リベンジマッチ②
「……勝者、ツヴァイ殿!」
小細工無しの全力のぶつかり合い。その果てに、俺はイツキを押し出すことに成功した。
体格、重量……。俺に有利な要素が多いこのスモウという競技。それでも尚薄氷の勝利。
(勝った……と、言えるのだろうか?)
そんな俺の疑問を払拭するように、イツキが背中をバシッと叩いた。
「やってくれるじゃない!」
「イツキ」
「アタシをタイマンで負かしたヤツは、アンタが初めてよ。誇りなさい」
それと同時に、仲間達からも拍手が巻き起こる。
「二人とも、素晴らしい取り組みでしたぞ」
「ご主人!かっこよかったよ!」
「勇者様も流石でした!」
息を切らしながら、イツキは握手を求めてきた。きっと俺の心情を察して、ああ言ってくれたのだろう。その気持ちが嬉しくて、俺も握手に応じる。
「ありがとう、イツキ……って、痛だだだ!」
彼女は俺の手を握り潰さんとする勢いで右手に力を込める。そして、俺の体を引き寄せると耳元でぼそりと呟いた。
「次は絶っっ対負けないから」
「…………」
ああ。そういえばこいつ、かなりの負けず嫌いだったな。少しでも感動した俺の気持ちを返して貰いたい。そんな意味も込めて、俺はイツキの右手を握り返す。
「望むところだ」
「ふふん。そうこなくちゃ」
嬉しそうに笑うと、彼女は俺の手をパッと離してカタリナの方へと歩いて行った。
そして、『勇者イツキに勝った』という事実。それは少なからず俺の自信にも繋がっていくのだった。
「では皆の衆!少し休憩したら再開しますぞ。そもそもこれは四天王対策の為の訓練ですからな」
「あ~……。そういやそうだったわね」
「ああ。フィーアの身体能力は驚異的だ。少しでも接近戦での技術を身に付け、体を強くしておいて損はないハズだ。無論、後衛もその例外ではない」
俺の言葉に、ミアとカタリナも頷く。
「うぅ……。体を使うのは苦手ですが、頑張ります」
「ボクも
そうして俺達はラウロンの指導のもと、日が暮れるまで互いに切磋琢磨したのだった。
翌朝、俺達は日の出と共に夜営地を後にした。勿論、目指すは最後の四天王・フィーアがいるとされる火山地帯だ。
「しっかし、暑いわね」
目的地が近づくにつれ、気温が上がっていくのがわかる。火山に囲まれているのだ、当たり前といえば当たり前なのだが。
「本当に暑いですねぇ。あの、大丈夫ですか?ツヴァイ様?」
「……あ、ああ」
嘘だ。とてつもなく暑い。
全身を包む分厚い鎧は、辺りを漂う熱気を際限なく吸収し、俺自身の排熱を阻害する。だが、先程から定期的に襲い掛かってくる野生の魔獣から身を守る為にも、ホイホイと鎧を脱ぐ訳にもいかない。
「ふぅ、ふぅ。老体には堪えるのお。それに、ここいらはずいぶんと強力な魔獣が生息しとるんじゃな」
「……ああ。あの、戦闘狂のフィーアが、わざわざ、住んでいるのだ。……喧嘩の、相手にでも、しているのだろう」
「ねえ、ご主人?本当に大丈夫?フラフラだよ?」
昨日からの歩き通しに加え、魔獣との連戦。そして、この気温だ。思った以上に体力を消耗しているのかもしれない。故に、カタリナやミアに心配をかけてしまったようだ。
(大丈夫だ!俺は問題ない!)
……おや?声が出ない?その上、頭痛と眩暈もしてきたようだ。なんとかせねば。……ん?視界が傾いていく。俺は倒れたのか。いかん。意識が、遠く……。
「あぁーー!懐かしい顔じゃねーか!って、もしかしてぶっ倒れてんのか?ツヴァイ!……おい!おーい!……チッ!情けねーな!」
聞き覚えのある女性の声が、倒れ伏す俺の頭上から降ってきた。だが、その粗暴な言葉使いの主を確認することなく、俺の意識は深い闇へと落ちていった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます