第13話〜チームびっくり人間

 森之宮神社の燐瞳の部屋。ベッドの枕元に並べられたぬいぐるみの数々を掃除している最中、壁掛け時計の針が正午に差し掛かった時、扉がノックされ、開かれた。


「────燐瞳、服を買いたい」


 そう言ったのは、アメリアさんだった。いつもの修道服姿で私の部屋に来た彼女が、開口一番に挙げたのがコレだった。


 私は、「何かあったんですか?」と質問した。アメリアさんは、修道服にこだわりを持っていたからだ。彼女にとっての制服。それが修道服と言わんばかりに、どこかへ出かけるならこの格好だった。


「あの、なんか視線がさ……」


 アメリアさんは、視線を逸らしながらそう言った。なんでも、財団に所属していた頃と比べて、日本では修道服は目立つのか、出掛ける度に好奇の目で見られているのが気になっているようだった。


「流石に借りてばっかじゃ悪いし、燐瞳のお母さんに言ったら、凄い服出てくるし……」


「あぁ……お母さんの件は……ごめんなさい」


 そうだった。アメリアさんは、西洋人形のように綺麗だから、お母さんは着せ替え感覚で私の着ない服を押し付けるんだった。洋服だけならまだしも、下着まで着せたと聞いた時は卒倒しそうになったのを思い出す。


「……ショッピングモールに行きましょう」


 お父さんに車を出して貰えばすぐの位置に大型のショッピングモールがある。そこなら、店舗も多いから好みに合った服を選べるはずだ。


 ☆☆☆


「アメリア君が出かけるなら、薙くんとシヅキも連れて行ってもらえるか?」


 車の手配をお願いしにお父さんの所へ行くと、了承する代わりに提案された。ハヤト達が狙っている可能性の高い二人は、アメリアさんと一緒の方が安心できると付け加えるように言った。


「確認してみる……」


 果たして、薙くんが了承してくれるか……薙くんは遊び・・で神社にいるわけじゃない。彼は未だ、”鈴”の力を求めて試行錯誤している。


 ゆっくりと彼らの宿泊する部屋まで移動する。襖を少し開けると、少年姿の薙くんと、カジュアル姿の暦さんが座布団の上に座って会話をしていた。


「こうなったら、聖様から奪うしかないですよ」


「それは危険だって言ったじゃないか!?」


「……まぁ、最終手段はありますけども」


 会話というよりも言い合いに近かった。ここに割って入るのは気が引ける。しかし、私が襖を閉める直前、暦さんがこちらに気がついた。


「あら、燐瞳さん……」


「えッ!? あッ……どうも」


 仕方がない。そう思って襖を全開にした。薙くんは私に気付いてない様子で、ちょっとビックリしていた。


「どうしたんです? 燐瞳さん?」


「あの……アメリアさんと出掛けるんだけど、良かったら薙くんも……」


 チラリと暦さんを見ると、ギラついた目で私を見ていた。「この泥棒猫!」という幻聴が聞こえてくる。


「こ、暦さんも……一緒に」


「いえ、私は調べることがありますので」


 ……じゃあ何よその目は!?


「燐瞳さん……せっかくのお誘いですが、僕は────」


「いいじゃないですか、薙様。調査は私がしておきますよ」


 まさかの回答である。邂逅後、ベッタリだったあの暦さんが、薙くんの外出を許した。


「でも、暦……」


「私も後で合流しますよ」


 暦はギロっと私を見てから言った。


 ────あぁ、結局来るのね。


「燐瞳さん……くれぐれも、薙様を誘惑しないように」


「するわけないでしょ!?」


 やっぱり、暦さんは少し苦手だ。


 ☆☆☆


「買い物? 私いる?」


「お父さんが、シヅキちゃんも一緒にって」


 シヅキちゃんは、「あぁ、そういうこと」と、納得したようだった。


「じゃあ、服装はこんな感じで良いかな?」


 シヅキちゃんの服装が、コーラル色のシャツとミニスカート姿に変化した。


「いいね、シヅキちゃん!」


「で、移動は私? それとも閻魔様?」


「お父さんが車を出してくれるって!」


 シヅキは了承すると、「なんか嬉しそうね、燐瞳?」と私の目を見て言った。


 指摘されて、私が浮き足立っているのに気がついた。


 私は、薙くんやアメリアさんと遊びたかったのかもしれない。学校にも碌に通わない私には、同年代の友人なんていない。一般の高校生が経験する楽しい出来事なんて、経験したことがない。だから、こうやって出かけられるのが嬉しいのだと気がついた。


