第4話
3日後、唯一の案件の清算日。
事務所のドアの前で、スーツ姿の中年男性が深々と頭を下げていた。
「ありがとうございました」
和かに帰る男性を見送ると、ふくちゃんがにやにやしながら言う。
「終わったー」
それもそのはず。依頼が少ないこの事務所にとっては大事にしていた案件だし、不倫相手と別れさせるという、あまり労力のいらないものだったからだ。
「お疲れさん」
と南が、案件を担当した金田を労う。その様子を奥でひっそりと見ていた影野が出てきて、興味津々に見るのは、テーブルにある数十万円程の札束。
「これほどの現金って、はじめて見ました」
「そう? あっそうか、影野くんが来てから今回が初めてか」
「札束出した時はびっくりしましたよ。まさか、現金で持ってくるなんて。ふくちゃんは当たり前のような顔してたから、またびっくり」
「たまにあることよ。最高250万。分割でね」
「そんな金額持ち歩くなんて、不安でしょうがないですよ。ふつうに振り込みでダメなんですかね」
「あのな」
コーヒーカップを持ちながら、南が話に入ってくる。
「振り込みだと跡がつくだろ。通帳を奥さんが管理している夫婦って、世の中にたーくさんいるだろう? 個人名にはしてるけど、奥さんに誰? なんて聞かれたら、大変大変」
「特に今回は、不倫相手との絶縁だからね。しかも、奥さんに内緒で」
「なるほど……」
「奥さんに内緒で別れさせてほしいっていうなら最初から不倫するなよ、っていう話で」
「男はね……」
「浮気をする生き物だから」
「はい、ふくちゃんその通り」
「私もダテに40数年生きてないないですから」
「え? 40数年」
「なに影野くん」
ふくちゃんの視線を感じた影野は、話を逸らす。
「所長、ご結婚されてたんですね」
「ああ」
「美人なのよ、奥さん」
「へぇー。芸能人でいうと誰ですか?」
「んー、誰だろうな。吉田小百合。んー違うな。最近すごく懐かしく感じる子がいてね。若い頃の妻にそっくりな子。名前が出てこないな」
「もしかして、この前ドラマに出てた……」
「出てた出てた。そうだ、昨日の深夜にバラエティ番組にも出てたんだよ」
そのとき、事務所のインターホンが押された。
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