第13話 ビジネス成功!
「え~と、これは……?」
桁がおおくてパッと頭にはいってこないぞ。いち、じゅう、ひゃく、せん……。『点』はぜんぶコンマで、小数点はなし、と。ふむふむ、ってことは……。
「63億円!!」
「わあ!」
2人で手をつないでバンザイ! あつい抱擁!
「やった、やったぞー!」
いっきに大金持ちになった! シティでも通じるだろう。ニューリアンを……ミナシノを買ってもお釣りがくるほどの資産。予想を超える数字だ!
購入会のあとは何をしようかな……ああもう、ただただうれしい!
俺とアノヨロシは手をつないでバンザイをした。そしてあつい抱擁。クルクル回ったり、ジャンプもした。そのたびに部屋のなかの家具や調度品が揺れる。まるでダンスホールにいるみたいだった。
「ミーナ、また会えるよ……!」
アノヨロシの頬にひとすじの涙がながれている。ミーナ、か。あだ名でよぶほど仲がよかったみたいだ。ふたりが再会できたら、俺もすこしは力になれたって思えるかな?
購入会がたのしみだな……。
そうだ! さっそく購入会への申し込みをしなくっちゃ。シティのなかに入る手続きも必要だし、いい服もほしい。資産を守るためにセキュリティも考えないと。シティに移住したほうが治安がいいか? この宇宙船にも利点がたくさんある。どうしようかなぁ。
選択肢があるって素晴らしい。心からそう思った。
夜になると、目標金額にとどいた記念として、いつもよりたくさん食事をとった! ようやく泣かずに食べられるようになったアノヨロシを見て、ふと思った。
ミナシノもここで食べたら泣いたりするのかな? 反応がちょっと楽しみだ。
***
寝るまえに、もういちど残高を確認する。
「……すごい。まだ増えてる」
ホログラムを窓にかざす。部屋からみえる夜景といえば、イルミネーション豊かなタワー……シティの中心部。ほかは地平線のむこうでなにも見えない。近くにいっても壁がある。
「シティ、か……」
ごろりとベッドに横たわり、天井を見あげる。照明から放たれる光がまぶしい。決めるべきことはたくさんある……頭のなかで不安と期待がうずまき、心臓の鼓動を大きくしていく……。
ドドドド……!
「オーーーーナーーーー!」
叫び声とともに、とつぜん視界が暗くなった!
「とおっ!」
「え、ちょ――!」
ぼふんっ!
顔にやわらかい感触が……しかし、アノヨロシの胸じゃないぞ。何度も……その……体に当たったことがあるのだから、判別するくらい簡単さ!
ほんのりとした冷たさ、顔にぴったりとフィットする優しいやわらかさ。これは……。
「枕か!?」
「さっきからいてもたってもいられなくて! ちょっとつき合ってください!」
押しつけられたものを、はね返す勢いでベッドから起きあがる!
ばふんっ!
「ぶみゅっ!?」
「ずいぶんいたずらっ子になったね?」
「えへへへ……こういう私で、いいんですよね?」
「……そのとおり!」
自分のベッドにあった枕をつかみ、追撃をかける。顔面にヒット、枕どうしがバウンドしたぞ! すかさずキャッチ。
「俺の時代には枕投げっていうのがあってね……伝統的なスポーツなんだ。けっこう強いぞぉ?」
「楽しみですねぇ~……!」
攻撃は終わらない。俺はベッドの端で体を回転させ、勢いをつけて投げつけた。が、アノヨロシは体をそらし、かわしつつ枕をつかむ。くるりとアンダースローでばふっと投げててきた……!
「うおっ!」
勢いあまってベッドから落ちた俺。なんの、逆襲だ! 天井にぶつかるくらい高く、枕をほうりなげる。上に気をとられた隙をついて、正面を攻める。
「これでどうだ!」
渾身の一投。しかし――。
「ふとんバリア!」
「なにぃ、バリアだとぉ!?」
***
それからどのくらい枕投げをつづけただろう? 1時間以上かもしれない。とにかく楽しいひとときだった。肩で息をするほどつかれた……なのに、なんだかおかしくなってきて、涙が出てくるほどに笑った。
わずか数週間で、大金持ち。ここちよい疲労感と高揚感を抱きながら、俺はベッドへと――。
って、すでに丸くなったアノヨロシが熟睡している。
(俺のベッドで寝るの、これで何回目だろ……)
ええい、たまにはこっちから潜りこんでやる。俺のベッドなんだし、問題なしなし!
布団のなかに入ると、温かい体に抱きつかれて、とても幸せな気持ちになった……でもちょっとだけ恥ずかしいから背中を向ける。初めて会った日の夜と似た状況だったな……。
ひょっとしてアノヨロシ、抱きつき癖があるのでは?
そうだ、ミナシノはどういう子なんだろう? 仲がいいなら似たもの同士とか?
考えているうちに、まぶたが重たくなっていった――。
***
ついに、12月1日がやってきた。
買いそろえたフォーマルスーツに身をつつむ。
「よしっ。アノヨロシ、問題ないかな?」
くるっとまわって全身を見せる。
「かっこいいですよ」
「ありがとう」
「私のほうはどうですか?」
彼女のドレス姿は……美しかった。淡いピンクのロングスカートタイプで、上品さとかわいらしさを両立しているデザインだ。胸元のアクセサリがワンポイントに……。
(なんで松ぼっくりなんだろ……)
普通はバラとかを着けるのでは?
「よく似合ってるよ」
熟慮の結果、スルーすることにした。
「じゃあ出発しようか!」
***
スーツとドレスを着た男女が、オフロード車で荒野を走る……愛の逃避行? と自分でつっこみたくなる状況だな。
進むうちに、すこしずつ景色が変わっていく。岩だらけの荒地から、背の低い草花が生い茂る草原へ。そしてとうとうシティの壁に到着した。
初めて中へ入ることになる。ハンドルをにぎる手が、じんわりと汗ばんだ。
巨大なゲートの前にすすむ。平和局の人間がたくさんいた。上にも監視の目があるな……それもたくさん。
「通行許可証をだせ」
真っ黒なユニフォームとバイザーがかもしだす無機質な感じは、いつ見ても気圧される。でも、以前とは違う。今日の俺たちには、正式に通る権利があるんだ。なにも怖がる必要はない。
「はい、どうぞ」
しばしの沈黙のなか、スキャン装置の音だけがそこら中から鳴っていた。厳重だな……。やがて職員のひとりが近づいてきた。
「進んでよし。おい、進め」
さあ、いよいよシティ入りだ……!
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