高級ディナー
第16話
夕方、事務所では、金田がディナーに向かおうと支度していた。
そこへ、ふくちゃんが急いで戻ってきた。
「間に合ったー」
「どうしました?」
「所長に頼まれたのよ。きっと金田は、あの服装のまま行くつもりだろうから、それなりの服を買ってこい、って。……ズバリ的中みたいね」
金田の着ている服といえば、パーカーにジーンズ、スニーカー。
「ダメですか? これ」
「ダメでしょー。ほらほら、着て」
ふくちゃんは、紙袋から、買ってきたワンピースを取り出し、金田に合わせる。
「似合うじゃん。自分で言うのもなんだけど、私のセンス、イケてる」
胸元に花柄の装飾がなされた、紺色のワンピース。
清潔感があり、落ち着いた大人のイメージが、金田に似合っている。
金田は、戸惑いながらワンピースに着替える。
着慣れていない金田に手を貸しながら、ふくちゃんが疑問をぶつける。
「っていうか、これから会う佐伯さんって、インテリ系イケメンなんでしょ? どうやって落としたわけ? まさか、パーカーにジーンズで会ったわけではないよね?」
「そのパーカーにジーンズですけど」
「えー! ……ありえない。仕事はできるけど、女らしさなんて微塵もないのにね」
「女らしさがないのが、珍しいと思われたのでは? 普段彼が働いているのは、金持ち連中があつまるビルですから」
「なるほどねー。計算だったの?」
「いえ、今思っただけです」
「でもさ、それあるかもね。富裕層には飽きたのかもしれない。って、金持ち連中って、急に言葉悪くなって」
「すみません。つい……」
「言葉遣いには、気をつけてよ。金持ちはね、慎重なんだから。ボロが出ないように」
「はい」
「ねえ」
「なんでしょう?」
「今日でデート、何回目なの?」
「デートというか、会うのは3回目です」
「どうやって出会ったの? 教えてよ」
「初日は、田淵ヒルズトーキョーの駐車場で、佐伯さんとぶつかりました。手にすり傷ができたので、佐伯さんが心配してくれて、警備室で手当をしてくれました。そしたら、お礼にと、カフェでコーヒーをご馳走になりました」
「ドラマみたいね。で、そのあとは?」
「初日はそれで終わりです。3日後、ランチ難民としてレストランフロアをうろついていたところ、佐伯さんと会い、ランチをしました。3日目が今日です」
「ねえ、ランチから、高級ディナーまでのステップが早くないかな?」
「そう、ですか……勘づかれましたかね」
「私の感覚だと、何か、スピード感がありすぎて、変かな。でも、当人がいいなら文句なし」
金田が、ワンピース姿をふくちゃんに見せる。
「どうですか?」
「うん。いいんじゃない? あとは、髪の毛、ちょっと巻いてく?」
「巻いたことないんですが」
「巻かないほうがいいか。金田像が崩れてしまうかもしれない」
「清楚かつ男に慣れていない女、金田さくらで行きます」
「うんうん。見た目、合ってるわよ」
「では、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「あの……」
金田は、ふくちゃんに何か言いたげだ。
「ん? どうした?」
「佐伯さんへの調査、すごく、やりにくいんです。今までも、たくさんの人に同じようなことをしてきたのに、今回は……」
ふくちゃんは、金田の気持ちを察した。
「まず大事なのは、ディナーを楽しむこと。いい?」
ふくちゃんは、金田を見送り
『清楚かつ男に慣れていない女、金田さくら。紺色のワンピースで、いざ初デート』
と、金田のワンピース姿の写真付きメールを、南に送信した。
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