第15話

河合とマネージャーが帰ると、南と金田が顔を見合わせた。

「大丈夫でしょうか」

「情報提供に疲れたというより、自分が知らない池綿の情報を得て、不安に駆られたってとこかな」

「急にへこんでしまいましたから」

「変に池綿を問い詰めないといいけど」

「さて」

ふたりは、河合の証言を踏まえて、情報を整理する。


「このブログ、1年半前からだよな」

「はい。4月1日。キリがいいですし、春は始まりの季節ですから、ブログの立ち上げに関しての不自然さはないですね」

「オムライスから始まり、ハンバーグ、団子、抹茶プリン、から揚げ、ペペロンチーノは自撮りだな。しゃぶしゃぶは、学生時代の友人の店で、友人が池綿がひとりで食べにきたことはすでに証言がとれている。親子丼と野菜スティックは、仕事仲間と休憩で訪れた店のもの」

「河合さんが最初に登場するのは、5月15日です。タピオカブームに乗ったのでしょう」

「流行ったもんなー」

「そのあとの店も、ひとりか河合さんといっしょかどちらかです。気にかけていた、9月下旬の中華集中に関しては、保留です」

「俺としては、2つに絞りたいな。11月15日の中華フルコースと、12月25日のクリスマスケーキ」

「同感です。特にフルコースは、ひとりでは行かないでしょう」


金田が、立ち上がる。

「夜、フルコースを食べに行ってきます」

南とふくちゃんは、大声を放つ金田に驚く。

「え? ひとりで?」

「……」

「浮くだろ。それに、ここ高いぜ。田淵ヒルズトーキョーの高級レストランだよ」

「予約してしまいました。払えないので、佐伯さんと行ってきます。でも、何かあったときのために、お金を貸してください」

「あー、なんだ佐伯ね。進んでたんなら教えてくれよ。何にも報告ないから、オジャンになったんだと思ってたよ。お、お金はね、たぶん佐伯が払ってくれると思うけど、一応経費から出しとくよ」

「ありがとうございます」

「ねえ、誰? 佐伯さんって?」

ふくちゃんは、まだ聞かされていなかった。


佐伯という人物は、南が出版会社に聞き込みにいったときに手に入れた、池綿につながる男。田淵ヒルズトーキョーを管理している、田淵カンパニーで働いている。

池綿の素行を追っていたときに、週刊誌の記者が情報をくれたらしい。

「週刊誌が狙っているということね」

「ああ、つまり、記者が素行を追うということは、怪しい影があるということ。探偵としては見逃せない男だよ」

「で、金田さんがその佐伯さんと高級ディナーね。いいんじゃない?」

ふくちゃんは、なんだか笑顔でいっぱいだ。金田に聞こえないように、南に声をかける。

「ねえ、佐伯さんって人は、いい男?」

「いい男だよ。未婚で恋人はいない」

「きゃー、プライベートな関係にもなっちゃったりして」

「実はな、佐伯はガードが硬いっていうか、慎重派で、食事に行くのは難しいと思ってたんだ。それが、高級ディナーデートだよ?」

「いきなり高級ディナーなのかしら? 何回かデートしてるんじゃないの?」

「そうなのか?」

「だから、照れて報告がなかったんじゃない?なんか、娘の初デートを見てるみたいでドキドキよ」

と、ふたりは盛り上がる。

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