 ☆☆☆


 駐車場に集まったのは、私を除いて、アメリアさんと薙くんにシヅキちゃん。四人で私のスマートフォンの画面に映るショッピングモールの地図を見ながら、どこに行こうかと相談する。


「俺は服が買えればいいよ」


 アメリアさんには、半袖パーカーとジーンズを貸した。腕を組みながら彼女はそう言った。


「アメリアさん、燭台持っていくの?」


「当然……」


 ジーンズの上から普段している革ベルトと燭台が見える。


「私は特に欲しいものないけど、ゲームコーナーとか、どう?」


 そう言っているものの、シヅキは併設されているゲームセンターに興味津々だった。


「僕は……こことか良いかな」


「薙くん……そこ……仏壇とか販売してるところなんだけど」


 薙くんの指差した部分は、冠婚葬祭関係の専門店。流石に遊びで行く場所ではない。


「閻魔さん……今日だけ鈴を忘れろ」


 アメリアさんも気を遣っているようだった。


 今日の動きは、まず初めにアメリアさんの服を買いに行って、それからゲームコーナー。最後に、フードコートでアイスでも食べよう。薙くんは食べられないけど、代わりに何か買ってあげようかな。


「混んでないと良いわね、あそこ」


「あれ、今日って何曜日だっけ?」


「今日は木曜日だ……それがどうした?」


 シヅキに指摘され、思い出したように私はそう言った。反応したのはアメリアさんだった。彼女は、よく曜日を覚えている。


「あ、平日なら空いていると思う」


 これから向かうショッピングモールは、休日に家族連れやカップルが密集する、この地域のスポットなので、今日が平日なのに安堵の息を漏らした。


 ☆☆☆


 お父さんの車は、乗車定員ギリギリだった。助手席の私は、後部座席でアメリアさんと薙くんに挟まったシヅキちゃんを見て微笑んだ。


「……アンタが子供で助かったよ」


「子供扱いしないでよ」


 アメリアさんが、シヅキちゃんの頭を撫でると、彼女は不服な表情を浮かべた。


「着いたぞ、燐瞳……私は近くで用事があるから、終わったら連絡をよこしなさい」


「ありがとう、お父さん」


 平日のショッピングモールの駐車場は、思っていた以上に車が多かった。なんとか両側に駐車されていない場所を確保すると、お父さんは「ラッキー」と呟きながらそこに車を停めた。


 一斉に車から降りた私たちは、歩道を渡って入り口まで進む。無意識に私はシヅキちゃんの手を握っていた。それをアメリアさんに「側から見ると姉妹だな」と揶揄された。


 自動ドアが開くと、涼しい風が私たちの顔を撫でた。同時に、南の島を連想させる音楽が聞こえてくる。


「アメリアさんに似合いそうな服だと、一階のあそこかな」


 私は、「こっちこっち!」とアメリアさんに手招きをする。店舗の前のマネキンは、今の季節にぴったりの涼しそうなオーバーサイズのカラーシャツとワイドパンツを着ている。


「女物は分からんから、出来ればユニセックスのが良い」


「今来てる半袖パーカーみたいな?」


「そうだなぁ……」


 アメリアさんは、マネキンのカラーシャツを指で摘みながらそう言った。


「とりあえず何着か着てみましょうよ」


 私はアメリアさんに似合いそうな服を数着選んで手渡した。彼女はなぜか、「真面目なチョイスで助かる」と声を震わせる。


 ☆☆☆


「閻魔薙? 私たちは通路のベンチにでも座ってましょ?」


「そうですね」


 シヅキと薙の二人は、店舗から通路へ出る。通路は吹き抜けで、三階まで一望できる広い空間が広がっていた。二人して上を見上げて、「おぉ」と感嘆の声を漏らす。


 通路の中心には、棒人間のようなオブジェが複数建っており、そこの前にベンチが数脚置かれていた。そこから、店舗の燐瞳とアメリアが見えた。


「こういう所って来たことある?」


「ないですけど……でも、あそこの広場なんて、閻魔界の集会所にちょっと似ていますね」


 薙が指差したのは、ショッピングモールの中央に位置する広場。特設ステージが設けられ、壇上で男性二人が漫才を披露している。平日にも関わらず、客入りは良い。折り畳み椅子の半数以上が埋まっている。


