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 関東の大学院を卒業してからは戦争心理学、特につい最近まであったこの内戦の後の人々の精神状態についてを専攻として道を歩み始めた。都心のはずれにあるとても小さな事務所で診療所を開いている。神尾の戦争難民は案外首都圏にその存在を隠して細々と暮らしている。その傍ら俺はこの内戦の資料を公開されている限り集め始めた。とは言えども公的に公開されているものはあまりないから資料を集めるのには苦労をした。

 わざわざ関東にまで出て心理学者になったというのには理由はいくつかある。

 1つは父の存在だ。

 父は内戦が終わってからも俺の家に帰ってくることはなかった。多分捕虜となったのだろう。父は軍としての位はかなり高かったはずだ。同じ様な境遇を辿っている家族を今まで何件も見てきた。今も皇国日本のどこかにいるはずだと信じている。だから、父の行方の情報を少しでも得られる様にこんなところまできた。

 2つ目は叶星の存在だ。

 叶星は結局あの夏休み以来会うことは無くなった。今もきっとどこかにいるのではないかと路地裏や朝の街を訳もなく歩くのはこのせいだ。そんなところに叶星なんているはずないのに。だけどいつも心のどこかで願っている。いつか叶星と出会えるということ、出逢えないとしても息災に暮らしているということを。






 ベットから這い出るようにずるずると起きる。

 鏡の前に立って自分の身だしなみをチェックする。相変わらず酷い顔だと自分でもつくづく思う。

 いつの間にかあんなに希望に満ちていた目が死んだ魚の様な目にっ変わってしまったのは何時いつごろだろうか。大学生の頃か、はたまたコウキと別れてからか、もしくは生まれるずっと前からか…

 まあそんなことはどうでもいい。時間は不可逆性だ。今更生き生きした目を取り戻そうとも思わないし、不可能だろう。

 そんなことを考えると涙が出てくる。

 いつの間にかこんな後戻りできない、もうどうしようもないところまできているのだ。

 自分が自分自身をきつく縛り付けて動けない様にしてしまっている。そんな自分の境遇に嘆きながら朝飯を作る。

 



 いつの間にか家族ができていた。

 自分でも信じれれないほど時の流れは早くなった。

 妻とは5年以上付き合っていたようだ。

 けれども自分の中ではほんの一瞬の時にしかすぎない。

 若かりしあの頃が懐かしく思える。



 いつの間にか子供も授かった。

 2人のこんなにも愛おしい存在がこの世にあるのだと考えるとまだまだ死ねないなと思う。

 けれども子供の養育として考えると責任が大きくなった。

 守られている立場から守る立場にいつの間にか変わってしまったのだ。

 もう俺を守ってくれる存在はいない。

 この愛おしい3人を守るしかないのである。

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