第11話 1ヶ月で20億かせぐ方法
「くっ!」
絶望するな、芹沢星司!
いつまでも頭をかかえてちゃだめだ。
気をたしかにもって、情報を整理しよう……。
ニューリアンを買う、と意思表示するために3000万円。そこから指名順を勝ちとるべく、さらにお金を払わなければならない。
(落札にはいくらかかるんだ……?)
手はじめに、歴代最高額をしらべてみよう。ニュースかなにかを探せば出てくるはずだ。
「……あったぞ。第46期の『ツバメ』って子か……ららららら……落札価格、125億円!?」
記事をよみすすめよう……。
ニューリアンは、能力テストによって『総合スコア』が算出される。高ければ高いほど優秀だから、みんなで指名権をあらそうわけだ。
記事には、ツバメの『総合スコア』が151,774で、かなり優秀なニューリアンだと書いてあった。
(総合スコア?)
そういえば、アノヨロシが自己紹介で気まずそうに言っていた……『四捨五入して4000です』と。
スコアは身体能力・知能・習得技術・従順度などなど……をぜんぶ含めた数字。バランス型ほどのびやすく、一芸にすぐれるタイプは数字に出にくい。
ツバメのばあいは後者にもかかわらず、異例の落札価格だったと書いてあった。
2位からの価格をみていくと、20億円ほどでかたまっていた。おお、だんぜん安い……と感じてしまうが、『20億』。
ミナシノを『確実に』指名するため、同じくらいのお金が必要だとすれば、ワーキングボックスの稼ぎじゃ間にあわない。
(となれば……)
商売・ビジネスだ。とびきり大きな一発をあげる必要がある。大人になったら起業するのが夢だったけど……やるか。いま、この世界で!
予定よりはやく起業が実現……いや、西暦でいうと『遅すぎた』になるのかな?
ハードルはとてつもなく高い。でも、やるしかない。アノヨロシのためにも。
俺はVグラスがバッテリー切れになるまで、ネットをつかって情報を集めつづけた。
***
「アノヨロシ……ちょっといいかな?」
深夜まで調査をつづけたあと、部屋でアノヨロシに購入会のことを話した。
あまりの金額に、顔をまっさおにして泣きそうになったけど……必死になだめて、いっしょに稼ごうとはげました。絶対にミナシノを買う、と。
「いい考えがあるんだ、君の力を貸してほしい。明日あらためて相談しよう。だいじょうぶ、だいじょうぶだから……」
背中をさすりながら言いきかせているうちに、彼女はおだやかな寝息をたてていた。
(今日はお疲れさま。ありがとう)
なんかいいな、こういうの……胸にあたたかいものを感じながら、ふと気づいた。気づいてしまった。
たちまち顔から火がふきでそうになる。
俺たち……自然に、ナチュラルに、当然のように、ベッドで寄りそっている!
まるでこ、こ、こ、恋人みたいじゃないか!? 知りあって2日目だぞ!? まだはやい、まだはやいぃぃ!
自分に言いきかせながら深呼吸をくりかえす。20回目くらいで冷静さがもどってきた。
ちゃんと横にしてあげたいが、アノヨロシが服のすそを固くにぎって離さない。う~ん、起こすのもかわいそうだし、ゆっくり体をたおして……と。
きのうに続いて、添い寝するかたちになってしまった。
顔をよこに向ければ彼女の顔がある。
(かわいい寝顔だな)
あしたになったら朝食をとって、ひといきついたら話を――。
***
「あれ?」
いつのまにか、俺もねむっていたようだ。ベッドから起きあがって窓をみる。空はすっかり明るくなっていた。
アノヨロシの姿はない。ご飯の用意をしているのかな?
レストランコーナーの奥、キッチンに彼女はいた。
「おはようございます、オーナー。あの、昨夜はその……迷惑をおかけしまして……」
「いっ!? い、いえいえお代官様こそ」
どうしようもなく照れくさくなって、あいさつもそこそこのまま、席についてしまった。手伝うつもりだったんだけど、いま隣に立つのは恥ずかしい……。
心をおちつけるべく周囲を見わたす。ふたりで使うにはもったいないほど大きい。天井が高くて、照明もシンプルながらオシャレだ。壁は目にやさしい木目調。
宇宙船のなかとは思えないほど『レストラン』だった。
「おまたせしました!」
俺のとなりにアノヨロシがすわって朝のごはんタイムだ。ほかほかに温まったコーンスープ、の缶詰め。
俺はスプーンを口にはこびつつ、タイミングを見計らってきりだした。
「ミナシノの件なんだけどさ……起業しよう。1か月ちょっとで必要金額を手にいれるには、商売をするしかない」
「オーナー、危ないことをするんじゃありませんよね……?」
「もちろん安全だよ」
きのう調べたことを話す。
まずメインターゲットはシティにすむ人々に設定する。理由は簡単、お金持ちだからだ。
そしていま、シティは娯楽にとぼしい。マンガや小説のクオリティが低く、人気が落ちているらしい。
管理社会のなかで衰退していった。と考えればうなずける話だ。
昨年、つまり2332年のトップ作品だというマンガを読んでみたところ……俺でも描けそうな棒人間が主人公だった。
扉をあけて1話。
廊下をあるいて1話。
壁にほこりがついてるのに気づいて1話
水道の蛇口をひねって1話。
ごくごく飲んで1話。
モノローグで『うまい』と感動して1話。
とつぜんトイレにいきたくなって1話。
超スローペース、虚無のストーリー、なのに年間トップ!
評価・レビューには『トイレにいきたくなったところが意外すぎてすごい!』『水を飲んだのはトイレにいく伏線』などと書かれていた。
だから考えた。
『こんなのがすごいなら、俺の時代のマンガを読んだらどうなっちゃうんだ?』と。
2333年という時代、変わり果てた日本語の文字、そして――。
「ネットで見つけたんだ……当時のマンガを。著作権切れの古文書として『アーカイブ』に収録されてた。当時の日本語のままでね」
なぜかわからないが、俺はどちらの時代の文字も読める。そこにビジネスチャンスがあった。
「これを翻訳して出版する。電子書籍を使って」
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