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 結局そのひはほとんど一睡もできずに朝を迎えてしまった。

 いくつもの疑問とそれを解消する仮定が自分の貧弱な頭の中で立てられた。

 ベッドから這い出て洗面所の鏡で自分を見つめる。

「お前は、誰だ?」

 そう問いかけてみる。

 その顔は今にも答えてしまいそうな顔だった。



 自分自身、こんな唐突なことになるとは思わなかった。

 むしろ、もう会うことができないのではないかとさえ思っていた自分さえいた。今までひたすら集めてきた資料はなんだったのだろう。戦後資料の収集を名分に、ただ叶星の行方を探していただけではないか?そう考えてしまう。

 だけどもう深いことを考える必要はないと思う。だってもう会えるのだから。

 もう二度と会えないと思っていた人に。

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