閑話〜影の住人達②

 ……時間内に捕らえられなかった。


 聖は、山岳を駆け降りる。その姿は、上半身に白のワイシャツを羽織り、下半身はグレーのスラックスを履いている。一見ビジネスマンに見えるが、両腕に竜の刺青が入り、右の頬に十字の切り傷が入っている。一般人は近寄り難いだろう。


 ……こんな姿になったのも、浮遊霊から剥ぎ取った衣を継ぎ接ぎして纏っているためだ。座礁後、追い剥ぎしなければ俺は生存できなかった。そのせいで目立って仕方がない。


「お疲れのようですね、聖さん?」


 上空から俺を呼ぶ声がした。見上げると、左半身に黒い片翼を展開した銀髪の男が降下してくる。


「ニコラス……」


 コイツは、俺が座礁した数十年後にここを訪ねてきた変人の仲間。俺が神の降臨方法を模索する中、その方法を持つと言った”ハヤト”の同胞。そんな神の復活を望む男、ハヤトの姿は見えない。


「今日はハヤトはいないのか?」


「あぁ、彼は我々の拠点探しをしていますよ」


 ニコラスは着地すると片翼を閉じた。彼の衣服には、ところどころが焼き切られた跡が見える。おそらく、以前言っていた”追手”だろう。


「昨晩、派手にやりましてね……やっと撒いたところですよ」


 ため息をつくニコラスと同時に俺もため息が出た。よくよく考えれば、閻魔の力の制限時間を全て使い切ったのは久しぶりだ。過去にハヤトに言われ、連盟とかいう組織の連中を蹴散らすのに閻魔の力を使ったが、勝負は一瞬でついていた。


 薙……お前とは今でも互角だというのか


「そういえばニコラス、神を解き放つ方法が見つかった」


「おぉ! ついにですか! あ、まさか……空間の妖怪を使うなんて言うんじゃないでしょうね」


 過去にハヤトは空間の妖怪を利用して空間の狭間をこじ開けようとしたことがある。その時は連盟の人間に阻止されたようだったが……


「……こじ開けるんじゃない。空間ごと移動させる」


 過去にハヤトがこの方法を試していなかったのが疑問だが、俺は薙を使って神を降臨させてみせる。


「……では、ハヤトに報告するとしましょうか」


 少し考える素振りを見せたニコラスが手を差し出した。あくまで判断はリーダーに委ねるってか。それに、俺もコイツらの組織に数えられているのか。


「もう飛べないでしょう? そろそろ”悪霊化”を検討してみては?」


「俺は……閻魔として神に仕えたいんだよ」


「せっかく”神への執着”って未練があるのに残念ですね」


 大人しくニコラスの手を掴むと二人は空の彼方へと消えていった。

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