第7話 日本の魑魅魍魎
翌日、八代と仲野は事務次官室を訪れた。事務次官の田中は厚労省のトップである。医師免許は保有しておらず、事務能力でのし上がった実力者だった。厚労省に数多いる医系技官達を自身の力を使い、退官後の天下り先を斡旋する事で権勢を誇っていた。
「君の上げてきた法案は医系技官達にすこぶる評判が悪い」
医系技官達に散々文句を言われたせいか、すこぶる機嫌が悪そうに二人に伝えた。普段田中に対しておべんちゃらばかりを使う医系技官達がそうまでして反対するには理由があった。医系技官が所属する日本医師連盟は、自分達主導で感染症に当たりたいのに、専門の組織を国に作られたら、自分達の発言力が低下してしまう為だった。
「仲野君、君の医療改革案だが、出来るのかね?日本医師連盟は絶対に反対するぞ」
「反対はさせません。この改革案以外で次のパンデミックを乗り越える事も出来なければ、日本の医療制度を守る事も出来ないです」
仲野は田中を説得しようとするが、田中の言葉は軽く、違和感があった。それに気づいた仲野は考え込んだ。
「昨日の今日でこの案を提出すれば、田中事務次官の評価も上がるのでは?」
八代が黙ってしまった仲野の代わりに田中に手柄を手にしませんかと下手にお願いするが、
「私は来年退官予定だ。今更評価など上がっても意味がない」
八代の説得すら一笑に付した。
(あっ!?)
この田中の発言を聞いて、仲野は違和感の正体に気づいた。その違和感の正体は一昨日に松本が話していた天下り先だった。そう感じた仲野は翻意させる為に咄嗟に口が動いた。
「感染症病院が設立されたら、専門の医師を室長に呼びますが、病院運営のトップは決まっていないんですよね」この仲野の発言に、田中は今まで険しかった顔が綻んだ。
「そうか、まだ決まってないのか?あてはあるのかね?」
田中は来年退官するので、その後のより良い条件の天下り先を探しているのだった。
仲野は何かを企んでいる顔をしており、ようやく
八代も田中の思惑に気付いた。
「感染症対策病院院長のポストには厚労省の事務次官として長く活躍してこられた田中事務次官が相応しいと思います」
「そうかね?私は色々な所から引く手数多で忙しいのだだがね」
満更でもない癖に勿体ぶる田中に辟易しながらも仲野は真剣な表情で田中に訴えた。
「初の役職なので、待遇はどこよりも破格に出来ますが、余程の人物で無ければ、日本医師連盟と渡り合えないので困っていたのです」
仲野のが言う余程の人物を自分だと思っている田中はご満悦だった。
「私が受けてあげても良いのだがね」
「えっ?やっていただけるのですか?田中事務次官程適任はおられないのですか?」
仲野は内心では思っていない事を精一杯の作り笑顔で喜んだ。
「よろしい、私がこの案の旗振りになってあげよう」
こうして仲野が作った感染症対策法案は厚労省の案として内閣に提出する事になった。
未知なる医療 美心徳(MIKOTO) @bitoku
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