第14話

河合は、金田とブログを見ながら、池綿と訪れた飲食店を思い出していた。


「このお店はどうですか? 軽井沢にある、イタリアンビレッジ。ピザの横、女性の手です」

「これは、私です。撮影現場が近かったので、打ち上げで行きました。スタッフさんもいっしょでした」

「撮影というのは、池綿さんもですか?」

「彼は、ついてきただけでした。実は、この日は私の誕生日で、彼は、打ち上げの時に、サプライズゲストとして呼ばれたそうです」

「分かりました。では、こちらのケーキはどうでしょう?」

「これは、クリスマスの次の日にふたりで食べました」

「クリスマスではなくてですか?」

「はい。たしか、クリスマスはふたりとも仕事だったかと」

「……なるほど」

金田の声が、暗くなった。


「河合さん。昨年のクリスマスですよ? 池綿さんと会ったのは、25日ではなく26日だったのですか?」

「えっ……と、たしかそうです」

河合は、少し不安になったようで、スマホの写真を確認しだした。

「26日です。見てください」

河合は、金田にスマホの写真を見せた。昨年の12月26日、池綿とふたり、ケーキもしっかりと写っていた。

「25日は、仕事だったんですか?」

河合は、25日の写真も見せた。

「これが、25日の夕食です」

写真は、河合とマネージャーの羽田、仕事仲間との食事風景だった。羽田が手帳で確認する。

「たしかに、昨年の12月25日はドラマの撮影をしていました。離島での撮影で、24日の夕方に現地入り、都内に戻ったのは、26日の昼過ぎでした」

「では、25日は離島にいらっしゃったんですね」

「はい」

金田は、引き続きブログを見せる。

「池綿さんの、25日の投稿です」

画面には、メリークリスマスと描かれたプレート付きのケーキがあった。

「これは、私は知りません。誰かといっしょだったのでしょうか」

「取り皿とフォークが2つ用意されていますからね。それに、ホールケーキをひとりでは食べないでしょう」

「ですよね?」

「このケーキを、後日食べたということはありませんか? 河合さんの分を残していたとか」

「ありません。26日は、私が買ったケーキですので……」

河合の表情が、曇ってしまった。

「河合さん? 大丈夫ですか?」

「あ、はい。すみません」

「あの」

と、横から羽田が質問する。

「ブログへの投稿が25日でも、25日に撮った写真とは限りませんよね」

南が答える。

「ええ、その通りです。しかし、23日や24日に撮ったとしましょう。池綿さんは、何のためにケーキの写真を投稿したのでしょうか。例えば、仕事仲間から頂いたもの、クリスマスは彼女といっしょだというイメージ戦略なんてのが思いつきます。もしかしたら、次の日河合さんとケーキを食べる予定だったのかもしれません。いずれにせよ、河合さんが見たことがないのであれば、調べる価値はありそうです」


「最後にひとつだけ」

金田は、疲れ切った河合の様子を見て、早めに切り上げることにした。

「池綿さんは、中華は好きなのでしょうか」

「好きだと思います。よく1人で食べに行っていたと、話したことがありました」

「河合さんは、どうですか?」

「私は、辛いのは苦手なので」

「そうですか。今日は、ここまでにしましょう。ありがとうございました」

「こちらこそありがとうございました。ブログの写真の多さに、驚きました」

「それは、私たちも同じです。河合さん、大丈夫だとは思いますが、今日お見せした内容は、池綿さんには内緒でお願いします」

「もちろんです。中途半端な詮索は、探偵さんのお仕事の邪魔になるでしょうから」

夫の浮気が不安でありながらも、河合は、気をしっかり持つよう、自身に言い聞かせているようだった。

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