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猪崎弥いざきわたるは僕と同じ高校に通っていて、僕の人生の数少ない親友となった。

 彼の生まれは次跡からずっと北の方にある浅ヶ野あさがのというところらしい。皇国日本領内ということと、かなりの豪雪地帯だということは知っていた。そんな彼が引っ越してきたのは小学生の頃。同じ次跡の町に住んでいるのに、全くもって彼の存在を知らなかった。

 彼が引っ越してきた当時は、周りに旧知の知り合いなどいるはずもなく、学校でも独りでいることが多かったという。

 そんな状態じゃあ休日に外出するようなこともなく、それを見かねた両親らが、彼に自転車を買い与えた。要はこの自転車を使って、神尾の中を巡ってほしいというのと、子供に日光を浴びさせるという目的だった。

 両親の目論見は大当たりだった。彼は暇さえあれば外に出るようにもなったし、性格もガラリと変わったそうだ。そして何よりも、自転車という機械に強くなった。自転車というものを知り、改良、改造をしていた。彼の手先が器用になっていたのは、これが原因だろう。そのおかげか、それ以外の機械もいじれるようになり、扱いもうまかった。

 彼の父親は軍部に所属しており、前線で戦っているという。互いに連絡は取り合っているが、もう長いことあっていないらしい。

 そんな彼がなぜ皇国日本からこんな神尾自治領へ、さらになんでこんな海辺の集落に引っ越してきたかいう理由はとうとう聞けなかった。

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