4
しかし、当時(今でも)鈍感だった僕はそんな異変に気づくことなく夏休みと言う時だけがすぎて行った。もちろん、叶星の異変に全く気づいていない訳だはなかった。しかし、他の可能性もあるといつも考えてしまい、いなくなってしまうなんて気づきもしなかった。自分が、そんな最悪な現実を受け入れようとしていなかったのかもしれなかった。
けれども、そんな不安は夏休み明けと同時にとてつもなく大きくなっていた。
僕たちの担任の黛センセイが
「宇田叶星さんは夏休みいっぱいで家族の都合上引っ越すことになりました。」
不慣れなせいか、声が浮ついているのが素人目に見てわかる。それにしてもおかしい。何の脈略もなく突然に僕たちの目の前からいなくなってしまうなんてあり得ない。どうやらワタルも同じことを考えていたらしい。朝のHRが終わるなり真っ先に僕の机へやってきた。
「おい、どう言うことなんだこれは?」
ワタルが聞く。
「そんなの俺にきくな」
「おかしい」
とてもまじめ腐った顔で言う。
「どう考えても何かがおかしい。」
「これは俺たちには先生に聞く権利があるはずだ」
放課後、僕たちは担任の黛センセイに叶星のことを聞きに行った。
放課後になるまで、授業中にいろんなことが心の中で渦巻いた。なぜいなくなってしまったのか?彼女はどこに消えてしまったのか?そのきっかけは何だったのか?さまざまな疑問が時間と共に一方的に増えていった。それに伴って自分の意識も遠のいて行くのがわかった。自分が自分ではなくなる。
「センセイ。叶星の転向先について教えてください」
「それがわからないのよ」
「何でですか?転校するのであれば転校先はしられている話ですよね?」
ワタルが捲し立てる。
「それが私たちにもわからないの。本当に突然のことだったみたいで…。」
「とにかく、叶星さんの転向先は私たちにもわからないわ。ごめんなさいね」
困り顔でセンセイは言う。
その日の帰り道は二人とも何も話さなかった。
別に心が通じ合っている訳ではない。
僕たち二人の目の前にはとてつもなく大きな何かがあった。
それにどう対処すれば良いかわからなかった。
その後、僕たち二人は彼女の家に行った。
そこで僕たちは呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
なぜなら、そこあったのは無機質な土と小さなショベルカーのみだったからである。
そこには、彼女の家族が住んでいたとても大きな家は跡形もなく無くなってしまったのである。
とうとう僕たちは思考を放棄した。
叶星は本当に僕たちの目の前から姿を消してしまったのである。
それ以来、ワタルとは話していない。
ワタルも話しかけなくなった。
この話題は表面的には時間と共に消えていったように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます