第7話
事務所では、金田がひたすらパソコンで調べ物をしていた。
他の3人は、ソファーに座っていたり、椅子の背もたれに寄っかかったりとそれぞれゆったりと……いや、遠くの一点を見つめ、ボーッとしていた。
「まさかですね」
と、影野が口を開く。
「信じられない」
ふくちゃんも呆然としている。
「同じ男として、許せないですよ」
と、影野は怒りを表す。
「男はね、浮気をする生き物だから……とはいうけどさー」
「想定外です」
再び沈黙が起こった。
カタカタカタカタ……
金田がキーボードを打つ音が響く。
しばらくすると、時計のカチカチという秒針が、皆の心をつかんだ。
南が顔を両手で叩き、背伸びをする。
「あんな可愛い子を騙すなんて許せないよな。しっかし、一千万だぞ。こんなおいしい案件あるか? しかも、これで事務所の名を広めることもできるかもしれない」
南は、この案件にやる気満々だ。
「確かに。よく考えると、広告料なしで宣伝できるかもしれません」
ふくちゃんも乗り気になった。
「やりましょう」
「よし。とりあえず、金田、何か情報はあったか?」
「いえ、今のところは」
南が金田の見ているパソコンの画面を覗く。
「池綿裕太のブログです。外食が趣味のようです」
金田は淡々とブログをチェックする。
「いいもん食ってるじゃねーか。売れっ子俳優だけに、金が余ってるんだろ」
その画面を影野とふくちゃんも覗く。
「おいしそーう」
写真は、主に河合との2ショットに料理。見るからに敷居の高さがにじみ出ているレストランが、次々とあらわれる。
「仲は良さそうですよね」
「こんなに頻繁に2人で外食行ってるんだから、浮気相手が出る幕ないよね」
「確かに。ほぼ毎日ですもんね」
「こんな笑顔で、浮気してるなんて」
「なんか僕、この男見てるうちに嫌いになってきました。あんな清楚な女性を騙すなんて、許せない」
「いいぞー、影野。その怒りを仕事に生かすんだ」
幸せそうなカップルとグルメが詰まったページが、次々と出てくる。
「所長」
と、影野が落ち着いた面持ちで南に尋ねる。
「ん? なんだ?」
「これ、浮気していたら、大パニックですよね?」
「芸能人だからな。浮気をマスコミが嗅ぎつければ、叩かれるだろうな。難しいのは、探偵が動いていることを、池綿だけでなく、マスコミにも知られちゃいけないことだ。浮気でないとしても、探偵が動いたというネタでふたりを追い込んでしまいかねない。いつもの浮気調査以上に、気をつけないとな。……でもな、なんだろうな、浮気の匂いがしてきたんだよな」
南の勘だ。
「所長」
金田も何かあるようだ。
「私も、彼は浮気をしているように思えます。直感ですが」
南は、コーヒーを一口飲み、指示をする。
「さて、始めるか。金田はそのままブログ、ほかのSNSの調査を続けてくれ。影野はどうにかして池綿に近づいてくれ。俺はマスコミをあたる。ふくちゃんは、資金調達を」
「はーい」
「売れっ子俳優の化けの皮を剥がす機会だ。取り掛かれ」
そう、河合からの依頼内容は、婚約相手である池綿裕太の浮気調査。今クールにドラマで主演を果たしている人気俳優だけに、この案件は、大物になりそうだ。
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