「へぇ……有名な人なのかしら?」


 シヅキは、「テレビ見ないから分からないのよねぇ」と呟いた。それに薙も賛同する。


「……でも、ちょっと意外ね。こういった集合施設なんて、人が多いから貴方は慣れていないと思ったわ。よく平気よね?」


 そう言ったシヅキの表情は、”人に酔っています”と書かれているように見えた。


「僕は元々、人を裁いていましたから、この位の人数だったら経験ありますよ」


 薙は、「それに……」と一瞬躊躇するものの、言葉を続けた。


「それに……風切さんの入院費稼ぐのに、駅前で占い師なんてやっていましたし」


「あぁ……そうだったわね」


 連盟の掲示板に、”謎の新人占い師が登場! 弱小占い師のワイ、経営の危機”というスレッドが立ったのをシヅキは思い出していた。


「あれは、もう二度とやりたくありません……」


「まぁ、私も他人の事、とやかく言えないし……気にしない方がいいわよ」


「……やっぱり何かやらされていたんですね」


 以前から勘繰っていた薙は、シヅキの発言に食いついた。シヅキは言いづらそうに、「アメリカで、通販の運送の手伝いを……」と小さな声で返事をした。


「あまりにも発送が早いから、”お急ぎ便”って呼ばれていたわ」


「…………」


 薙は返す言葉がなかった。空間の神の力が、そんな使われ方をしているのがショックでならなかったのだろう。


「ま、まぁ……私も蓮華君が日本に来たから……多分やらないわよ」


「……そうですか」


 その後、燐瞳達が戻るまで気まずい雰囲気が二人を包んでいた。対象的に、中央広場から会場を湧かす笑い声が聞こえてきていた。


 ☆☆☆


 アメリアさんはマネキンと同じコーデを選んだ。試着室から出てきた彼女は、モデルなんじゃないかというくらい完璧な着こなしを見せていた。心なしか、遠くで品出しするメガネの女性店員もアメリアさんに見惚れていた気がする。


「……じゃあこれ買う」


「お、お客様ですと、こっちもお似合いになるかと」


 まさかの女性店員の介入である。品出し中の、ブラウンのミニトップスと七部丈の黒のパンツを持ってくる。受け取ったアメリアはとりあえず着ることに。


「どう? 結構動きやすいな」


「かっこいい……」


 私は近くにあった黒のハットを手に取り、「これも被ってみたら?」と手渡す。スッとハットを被ったアメリアは、まるで映画から抜け出した俳優のようだ。


「あの、写真撮ってもいいですか?」


 まさかの店員が撮影しようとスマートフォンを取り出した。


「あまりにもお似合いなので……」


 お店のSNSに載せたいと交渉を始める店員。


「いや、写真は……」


「値引きさせていただきますので!」


 店員は白い壁の方へアメリアを誘導し、様々な角度からシャッターを切り始める。私は試着室に残った服を見張りつつ、その様子を眺めていた。


 ────あの姿で燭台を振るうアメリアさんが見たい。


 ふと、彼女が戦う姿を想像してしまう。海外映画でありそうだなと思いながら、試着室の鏡に映る自分を見た。


 ────それに比べて私は、なんか地味だなぁ。


 肩にかかる黒髪をポニーテールにでもしてくれば良かったと後悔する。


「か、買うから! そろそろやめてくれ!?」


「お客様、こっちも着ていただけませんか!?」


 アメリアさんにハンガーをいくつも差し出す店員に恐怖を感じ、「アメリアさん! そろそろ行きましょうか!」と声をかけた。彼女は、「そ、そうしよう!」と走って試着室に飛び込むとカーテンを勢いよく閉めた。


