崩壊
1
長ったらしく、ぐったりするような梅雨も終わり、湿気が本当に鬱陶しくなり、虫の大合唱がそこらじゅうで鳴り響く喧騒にうんざりしつつけれども明日から待ち受ける夏休みというとても大きなもので、僕のストレスやらの心の負の部分は全て帳消しになった。一学期の終業式の放課後の暑い帰り道の途上で、ワタルに
「今日海に行かないか。」
と誘いをうける。
「何で?」
と僕は聞く
「なんでもさ。」
「俺たちに会いたいという人がいる。」
ワタルは何かを企んでいるような顔でニヤリと笑った。
「同じような人がいるということなのか?」
「違う。」
彼はかぶりを振ったが、なおもニヤニヤしていた。
「多分お前は相当びっくりすると思うぞ。」
別に断る理由もなく二つ返事で快く了承したが、少し怪しかった。彼は何をしようともすぐに顔に出てしまう性分なので、彼の思惑は何となく見当はついた。そもそも彼が僕と一緒に出かける誘いはあったとしても、具体的な目的地を指すことは滅多にないことである。
しかしある程度の人物像の検討はつきつつも、誰かわからない人と一緒に行くことになるのである。そこそこの心配を胸に残しつつ指定されたその時間にワタルの家へ向かった。
ワタルの家は僕の家から歩いて5分ほどしかかからない。
割と新しいような住宅で、まあまあでかい家だ。
僕も、一時期はそんな家に住んでみたいなあと考えたりしたこともあった。なぜなら僕の家は平屋建ての日本家屋だからである。母家と離れで分かれているから無駄に行き来するのが遠くてめんどくさい。だけどそんな夢や不満をぶちまけたり考えたりするのも馬鹿馬鹿しくなって、途中でやめてしまった。どうせこんな家ごときのちっぽけなものはこの広大な人生の中で1割も占めていない。そんなちっぽけな運命に争うだけ精神の無駄だし、時間の無駄であるという本質的なことに気付いたからだ。
時間はあったので特段急ぐこともなく彼の家へ足を向かわせた。
高校に入る前までも、高校には行ってからも数多と見てきたこの道だ。
なぜ彼の存在に気づけなったのかはいまだにわからない。これがいわゆる『灯台下暗し』というやつなのだろう。意外なものは本当に近くに村んざいしている。その存在が当たり前すぎてその意外さに気づかないかもしれない。
そして彼の家の前に着いた。
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