第13話

事務所には、河合とマネージャーの羽田が来ていた。羽田は、テーブルの上に風呂敷を広げ、中身を見せた。


包まれていたのは、現金2,000万円。

「何ですか、この金額」

まさかの現金に、南たちは動揺を隠しきれない。しかしこの高額な現金を直接持参するのは、無名芸能事務所が育てあげ、やっと芽が出たばかりのタレントを守りたいという、事務所生命を賭けた誠意の表れだった。

「池綿の素行については、事務所としても目を光らせておりましたが、うまく逃げられてしまっておりました。河合とはすでに婚約を済ませていますので、後戻りすればマスコミが騒ぐでしょう。しかし、このまま進んでも、浮気がバレてしまえば、大変なことになる。マスコミに知られる前に、どうにか食い止めたいのです」


南は、真剣な眼差しの羽田の想いを受けとる。

「河合さんと池綿さんは、おふたりで出演されてるCMはありますし、オシドリ夫婦路線で売り出してますよね。浮気となれば、河合さんにも火の粉がまわってくるのは確実でしょう。しかし、この金額は……失礼ですが、芸能事務所というのは儲かるんですね。知っている限り、そちらに有名なタレントさんは……」

「河合くらいです。ですから、事務所としての誠意を、受け取っていただきたい」

後に引けない羽田は、土下座をした。

「困りますよ。こちらにもポリシーがありますから」

とは言いつつも、南は心の中で、経営難の事務所の資金に充てられると、喜んでいた。

ふくちゃんだって、背中を向けているが、すごく笑顔だ。


「そちらのお気持ち、お受けいたします。……預り金とさせていただきます」

「よ、よろしくお願いします。ところで、経過はどうなっていますか?」

「今は、池綿さんの周囲を洗っている最中ですので、浮気の中身についてはこれからです。浮気の可能性を、あらゆる面から調査しています。今言えるのは、池綿裕太の生活パターンと交友関係の仕組みを知った、ということでしょうか」

羽田も、池綿について知っている情報を話す。

「池綿は外食が趣味のようで、河合とも頻繁に食事に行っています。しかし、ここ最近は外食の機会が減り、仕事の関係でふたりがすれ違いになることがよくあったようです」

「池綿さんが外食が好きというのは、よく分かります。ブログに2、3日置きペースで外食レポートが載っていますので」

「浮気は、していそうですか?」

「今のところ、情報が少なくて判断しかねます。それに、不自然な点がいくつかあります」

「不自然な点といいますと?」

「そのことについてお聞きしたかったのです。河合さん、池綿さんのブログはご存知ですか?」

「はい。彼は外出が好きなので、よく料理の写真を撮ってブログに載せています」

「写真には、河合さんも写っていますよね。おふたりで行かれるのですか?」

「はい」

「実は、ブログには281店も掲載されていまして、河合さんがいっしょに行った店を教えていただきたいのです」

河合は、数の多さに驚いた。

「281店ですか」

「ええ」

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