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叶星と一緒に帰っている。
今日はなぜか二人きりだ。いつも大抵決まって叶星が先に歩いている。話のペースも彼女が中心だ。いつもガキみたいにはしゃいで帰っている。
「いつもコウキくんと一緒にいる時、なに話してるの?」
叶星が聞く。
「普通の男子と変わらないさ。どうでもいい様なくだらない話をしてゲラゲラ笑ってる。」
「こうやってワタルくんと二人で帰ることなんて初めてだね!」
「ああ」
「あのね、私いつも夢見るんだ。」
「なにを?」
「いつかこの山を超えてどこか遠くの街で暮らすこと」
「運が良ければこの海のずっと向こうにあるまちでも暮らしてきたいなあ」
「それでね、その街でいつか作る恋人と二人でゆったりと生活するの!」
夢を語る叶星は一番幸せそうだった。
「仕事はなにするんだよ?」
俺が悪戯っぽく聞く。
「うーん…何か物語でも書いて暮らそうかな?」
「ワタルくんは何か夢とかあるの?」
急に彼女に聞かれてびっくりする。
「うーん…俺はいつまでもここで暮らしたいなあ。だから一生ここで暮らすと思う。」
なかなか将来の夢なんて聞かれることなんてないし、考えたこともないから流石に困惑する。
「えーっ!何か勿体無い感じ」
少しがっかりさせてしまったようだ。
いつかこの山
超えてみたいなあ…
急に目の前に閃光が広がる。
ここでいつも目が覚める。なんという夢だろう。もう何回も同じ夢を見た。絶対に体では慣れているはずなのに、いつも嫌な汗をかきながら目が覚める。そして少しの涙を流している。俺の近くから離れてほしくないから泣いているのであろう。多分その夢を見ている時の俺は嫌な顔をいていると思う。
コウキと話さなくなって以来、いつの間にか生活が順風満帆に動いている様にも見えた。その時は彼の存在が原因でどこか苦しい生活をしていたのだと思っていた。
だけどこんなことになった原因は自分自身にあると言うことに気付いたのはここ最近である。
子供も頃に気づかずに、大人の今頃になって気づくということはいくらでもある。
例えば両親の寛大さ、友人のさりげない心配り、先生たちの理不尽な怒り。
ことの本質がわかって、複雑に絡まり合っていた紐が徐々に解けていく感じがした。これまで気付かされたものはいくらでもある。逆に今その様な立場になり、とてつもなく大変になり、思い返してみるといろんな周りの人たちにひどいことをしてしまったなと後悔ばかりが増えるのである。文字通り恩を仇で返していたなとつくづく思う。
けれども今謝ろうとしてももう遅い。もうどこにいるのかわからない人なんてたくさんいる。
記憶なんて少しのはずみでどこかに行ってしまうものである。記憶はいつも不安定だ。自転車のカゴに入れてあるペットボトルみたいに、少しの段差で、はねてカゴから飛び出してしまう。
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