 その後、店員から割引クーポンを受け取ると、試着した二つのコーデが入ったカゴをレジに通し、そそくさと店を後にした。


 ☆☆☆


「薙くん! シヅキちゃん! 遅くなってごめん!」


 洋服の入った紙袋を引き下げてアメリアさんと共に走って二人と合流する。


 なぜか二人の顔は沈んでいる。一体、何を話していたんだろうか。


「アメリアさん、買えました?」


「と、とりあえずは目標達成……」


 こちらの様子に唖然とする薙くんの質問に、アメリアさんがサムズアップで返事した。


 ふと、近くのカフェの窓ガラスを見た。そこに映る私たちはカラフルだ。


 新緑の髪の薙くん。ブロンドヘアーのアメリアさん。藤色の髪のシヅキちゃん。


 私だけが黒髪。このメンバーの中では逆に目立つ。


「燐瞳、ちょっと来てくれ」


 三人が何か話していたようだった。聞き逃した私は、言われるまま、近くの雑貨屋に入った。


「お礼にヘアピンでもどうかと話してたんだよ」


 アメリアさんがそう言って、飾られてある青いリボン型の髪飾りを手にとる。


「いいですね、青色! 燐瞳さんのイメージにピッタリですよ」


 薙くんが髪飾りを見て笑った。隣でシヅキちゃんが「後ろで束ねて付けてみたら?」と言うので、商品の手鏡を使ってポニーテールにしてみる。


 私たちの後ろから声がかかった。


「緑に紫、金に青……カラフルなメンバーですね、燐瞳・・さん?」


 振り返ると、暦さんが立っていた。白のシャツにデニム、カットソーというカジュアルな出で立ちの彼女は、桃色の髪をショートボブにしていた。


「こ、暦……調べ物終わったのか」


「私も、桃レンジャー・・・・・・として参加しても?」


「戦隊モノかよ」


 不適な笑みの暦さんの物言いに、アメリアさんが呆れていた。暦さんはアメリアさんの頭を撫でながら、「いいじゃない、男の子は好きでしょ?」と言うも、アメリアは嫌がって首を振った。


「どっちかと言えば、女児向けアニメみたいなカラーリングね」


 シヅキちゃんが冗談でそう言った。


 ────私は黒髪なんだけど……


「いや、”チームびっくり人間”だな、こりゃ」


 暦を振り切ったアメリアがそう言うと、暦さんの冷静なツッコミが入った。


「人間は燐瞳さんだけでしょ」


「俺もだよ!?」


 アメリアさんは人間扱いされていないことに衝撃を受けていた。


 ☆☆☆


 買ってもらった青のリボンを付けて、私たちはゲームコーナーに移動した。二階の一角にあるゲームコーナーは、あまり広くない。所狭しと様々なゲームが稼働している。


 平日の午後だけあって人があまりいない。時間的に、これから学校帰りの学生が増えてくるんだろうなと予想した。


 シヅキちゃんは、前々からやりたがっていたゲームがあるようで、「今日こそ皆伝してみせるわ」と置いてあったプラスチックの脚立を持って音楽ゲームコーナーへ向かっていった。


 ────あぁ、これは偶に来て遊んでいるな


「あ、シヅキさん? そのゲームなら私も知ってるから一緒にやりましょ?」


 なぜか暦さんも付いて行った。


「……ねぇ、暦さんってゲームするの?」


「いや、僕は見たことないけど……」


 薙くんが、「そもそも閻魔界にゲームはないよ」と付け足す。


「あ、でも最近、周芳さんのパソコン借りて何か見てたな……」


 死神も動画サイト見るの……?


「俺はゲームとか分からんので休む」


 アメリアさんは、近くの自販機でコーヒーを買うと入口付近のベンチに座って飲み始めた。ここから全員が一望できるので、私もアメリアさんの隣に座った。


「……薙くんはどうするの?」


「僕もゲームは分からないから……!?」


 そう言いつつ、薙くんの視線はクレーンゲームに向いていた。


 というより、その前に立っている人に向いていた。いつ入ってきたのか分からないけど、スーツ姿で足元に細長いジュラルミンケースを置いた短髪の男性がクレーンでお菓子の詰め合わせを必死に取ろうとしている。


