第21話

ある雨の日の夜、南は大衆居酒屋のカウンターで酒を飲んでいた。

「共通しているのは、その店いちおしの料理をブログに載せないで、B級を載せてるってことなんだ。趣味ってやつ?」

「昔流行ったよな、B級グルメ。俺は、ラーメン専門だったな」

南の隣にいるのは、佐伯を紹介してくれた、週刊東京の記者である。

出来たての厚焼き卵をつまみながら、池綿について語る。

「田淵ヒルズに泊まって、何してんだろうな」

「あそこは怪しいぞ。オーナーの田淵自身が、女関係を隠すためにマスコミ対策で建てたようなもんだからな」

「VIPエリアってやつか」

「それだ。そのエリアがあるおかげで、何度も振り切られたよ」

「昔追っていたって言ってたな。黒だったんだっけ?」

「ああ、真っ黒だよ」

「あれだ、女優の姫子。一時期はスキャンダルで騒がれたな」

「時間かかったんだよ。寝ずの番で、警察に厄介になるほどの調査、というよりストーカーか? 面倒なことにもなってさ。若かったからできたようなもんだ」

「家族ができるとな、身が引けてしまう」

「同感。そういえば、佐伯とはどうだ?」

「接触したうちの稼ぎ頭が、なんか田淵ヒルズに行ってから様子がおかしくてな。何にも話してくれなくなっちゃった」

「思春期の娘をもつ、父親みたいだな」

「そうか?」

ふたりは、大学時代からの友人。仕事に行き詰まっては、こうして酒を交わすのであった。

「バレちゃったのかなー?」

「佐伯は曲者。バレたのかバレてないのか分からん。知らない間に目をつけられてたよ。VIPである著名人の秘密、つまり弱みを握って出世したきた男だ。マスコミ対策は抜かりない」

「はあ、なんでこんな大きいことになったかなー」

「南は、芸能人のスキャンダルとか興味なかったもんな」

「困っている身近な人を陰から助けるので充分だったんだがな。突然来ちゃって」

「まあ、頑張れよ」

「ああ」


南が事務所に戻ると、テーブルに、木箱がひとつ。

「お?」

付箋には、ふくちゃんからのメッセージが残されていた。

箱を開けると、メロンが入っていた。河合華奈のマネージャーからの差し入れである。

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