培った力①
懇願にも似た俺の言葉を打ち砕くように、砂埃の向こうで人影がユラリと立ち上がる。
「……やったか、だと?フハハ。その問いの答えは貴様が一番よくわかっているのではないか?ツヴァイよ」
「くっ………」
腕の一振り。たったそれだけで周囲の砂埃を吹き飛ばすと、魔王は何事もなかったかのように姿を現した。
(やはり魔王の名は伊達ではないか。イツキの一撃でもあまりダメージが通っていない)
上空から軽やかに着地したイツキは、唇を噛み締める俺の隣にバックステップで並ぶと、気だるそうに首を振った。
「な~によ。魔法一辺倒かと思ったら、案外頑丈なのね。メンドクサッ」
吐き捨てるように呟くイツキの表情にはいつもの余裕が感じられない。きっと彼女なりに手応えはあったのだろう。
そんな俺達に追い討ちをかけるように、魔王は高笑いをする。
「クハハハハ!それで全力か?……ならば、遊びは終わりだ」
「遊び……だと?」
「そう。我にとって貴様らとの戦いなど戯れに過ぎん。……だが、この魔王ヌルに一撃を入れたことは評価してやろう」
「そりゃどーも。お望みとあれば、あと十発だろうが百発だろうが入れてやるわよ」
「フン……減らず口を。まあ良い。そんな貴様らに敬意を表し我が固有魔法を見せてやろう」
辺りの空気が一瞬で変わった。一片の油断も許されないような、重苦しい空気。なるほど、これが魔王の実力と言うわけか。
「我は誰も信用しない。期待もしない。親も!師も!同輩も!そして魔王軍の部下達も!全員……全員だ!そして我が魔法は、その考えが形となったモノ!刮目せよ!『
魔王が杖を振り上げると、床から黒い影の様なものが次々と立ち上る。五つ、六つ、七つ……。徐々に数を増やすソレらは次第にその姿を変えていく。
「これは……魔王の分身か?」
「その通り!我が唯一信頼をおける者。それは我自身なのだ!」
「ハン!寂しい奴ね」
「なんとでも言え。そんなことより、自分たちの心配をしたらどうだ?」
両手を広げ、魔王がそう言った頃には魔王の影は十体にも増え、俺達を取り囲んでいた。
「こやつらは魔力、腕力共に我と同等のモノを持っている。さて、どうする?」
「そんなの、決まってんじゃない……ねえ、ツヴァイ」
「フッ。まあ、お前はいつもそうだったな」
イツキに軽く視線を送ると、俺は手にした得物に力を込める。そして、各々が手近な魔王の影に飛び掛かった。
「「先手必勝!!」」
ヌルリとした手応えの後、二体の影が真っ二つに切れる。
「所詮は影!攻撃面は魔王と同等かもしれんが、耐久面は大したこと無いらしいぞ!」
「ええ!このまま一気に押しきる!」
俺達はそのまま三体、四体と影達を切り伏せる。だが、俺が次の影に向かって突きを繰り出そうとした時、驚くべきことが起こった。
「……まさか」
背後から感じた僅かな殺気に、体を捻る。そこには、新たに生み出された影達が次々とこちらに向かって反撃の体勢をとっていた。
「イツキ!後ろだ!」
「えっ!?……あっぶな!」
火と風の魔法が背後から襲いくる。魔王の影が放ったのだ。それを俺達はすんでのところで何とかかわした。
「まさか、あいつら無限に湧いてくるんじゃないでしょうね?」
「クハハハ、安心しろ。無限ではない」
影達の向こうで、魔王が笑う。
「
「チッ……」
魔王ヌルの持つ魔力量はまさしく無尽蔵。奴はそれ故に『魔王』なのだ。
「だが、他に突破口はない!行くぞ!イツキ!」
「わかってるわよ!」
そうして俺達は再び増え続ける影達に斬りかかっていく。
全方位から襲いくる魔法攻撃をかわしつつ、次から次へと影を切り伏せる。だが次第に、そして確実にその差は広がっていった。
「クソっ!」
「ヤッバ!」
俺とイツキは背中合わせでぶつかった。更に増え続ける影は、俺達の周囲を囲むとその隙を逃すまいと一斉に魔法を放つ。
「イツキ!近くに来い!
咄嗟に固有魔法を発動すると、全方位を守るドーム状の防壁を張り巡らせる。だが、それが悪手だった。
(攻撃が……途切れん!)
火が、水が、土が、風が俺の防壁を破ろうと絶えず襲いかかる。しかも、連中の手数はほぼ無限。弾切れを待つにはあまりに部が悪い。
「くそ……このままでは」
「フハハハ!さあ、影達よ!最大出力でそやつらを擦り潰すのだ!」
もはやこれまで。俺がそう感じた次の瞬間。聞き覚えのある声が俺達のすぐ後ろから聞こえてきた。
「クカカ!なぁ~にやってんだよ、パイセンにクソ勇者」
(俺の防壁の中に誰かが?そんなハズは……いや、アイツの能力なら)
そう思った瞬間。俺達の体は魔王の影の包囲を抜け、部屋の隅へと瞬間移動していたのだった。
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