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「うみ!」
「きれい!」
屈託のない笑顔で叶星は僕たち二人に話しかける。
「神尾自治領というとかなりの人は東側のとても大規模な貿易港を考えるかもしれないけど、南側はこんなにも綺麗な浜辺があることを知らないんだ。何だかもったないよね。」
僕は、神尾の海は?と言われたら、真っ先にこの海を思い浮かべてしまう。しかし、大半の人は神尾の東側にある貿易港を考える。この貿易港は東アジアでもシンガポールや、香港と肩を並べるくらいのとても大きな港となっている。そんな地理的にも、環境的にも有利なこの神尾自治領は長らく皇国日本とその利権を争って対立している。それが顕著に、より大規模に現れてきたのがここ近年だ。それだけ、欲しいのだということもわかるし、同時に重要な場所でもあることがわかる。
「おいコウキ見ろよ、ヒスイだぜ?」
僕に話しかける。
「ここら辺でヒスイなんて珍しいな。」
さっきから彼は石を探してばっかりいる。
「ねえ海の向こうに船見えるよ!あれどこからきた船なのかなぁ?」
叶星が聞く。
「さぁ?わかんないけど僕たちが想像する以上に遠いところなんじゃないかな?」
二人ともくることなんて久しぶりの様なのでとてもはしゃいでいる。
確かに僕も中学生以来砂浜に来ることはなかった気がする。毎日海というものは嫌でも視界に入ってくる。だから、そこまでして砂浜に訪れるということに意味を感じれなかったのかもしれない。
その後、僕たち3人は石を探したり船を見たり海に入ったりした。
「きれい」
叶星が言う。
確かに、そこには文字通りとてつも無くきれいな情景が存在していた。海岸が東側に面しているため、日没こそ見えないものの、空にはオレンジがかった色と青に近い色が混ざり合って紫に近い様な不思議な色合いを作り出していた。そして沖合には大きな船がゆっくりと水面を滑っている。
いつの間にか海から少し涼しい風が入ってくる。日没の証拠だ。
「そろそろ帰るか?」
「そうだね」
彼女が頷く。
そこから僕たち3人だ並んで歩いた。
僕たちは何も話さなかった。
別に気まずい訳ではないが一言も喋らなかった。
ワタルと別れた後、僕は叶星と二人きりで歩くことになった。今にも壊れてしまいそうな不安定な沈黙を保たせるために僕は息遣いや、足音にさえも細心の注意を払う。
ふと叶星が
「コウキくん」
「今日はありがとう。」
「実は私あそこの海にほとんど行ったことがないんだよね。何でだろ。いつもあんなに近くにあるのに…。」
「でもここからいなくなる前に海についてしれてよかった。私もいつかどこか遠くに行っちゃうかもしれないから、それまでに私をいろんなところに連れて行ってね」
柔らかく微笑みながら彼女は彼女は去り際に謎の言葉を残して玄関に入っていった。
これを機に叶星とは会えなくなってしまった。
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