持たせながら口の端に付いた肉汁を拭いてやる。これからマルタが食卓に着くなら、海藻を細かくしてスープにしてもいいな、と思った。
ふと、視線を感じて顔を上げるとじっとアートン様が私を見ていた。
「お昼ご飯はお口にあいましたか?」
「え、あ、ああ。このピクルスが肉にあうな」
「それはよかったです」
お昼ご飯も口に合ってよかった。子供たちに合わせて食事を出さないといけないのであまり凝ったものは出せなかった。きっとアートン様なら日ごろは豪勢な食事を取っているに違いない。
「俺、食べ終わったから代わるよ」
ドライアドの私は水さえあれば何日かは平気なのだがこうやってダンがいつも交代してくれる。お礼を言って簡単にサラダを食べると食べ終わった食器を片付けた。
意外にもアートン様はお皿を下げるのを手伝ってくれた。
そうして、みんなで屋敷の改装について意見を出し合うことにしたのだ。
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