培った力②

 俺の防壁さえ潜り抜ける瞬間移動の魔法。俺達はこの能力ちからの持ち主を知っている。


「なぁにやってんだよ。テメーら」


 俺達を影の包囲から救いだした張本人。四天王の一人、フュンフはそう言うとケタケタと肩を揺らして笑っていた。


「フュ、フュンフ!なぜ貴様がここに!?」

「そうよ!それになんでアタシ達を助けたの!?」

「おいおい、いっぺんに聞くなって。俺っちにだって順序ってモンがあるんだぜぇ?ま、なんで魔王城ここにいるかってんなら、コイツのおかげかねぇ?」


 人を小馬鹿にしたような笑いを浮かべたまま、フュンフは懐から水晶玉のような装置を取り出した。


「それは……確かフロイデの持っていた?」


 魔王軍技術開発局局長・フロイデ。彼が開発したとされる発明品の一つに、似たような物があったことを俺は思い出した。

 四天王の一人、アインス殿の固有魔法・千里眼ホークアイ。遠く離れた土地や人物を俯瞰の視点から見ることのできる彼の魔法を、フロイデはその水晶玉で擬似的に再現していたハズだ。


(ならばフュンフはあの魔道具を使ってこの位置を特定したというわけか?)


 そんな俺の腹の中を見透かすようにフュンフはニヤニヤと笑う。


「ま、大方パイセンの予想通りだぜぇ。ほら、俺っちってば、あの一件以来すっかり謀反者扱いでさ。魔王軍から刺客がくる一方なのよ。で、だ。あんまりリマの町に魔王軍が押し掛けて来るのも迷惑だし、ガキ共の教育にもわりぃ。つーわけで現状を打破する為に魔王様に直談判しようなんて考えたのよ。俺っちは」


 フュンフは水晶玉を指先で弄びながら、ヘラヘラとこれまでの経緯を語る。


「だが、よくよく考えりゃあ新参の俺っちにゃあ魔王様の所在がよくわからねぇ。だからよぉ。元上司のよしみでフロイデ大将に頼んでみたんだ。『なんかいい道具ねぇか?』ってな」

「そんでその水晶玉を貸してもらった訳ね?」

「ケケケ。そーいうこった。……んで飛んで来てみりゃあ、テメーらが大ピンチだったっつー話よ。あーあ。せっかくならもうちょい様子でも見てりゃあ良かったぜぇ」

「相変わらずだな……。だが、助かった。感謝する」


 頭を下げた俺を見ると、フュンフはプイッとそっぽを向く。


「ケッ!ただの気まぐれだ。勘違いすんなよ」

「んん~?あららぁ?もしかしてフュンフ。アンタ照れてる?」

「アァ?んだとクソ勇者!」


 敵地のど真ん中だというのに口喧嘩を始めるイツキとフュンフ。そんな二人の言い争いを止めたのは他でもない、魔王ヌルだった。


「楽しいお喋りは終わったか?」

「あら?わざわざ待っていてくれたのかしら?」

「どうせ貴様らは今生の別れとなるのだ。最後くらい待ってやろうと思ってな」

「ケケケ!お優しいこった。そんなら魔王様よぉ。優しいついでに一つ、俺っちの頼みを聞いちゃあくれねぇか?」

「断る。負け犬の命乞いを受け入れる道理など我には無いのでな」

「負け犬?……負け犬か。だろうなぁ。ケケ!確かにあんたはそういうヤツだ」


 フュンフは可笑しそうに笑うと、魔王を指差す。


「魔王軍の為に戦い、敗れた俺っちのことなんか歯牙にもかけねぇ。それどころか役に立たないと簡単に切って捨てる。クケケ!」

「それがどうした?信用ならない弱者を排除して何が悪い?」


 悪びれる様子もなく魔王は首を傾げる。その言葉にフュンフは底意地の悪そうな笑顔を浮かべた。


「信用ならない、ねぇ。ケケケ、やっぱりわかっちゃいねえよ、アンタ。部下を信頼できねぇ頭が部下から信頼されるわきゃねえだろうが。だからこうやって部下達に足を掬われる。ケケ!」

「要は貴様も勇者につくという話だろう?……自惚れるなよ、若造が!臨時で四天王の座についた新参ごときが寝返ったところで、何の問題もないわ!」

「だぁかぁらぁ……言ってんだろぉ?アンタを信用してねぇのは、部下だってよぉ」


 フュンフがいい放った直後。『バリン!』という音が魔王城の玉座に響き渡る。その音の正体が、ガラス張りの天窓を突き破る音だと気付いたのは、が俺の名前を呼ぶのと同時だった。

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