リベンジマッチ①

 正面に立つイツキを見ながら、俺は頭をガシガシと掻く。


「あー、なんだ。こんな始まり方にはなったが、正直嬉しくもある」

「そりゃあそーよね?こんな美少女とくんずほぐれつ出来るんだもの。アンタ幸運よ?」

「いや、そこはどうでもいい」

「アァン!?」


 睨みを聞かせるイツキの顔に、俺は思わず吹き出した。それが気に食わないのか、彼女はグルルと喉を鳴らす。


「ふっ……、いやスマン。ただ、こんな形とはいえ、お前にリベンジする機会ができたのが嬉しくてな」

「リベンジ?」

「ああ。お前達と初めて戦ったあの日。俺の自慢の固有魔法はお前の混沌の一撃カオスブレイクによって脆くも崩れさった」

「へえ。アンタもやっぱそういうの気にすんのね」

「当たり前だ。だから、スモウとかいう競技の中とはいえお前と再び戦えるのは、俺にとって幸運という他ない」

「あっそう。なら、リベンジに燃える相棒の為にも、頑張らなくっちゃね。アタシ」


 笑顔で答えるイツキ。だが、その背からは並々ならぬ闘気が見え隠れしている。そんな彼女に気圧されぬよう、俺も気合いを入れ直す。

 俺達の様子を感じ取ったラウロンが、こほんと小さく咳払いをした。


「両者、準備はいいみたいですな。それでは、ミアッテミアッテ、ハッケヨーイノコッタ!」


 その掛け声と共に、俺とイツキは円の中心で激しく衝突する。


「グ、ヌオォ……」

「くっ、むむむ……」


 ガッチリと組み合い、数秒の拮抗状態が訪れる。だが、それも長くは続かなかった。

 単純なパワーは互角に近い。その上体格は俺が勝っている。だが、規格外の瞬発力がその差を埋める。


「どっせぇい!!」


 俺の体の下に潜り込むようにイツキは身を沈める。そして、そこから一気に捲るようにして俺の上半身を突き上げた。


「うぉっ!」


 バランスの崩れた俺は一瞬にして、円の際まで押しやられる。


「この……、舐めるな!」


 間一髪。身を捻りイツキと自分の位置を入れ替える。この一手により、押していたハズのイツキは窮地に立たされることになった。


(よし!このまま外に……)


 勝負所と判断し、俺は彼女を押し出そうと前に出る。だが、彼女は再び懐に潜り込むと、ズルズルと俺の体を中央近くまで押し戻す。


「そう何度も、同じ手をくらうと思うなよ!」

「……!?」


 身長差を活かし、懐に潜り込んできたイツキを、俺は上から押し潰そうと力を込める。体重ウェイト×パワー。円の外に追い出すのではなく、地面に手を着かせる。それが俺の導きだした最適解。だが……。


「負・け・る・かぁ!!」

「うおっ!」


 弦の切れた弓の様に上半身を弾き起こすイツキ。俺の体はその反動によって後方へと吹き飛ばされる。


(危っ!)


 よろめきながら下がった俺は、地面に手を着きそうになりながらも、何とか体勢を立て直す。そして、危なげ無く窮地を脱してみせたイツキの顔を見た。


「ふん。流石は勇者サマだ。簡単にリベンジさせては貰えんらしい」

「アンタこそ。少しはやるようになったんじゃない?」


 互いに軽口こそ叩いているものの、薄々感じてはいるだろう。この勝負、次で決まると。


「さ、どこからでもかかってきなさいな。このスーパー勇者様が胸を貸してあげるわ」

「他人に貸すほど胸はないだろう。お前」

「……殺ス!」

「ハッ!受けて立つ!」


 恐らくこの試合、最後の攻防。俺とイツキは再び激しくぶつかりあった。意識がトンでしまいそうなほどの衝撃が全身を駆け巡る。その際に発生した風圧は、周囲の草木を激しく揺さぶった。そして数瞬の後、審判であるラウロンは、勝者の名を高らかに宣言したのだった。

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