 年齢は二十代後半。高身長のその男性に、見覚えがあった。


「あれ……蓮華君!?」


 私の一言に、アメリアさんと薙くんがビクッと身体を震わせた。


 少し遅れて、蓮華君もこちらに気がついたようで、チラッと私を見てバツの悪そうな表情を浮かべた。


「……昔から、ここはアームが弱いな」


 文句を言いながらこちらに向かってくる蓮華君。その姿は、”連盟最強の男”という異名を一切感じさせない。


「な、何してるの!?」


「あ、貴方は……確か、神社の会合で……」


「おいテメェ!? 連絡も寄越さず何遊んでんだよ!?」


 私たちはそれぞれ口にする。


「ここのゲーセンは十年前によく通ってたんだよ。近くに来たから寄った」


 蓮華君は、ショッピングモール近くにある施設に用事があったみたいで、今はその帰りだという。


「アンタ……なんでそんなヤバイ物・・・・持ってきてんの?」


 アメリアさんの右目が一瞬だけ蒼く光る。その目線は、蓮華君のジュラルミンケースに向いていた。


「君だって、燭台を持ってきてるだろ?」


 そう言って、蓮華君は薙くんに向き直った。


「会合ではチラッとしか会えなかったな、閻魔薙……改めて、みなもと 蓮華れんげだ」


 蓮華君の右手は、今日は普通の人間の手だった。薙くんと握手する蓮華君は、どこか悲しそうだった。


「……どうしたの?」


「いや、閻魔薙を見て、昔を思い出しただけだ」


 このゲームコーナーは、かつて蓮華君とお兄ちゃんが足繁く通った場所なんだとか。私もそれは知らなかった。


「二人して、ぬいぐるみを取るのに数千円出してたよ」


「あれ? じゃあ、燐瞳さんの部屋にあるぬいぐるみって」


 薙くんの言葉に、「昔、春人が取ったやつだな」と回答した。


「アメリア」


「……あぁ?」


 蓮華君は、アメリアさんの持つ紙袋を見て、フッと笑うと、「……燐瞳達をありがとう。近いうちに連絡するよ」とだけ口にした。


 アメリアさんは、「あぁ、待ってる」と噛み締めるように答えた。


 ☆☆☆


 シヅキちゃんと暦さんが戻ってきた。二人も蓮華君の存在に「どうしてここに!?」と声を荒げた。


「揃ったな……ほら、燐瞳! これで写真でも撮ってこい!」


 蓮華君の手から、百円玉が五枚ほど投げ渡された。その目は、とても優しい光を灯していた。


 この情景を、今ここにいる五人を、画像として保存しておけ。それは後々、大きな財産になるから。そう言っているようだった。


「なら、蓮華君も!」


「俺はいい! これは、お前達の思い出だ! 大人の入る余地はない」


 蓮華君は、「俺には俺の思い出がある! だからお前らはお前らで作れ!」と、そう言い残し、去っていった。最後にこのゲームセンターをグルリと見渡した彼は、少し名残惜しそうにこの場を去ったのだ。


「はんッ! 粋なことする奴だな!」


 アメリアさんは洋服の入った紙袋を肩に背負い、ニッと笑ってプリクラのカーテンを開けて入って行った。次にシヅキが入り、暦さんに手を引かれた薙くんも入る。


「燐瞳さん!」


 薙くんが私に手を伸ばした。私は、彼の手を強く握り返し、五人はカメラの前に立った。


 五人で入ると少し狭い。


「二列になりましょうか? 私と燐瞳さんは後ろ。薙様と天使ちゃんで中央のシヅキさんを挟んで!」


 暦さんが身長差を考慮した配列に我々を並べ替える。所定の位置についてから、私は硬貨を数枚入れてモニターの操作を行った。


「せっかくだし、笑えよお前ら?」


「天使ちゃんに言われるまでもないわよ。ね? 薙様?」


「わ、笑う……頑張るよ」


「そんなに固くならなくて良いわよ閻魔様? 気楽に行きましょ?」


「そうそう、後でみんなに落書きされるんだしね! 薙くん!」


 五人はそれぞれのポーズを撮ってシャッターが切られた。


 何度も、何度も……


 ────このメンバーでまた来たいな


 印刷された写真を配りながら、私は、”チームびっくり人間”と落書きされた思い出を胸にギュッと抱きしめた。

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