第12話

時計が18時を知らせる。

事務所には、金田とふくちゃんがいた。


「所長と影野くん、遅いね」

「聞き込み帰りに、ガーリック餃子を食べてくるそうです」

「あー、さっきの担々麺専門店ね。本当に行くんだ。中華づくしだねー。所長も影野くんも飽きないのかしら」

「本当ですね。ふたりとも中華好きなんでしょうか」

「ねえ、所長の好きな食べ物、知ってる?」

「いえ」

「エスカルゴ」

「エスカルゴですか。居酒屋というイメージがあったので、意外です」

「でしょ? 枝豆をつまみに日本酒を飲んでるかと思えば、エスカルゴをつまみにワインを嗜んでいるのよ」

「おしゃれなんですね」

「池綿さんは、何が好きなの?」

「プロフィールでは日本食が好きということです」

「そうなんだ。一時期中華にはまった理由、なんだろうね。じゃ、私は定時であがりまーす」

「お疲れさまでした」

ふくちゃんは帰っていった。


金田は、ずっとパソコンの前から離れなかった。調べていたのは、ブログに写っていた、腕時計の男性。片っ端から、池綿の関係者の写真を拡大し、該当の人物を探す。

「7500万円の腕時計が買えるってことは、並大抵の稼ぎではない人……」


ふくちゃんが帰って1時間後くらいだろうか、南が帰ってきた。

「餃子、どうでした?」

「ヘルシーでおいしかったよ。ただ、専門店だけあって担々麺のほうがおいしいし、これが人気なんだよ。白ゴマ担々麺なんていうのもあってね、女性に人気なんだって。カップル、女性のおひとりさまが来てたな」

「おしゃれな店ですか」

「それにしても、B級ばかりだよ。池綿のことも触れなかったな。知らないのかな、池綿裕太」

「私は知りませんでした」

「金田の通勤路に池綿発見したんだぞ。公園前のバス停の広告にな。ビールを持った池綿。今度見てみ?」

「そういえば、影野さんはどうしたんです?」

「直帰したよ」

南は、コーヒーを注ぎにいく。

「金田、お前も飲む?」

「いえ、私もそろそろ帰ります」

「パソコンばっかりで疲れたんじゃないかー?」

「夢中になっていたので、楽しい限りです。ただ、眼は疲れてます。眼精疲労かもしれません」


南は、帰り支度をする金田に近づく。そして、真面目な口調で金田に尋ねる。

「ちょっと堅物かもしれないけど、優しい人ってタイプ? 眼精疲労にも効くと思うんだけど」

金田は表情を変えずに返事する。

「はい」

南が静かに笑った。



帰り道、公園前バス停でバスを待つ金田。

池綿を目の前に、一言つぶやく。

「イケメンは、眼精疲労を治してくれる。なーんてね」

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